2008年9月は久しく登っていなかった山を登ることが続いた。朝来山に氷ノ山三ノ丸と。そこでもう一つ久々に訪れても良い山はないかと考えたとき、すっと奥播州の秀峰、千ヶ峰が思い浮かんだ。1999年2月に神河町側から登って雪の山頂を踏んだが、それ以来ご無沙汰していた。その千ヶ峰を登るコースを考えたとき多可町側のルートは人が多そうで敬遠するとして、また神河町側から登ろうか、それとも深谷山から縦走しようかと考えていたとき、南の多田坂から縦走路を歩いて近づくのも面白いのではと思えてきた。ただ多田坂からの往復ではコースとして単純すぎるので、少し変化を持たすことにした。多田坂に近い569mピーク(点名・南山)から歩き出す案で、まず南山に登り、次に南山のそばを通る林道を北東方向へと歩いて尾根の縦走路に至り、後は縦走路で千ヶ峰に向かうというルートだった。そして下山はすんなりと多田坂へと引き返して戻る考えだった。
向かったのは2008年9月最終土曜日で、数日前より漸く秋らしい涼しさが出ていた。神河町の越知川沿いの車道を北上していくと、越知谷小学校を過ぎた辺りで越知川の左岸に別荘風の家の並んでいるのが見えてきた。そこを目標に越知川の左岸に渡って近づくと、山の方向に向かう車道が始まっていた。それを進むと車道は自然と林道に変わっていった。林道は舗装路で続いていたがダート道に変わったとき、右手に支林道が分かれた。それは多田坂に近づく林道と思われた。そこを過ぎて幹線林道の先を見ると、小さなピークが間近に見えていた。それが南山と思われた。その南山のそばに来ると広い駐車スペースがあり、楽に駐車が出来た。まずは足慣らしと言うか、三角点ハントとして南山を登ることにした。そのとき一度南山を登っていることを思い出した。それは2002年の6月に飯森山を多田坂から登ったときで、地図の三角点記号を見てこの日と同じく、単に立ち寄ったものだった。南山を登ると言っても数分で山頂に立てるので、登山とはちょっと言えず散歩と言うのが正しそうだった。その南山へは小径が付いているのだが、それとは別に新しい作業道がそのそばに出来ていた。その道がどこに通じているのか知らないので、まずは小径を登って行くことにした。やや急坂を登っていると途中で作業道に接した。作業道も山頂に向かっているようだった。その小径の登りを続けると5分で山頂だった。思った通り作業道も山頂に通じていた。山頂は以前の記憶よりも木が切られているようで、南西方向に越知集落が眺められた。まずは軽い足慣らしだった。駐車地点に戻り、改めて千ヶ峰へとスタートを切った。但し暫くは林道を歩いていくだけである。林道は幅がけっこうあり、森林基幹道「千ヶ峰・三国岳線」の名が付いていた。地図では林道は緩やかに北東に延びて標高650m辺りで終わっており、後は破線路が縦走路まで描かれていた。林道をその地図の終点辺りまで歩いて来たとき、林道は更に延伸しているのを見た。しかもバスでも悠々と通れる道幅になっていた。とても林業目的とは思えなかったが、ちゃんとした計画の元で作られているのであろうと思うことにした。その幹線林道の延びる方向は南東方向で千ヶ峰とは離れるが、ちょっと興味を持ったので、行ける所まで幹線林道を歩いてみることにした。すると林道はどんどんと主稜に近づいて行き、とうとう尾根まで通じていることが分かった。そこはまさに多田坂の位置で、林道は更に東へと多可町側に延びていた。何とも幅の広い道が峠まで来ていることに、ちょっと呆れる思いだった。その多田坂に近づいたとき、近くから工事音が聞こえてきた。多田坂に着いて林道の先を見ると、ごく近い位置で林道の延伸工事が行われていた。どうやらごく最近に多田坂まで通じたように思われた。この林道のために縦走路は寸断されていたが、法面には新たに階段道が作られており、縦走路に合流出来るようになっていた。そこまでで50分かかっており、すんなりと多田坂に近づく林道から登っていたほうがよほど早く着いていたようだった。これは結果論で、漸く縦走路歩きのスタートである。急階段を登って登山道に出ると、登山道もその辺りは急坂になっており、しっかり登って行くことになった。途中で送電塔のそばを通ることになり、その送電塔に立ち寄ると、飯森山がすんなりと眺められた。その急坂も50mも登ると緩やかになり、そして小さなピークを越して下り坂に変わると更に緩やかな道になった。そうなるとすっかりハイキング気分で歩いて行けることになった。始め周囲は植林が主体だったが、次第に自然林へと変わってきた。そのとき尾根の先に千ヶ峰が望まれたが、まだまだ遠かった。自然林の中にカラマツの林が混じることもあり、尾根の雰囲気は優しく涼しい中を気持ちよく歩いて行けた。多田坂から45分ほどあるいたとき、四等三角点(点名・谷山)に出会った。地図を見ると、多田坂から千ヶ峰山頂への道程の1/3を漸く歩いたことになる。そこは陽射しが明るく、暫しの休憩とした。その先で再び木々に囲まれると、風を強く受けることになり少し肌寒さを覚えた。気温を見ると13℃まで下がっていた。そのなだらかな尾根を歩いているとき、前方に小さな動物が見えたかと思うと、いっせいに逃げ出した。イノシシの子供のようだった。その逃げた辺りまで来てみると、一帯にシバグリのイガが多く落ちていた。まだ実の入っているイガが多くあり、そうなるとクリの実拾いを楽しむことにした。イガは登山道上に点々と見えており、半分歩いては半分止まって拾うの繰り返しで進んだが、1回分のク栗御飯が出来る量だけ拾えると、後は登山に専念とした。尾根の雰囲気は良く、歩き易いままに歩を進めて行くうちに千ヶ峰が徐々に大きくなってきた。やがて岩座神からのコースが合流し、その先に図根三角点が置かれていた。そこは東の展望が良く、少し早かったが軽く昼休憩とした。そこを離れて10分と歩かぬ位置でまた図根三角点を目にした。この図根三角点は多田坂に近い位置にもあったようで、どうも三角測量が盛んに行われているようだった。林道工事と関係があるのかもしれない。そこまで来ると雨乞い岩は間近だった。その大きな岩の間を抜け岩の上に立つと、そこまでで一番の展望が広がった。やや雲の多い空だったが視界はけっこう澄んでおり、東から南、西へと広がる展望を暫し楽しんだ。北西方向には氷ノ山も姿を見せていた。雨乞い岩を越すと千ヶ峰と双耳峰のように並ぶ986mピークに出た。千ヶ峰山頂がずいぶん近くになっていた。そこから山頂への道はまたなだらかになったが、山頂が目前になって急坂となった。そこを一気に登って山頂に出た。そして賑やかな声に包まれた。この日も団体が来ており、相変わらず千ヶ峰は人気の山のようだった。その賑やかさから離れて休憩とした。それまでの尾根ではちょっと涼し過ぎる風を受けていたのだが、山頂は意外と風は少なく、少し肌寒いかと思える程度だった。陽射しが現れると程よい暖かさになった。ここで昼食の続きをとり、その後は山頂の賑わいに気圧されるように暫くじっとしていた。その団体も13時を前に下山を始め、他にも山頂を離れる人が多くあり、13時を過ぎるとぐんと静かになった。山頂は静けさが何よりと、漸く余裕を持って山頂展望を楽しむことにした。先ほどの雨乞い岩も好展望地だったが、やはり山頂が一番で、ゆっくりと360度の展望を楽しんだ。播磨だけでなく但馬、丹波と三つの国の山を広く眺めるのは千ヶ峰ならではで、そして静けさの中でこれを味わっていると、改めて千ヶ峰は名山だと実感した。その後ものんびりと落ち着いていると、結局は1時間半ばかりを過ごしてしまい、14時が近くなって下山とした。多田坂からの尾根コースを歩いて来たため、単純に引き返すしかない。この帰路では特に展望は気にせず、尾根の風情を楽しむように歩いた。尾根の途中には苔の広がる所があり、それが木漏れ日を受けて優しく光っていた。帰路は誰に会うことも無く、この尾根コースは本当に静かだった。パートナーとのんびり歩くだけだった。途中でちょっと休憩もして、多田坂まで1時間40分だった。その多田坂まで車で来られることが分かったので、この南からの尾根コースは多少時間はかかるものの、千ヶ峰をごく軽い登山として楽しむ新しいコースとして定着する可能性がありそうに思えた。多田坂からは以前からの登山道を下って行った。そして太子堂のある林道終点に下り着き、後は林道を歩いて駐車地点へと戻って行った。
(2008/10記)(2012/1改訂)(2021/5改訂2) |