梅雨の季節はすかっと晴れた日を望むよりも、少し降る雨の中をのんびり歩くことを考えるのも良いもので、その点でも兵庫の山は手頃な山が多くあって、選ぶのには事欠かない。07年の7月最初の土曜日は七夕の日。どうやら多少の雨を予想されたため、そこで雨の中でも気持ちよく登れる山は無いかと考えて、この山を選んだ。山頂と駐車地点のあるフォレストステーション波賀との標高差は300mほどしか無く、山頂まではっきりとした歩道が整備されている。そして急坂と呼べそうな所は全くと言ってよいほど無いとなれば、雨の登山としては一番手頃ではと思えたものである。
この日は小雨が降ると考えていたのに、当日は曇り空の予想に変わっていた。そして波賀町に入ると雲間から陽射しも漏れて、雨の心配は全く無さそうだった。雨の中を歩こうと考えていたのに、皮肉なことである。国道29号線を離れて国道429号線に入ると、その道はアジサイロードと名付けられており、その名の通りにアジサイが点々とあって、それがちょうど見頃を迎えていた。アジサイは曇り空の下の方が色が鮮やかで、生き生きと見えていた。フォレーストステーション波賀のメイプルプラザ前に着いたのは9時過ぎ。駐車場には10台ほどの車が止まっていたが、いずれも宿泊客のもののようだった。こちらの目的は登山のため、駐車場の外れに遠慮して止める。まずはメイン道路を歩いてオートキャンプ場に向かって行く。そしてオートキャンプ場が見え出した位置に東山の案内標識があり、それに従ってメイプルロード2号線に入った。雪の季節ならそこから雪道歩きが始まるが、夏は単に舗装路を歩いて行くだけだった。メイプルロード2号線の終点が登山口となり、そこに車を止めるのが一番手っ取り早い登山になるが、足慣らしの意味もあってメイプルプラザ前から歩いて来たものである。その登山口で二つのコースが始まり、一つは山腹を巻いて行くコースで、もう一つは遊歩道1号と名付けられた尾根を真っ直ぐ目指すコースである。早く尾根に出たいため、遊歩道1号を登ることにした。この道は丸太の階段道があって、すっかり遊歩道の雰囲気だった。そして冬には気付かないが、歩道はウッドチップが敷き詰められている。ときおり射してくる陽射しが木立を明るくする中をのんびりと登って行く。雪の季節でこそあえぎながら登るが、この日は曇り空でしかも涼しいとあって、何とも気楽に登って行けた。15分も歩かぬうちに尾根に出ると、少しは展望が現れて来た。但しこの日の視界は展望には向かないもので、水分を十分に吸った空気はモヤとなって展望を妨げていた。もう尾根に出ると登山の雰囲気では無く、緩やかな尾根をのんびり歩く全くのハイキングだった。尾根歩きとなって涼しい風も出て、ほとんど汗もかかずに歩いて行けた。これで森の美しさを愛でれば良いのだが、尾根は雑木林もあったが植林地も多くあり、その植林では倒木が目立っていた。ただ山頂が近づくとほぼ雑木林となって、悪くない雰囲気だった。山頂が間近となって南からの登山コースが合流すると、道は再び遊歩道のようになってそのまま山頂へと続いた。そして登山口から50分ほどで山頂到着となった。上空は再び雲が厚くなっており、その薄暗い中に展望台がでんと構えていた。まずは展望台に立って一休み。登るたびに周囲の木立の育つのが分かったが、また育ったようで東から南への展望は消えようとしていた。ただこの日の空は展望を楽しむには不向きで、比較的良く見える西の風景も黒尾山がうっすら分かる程度だった。それよりも山頂は涼しい風が一段と強く吹いており、少し肌寒さを覚えるほどだった。気温はと見ると20℃を切ろうとしていた。その涼しさを十分に味わおうと展望台の中央にある台の上に横になって、のんびりと体を休めてひとときを過ごした。その間に空はまた明るくなって、陽射しも射して来た。そして山頂の灌木がその光に明るく輝いた。それはアセビの木で、東山の山頂もすっかりアセビの木が増えていた。一昔前のクマザサに覆われた山頂がうそのようだった。一休みでお腹も空いてきたので早めの昼食とし、そして11時を回ったところで下山とした。それにしてもこの涼しい日に他に誰も現れず、聞こえるのは小鳥のさえずりのみで、何とも静かなことだった。雨の心配があって登山を控えたものと思われたが、この東山なら多少の雨でも気にせず登れる山なので、何とももったいないことと思われた。下山は尾根コースを戻ったが、途中で分かれた山腹を巻くコースを歩いて登山口へと戻った。このコースは植林地をひたすら歩くことになり、これなら尾根コースの方がずっと楽しいと思えた。ところで下山でちょっとした楽しみが待っていた。それはコテージ村のそばのことで、ワラビが多く目に付いたことだった。7月とあって既に多くは葉を広げてしまっていたが、少しヤブコギをして中に入るとまだまだ若芽が見られて、思いがけずワラビ摘みを楽しむことが出来た。
(2007/7記)(2020/9改訂) |