黒尾山は兵庫の千メートル峰では簡単に山頂に立てる山の一つと言える。林道が中腹辺りまで延びており、さっさと登れば1時間程度で山頂に立ててしまえるので、少々呆気ないと言えるかもしれない。但し山頂展望は優れており、播州の山並みを一望出来る楽しみがある。そうなると快晴でこそ楽しめる山と言えそうだ。2009年3月に入った最初の日は日曜日。特に予定は無かったのだが、外は素晴らしい快晴だった。もう是非ともすかっとした山頂に立ちたくなった。そこでごく簡単に登れて山頂展望を楽しめる山として黒尾山を思いついた。雪を見る楽しみもあるかもしれない。そう決めたのが9時に近い時間だったが、その思い付きをパートナーに話すと、お一人でどうぞと言われてしまった。飛び出すように自宅を離れて一宮町へと向かう。本当にすかっとした空で、空の青さが美しかった。東麓の西安積集落に入り、林道へと進む。害獣除けゲートは閉まっており、それを開けて先へと車を進めた。ここに入るのは4年ぶりだったが、林道は手入れをされていないようで、以前よりも荒れて来ているように思えた。車の底を擦ることもあったので、慎重に車を進める。林道には雪のかけらも見られなかった。第3駐車場のそばを過ぎ、第2、第1駐車場も過ぎて、登山口のそばまで車を進めた。そこまで車は無く、登山口にも他に車は見なかった。目の前の山肌で崩壊が進んでいるため、それに巻き込まれない位置に車を止めた。上空の青さがまぶしかった。この日は山頂に立つことが目的のため、登山コースは特に工夫することも無く、滝見物の出来る「右コース」を登って行くことにした。登山道は本来は林道であったはずだが、荒廃が進んでおり、車の通行は不可能になっていた。程なく口滝を見る。雪解けの季節とあって水量は多いように思われた。林道部分は15分ほどで終わり山道となる。西の方向へと沢沿いを進むことになる。不動滝が現れて右岸側を登って上に出ると、そこで沢を渡る。そして左折して再び沢沿いを歩いて行く。また沢を横切り沢沿いを進む。周囲は常に植林の風景が続いた。程なくして沢を離れることになった。南東方向へと山腹をトラバースして行く。このとき雑木林の中を歩いたが、ちらちらと雪が残っているのを見た。左手に木立を通して暁晴山が覗いている。次第に登り坂になると、再び周囲は植林が取り囲むようになった。その先で「中央コース」に合流した。そこまで来ると、日当たりが良いのかまた雪は見られなくなっていた。そこより尾根登りとなる。雑木林もあったがやはり植林が主だった。大岩の庇が特徴的な虚空蔵尊に着く。その辺りは薄暗く、雪がうっすら残っていた。その虚空蔵尊を過ぎたとき行者尊への道が分かれた。これまで一度も行者尊に立ち寄っていなかったため、覗いてみることにした。そちらの道に入ると、ちょっとイバラも現れてヤブっぽくなった。緩い下りで歩いて行くと、そこに現れたのは大きな岩の壁だった。特に石仏は見られなかったので、この垂直の壁自体を仏としているのかも知れなかったが、なるほど行者場の雰囲気はあった。暫く佇んだ後引き返そうとすると、来た道とは別に山頂方向への小径があったので、それを登ることにした。こちらもヤブっぽい道で、やや急坂を北西方向に登って行くと灌木とススキの広がる所に出て、そこで「中央コース」と合流した。そこは東に向かって広々と展望が広がっていたが、展望は山頂に十分あるので、足を止めずに先へと向かう。その先にまた植林地があり、木陰に入るとうっすらと雪が見られた。そこを抜けるとまた木立は疎らになり、そして山頂広場に到着した。山頂には人影は無し。すっきりと青い空の下に廃墟となった電波塔がぽつんと建っている。雪は申し訳程度に見られるだけで、こんなに少ないとは予想外だった。それは仕方の無いこととして、とにかく展望に関しては素晴らしい山頂だった。この日は透明感のある視界で、どの山もくっきりと見えていた。ただ播州の主だった千メートル峰はこの黒尾山と同じく黒い姿で、ほとんど雪は消えているようだった。一週間前は白かった一山も、もう白さは無かった。それとは対照的に1200mを越える山は、まだまだ冬姿だった。氷ノ山も三室山、後山も周囲の山から白く浮き出ていた。この展望に出会えてこその黒尾山だと改めて思わされた。展望を更に楽しむには電波塔の上に立てば良いのだが、どうもハシゴが古びて来ているようで、それを登るのは無謀と思えて諦めることにした。それにしてもこの好天気に他に誰も来ていないとは、どうも播州の登山人口は少ないのではと思ってしまった。その思いは置くとして、山頂ではひたすらのんびりとくつろいで過ごした。この日は今暫く快晴が続くものと思っていたのだが、休んでいる間に北の空が次第に暗くなってきた。そしてその暗さの中に氷ノ山は見えなくなってしまった。着いたときにくっきり見えていたことを思うと、何とも速い天気の変わり様だった。その北の雲がこちらへと広がって来るのを見て下山することにした。下山は中央コースをそのまま下って行くことにする。こちらは急坂でひたすら続く。登るにはちょっと頑張っての登山となるが、下るとなると一気に下って行けるので、高度をどんどん下げて行く。ただ中央コースには雑木が多いのか落ち葉が尾根道を覆っており、それに滑らぬように注意した。途中で尾根がちょっと切り立った所があり、そこは左手に回ってやり過ごしてその先も尾根を下ったが、どうも登山道の雰囲気が無くなってしまった。単に歩き易い尾根を下っている感じになっており、そのまま下りながらもどうやら登山コースを離れていると気が付いた。それでも尾根のままに下って行くと、その先に登山口の林道が見えてきた。そのまま下ってしまうと崩壊斜面の上に出てしまうので、その直前に尾根を離れて脇の林道へと無事に下り着いた。登山口に戻って案内標識を見ると、どうやら「右コース」へと尾根を離れる所で真っ直ぐに下ってしまったようだった。ただよく考えてみると、以前はこの日に下った東尾根でひたすら登っていたはずで、登山コースにとらわれずに山頂を目指すのであれば、この日の下山コースが一番単純で登り甲斐のあるコースと言えそうだった。更に言えば林道の入口から歩いてこそ千メートル峰に相応しい手応えを感じられると思われた。
(2009/3記)(2019/10写真改訂) |