兵庫の中では奥深い地にあると思われていた笠杉山も年々整備が進んで、兵庫の千メートル峰としては、ごく簡単に登れる山になってしまった。その笠杉山で気になっていたのは冬季に登っていなかったことで、一度はじっくりと雪山として楽しみたかった。それを2011年で実行しようと考えていたが、新年の8日にさっそく実現出きることになった。正月から兵庫北部を中心にどか雪が降って雪山の条件は整っており、8日は兵庫南部だけで無く、北部でも晴れの予想となっていた。そこで勇躍実行することにしたものである。心配なのは雪が新雪であることで、どの程度潜るかであったが、四日前の4日にも黒尾山を登っており、一歩一歩じっくり歩けば、特に無理なく山頂に立てるのではと思えた。
この日の宍粟市内の雪は4日よりも少なくなっており、県道6号線も路面に雪は見られなかった。それが草木千町へ通じる車道に入ると、路面は途端に真っ白になった。除雪はされているものの凍っている心配があったので、そろそろと車を進めた。草木地区に出ても、陽射しを受ける所が部分部分で路面を見せているだけで、おおむね白い道だった。そして上千町を抜けて、奥田谷林道に入る手前に駐車とした。奥田谷林道は除雪されていないものの雪は20cmも無く、多くの車が通ったのかはっきりとしたワダチが出来ていた。無理をすれば進めそうだったが、無理はしたく無く、林道を起点から歩くことにした。出来るだけワダチの上を歩いて行く。雪はすぐに増えて、20cm以上になってきた。始めは陽射しの中を歩いていたのだが、植林帯に入って陽射しが消えると、途端に冷えてきた。温度計を見ると、−4℃を指していた。ただ風が無いので、冷えていると思うだけだった。陽射しの当たる場所に出ると暖かさも感じた。途中までは緩やかだったが、右にカーブするように坂道を登って行くと、程なく千町小屋が現れた。その近くに2台の車が止まっているのが見えた。そこに電力関係の作業員が作業の準備を進めていた。車の往来は小屋近くで行われている作業のためのようだった。その先も車のワダチがあったが、数日前のものか新雪に隠れようとしていた。ここでスノーシューを履くことにした。林道の雪は30cm以上ありそうだった。新雪とあってスノーシューでも一歩一歩が20cmほど潜った。もうラッセル状態だったが、じっくり歩いて行くしかない。その辺りは陽当たりが良く、けっこう汗をかきながら歩くことになった。雪面は光っており、そのまぶしさに煩わしさを感じていたとき、林道から分かれて左手に遊歩道が始まった。その方向から遊歩道を歩いて行けば笠杉山に近づけるように思えて、遊歩道を歩くことにした。遊歩道もすっかり雪に覆われているので、ラッセルすることに変わりない。但し周囲は自然林の広がる風景となって、雰囲気は良くなった。遊歩道だけに緩やかな登りで、このまま笠杉山に近づけると思っていると、途中から笠杉山の方向とは離れ出した。また遊歩道自体がはっきりしなくなった。そこで遊歩道を諦めて、山頂方向に向かうことにした。東へと向かう小さな尾根を登って行く。東へ歩いていけば林道に出るはずだった。その通りで、10分ほど登ると林道に合流した。その林道を北へと歩いて行く。適当な尾根を見つけて登ろうとの考えだった。その林道を歩き始めて程なく千町小屋の標識が現れた。どうやら千町小屋からのコースがあったようで、それがここで林道に合流したようである。そうなるとその先に登山口があるのではと思っていると、目と鼻の先に登山口標識が現れた。知らない登山コースだった。これは有り難いと、そのコースを登ることにした。林道の雪は40cmほどあったが、登山道の雪はそれ以上ではと思えた。それまでもずっとトレースの無いまま新雪の上を歩いていたのだが、終始緩やかだったためか、足の疲れはさほど感じていなかった。それが登山コースに入って坂を登るようになると、足の疲れをはっきり自覚した。とにかく一歩一歩を丁寧に登るしかない。周囲は自然林で、尾根筋は登山道があるためか空いている。雪にコースが隠れていると言っても、分かり易い尾根だった。おまけに目印テープがあり、標識もときおり現れた。振り返ると、千町ヶ峰の見えることもあった。スノーシューのヒールアップ機能を使って登って行く。登るほどに雪は増えて、60cm近くはありそうだった。歩度が鈍ってきたので後ろを振り返ると、数メートル離れてパートナーが付いてきていたが、ほとんどこちらのラッセルした後を付いていたので、足取りは軽そうだった。そろそろ山頂が近くなったのではと思われたとき、左手に木立を通して氷ノ山が真っ白な姿を現した。北の空も良く晴れているようだった。もう足はそうとう重くなっていたが、早く山頂に着きたいとの一心で、あまり足を止めることをせずに登り続けると、痩せ尾根の山頂部が現れた。山頂到着は登山口から37分だった。登山口には山頂まで25分と書かれていたので、やはり新雪のラッセルは時間がかかったようだった。その山頂は無垢の山頂だった。ここまでトレースは無かったので当然トレースは付いていなかったが、雪の盛り上がるように積もる様は、漸く着いた思いを強くしてくれた。それを踏んでしまうのはもったいなくさえ思えた。風はほとんど無く、穏やかな山頂だった。この笠杉山の山頂は360度の展望とは言えなかったが、西から北にかけては開けており、三室山に氷ノ山、鉢伏山が真っ白な姿を見せていた。氷ノ山の上空にはもうガス雲が広がろうとしていた。それでも澄んだ視界の中で見る雪山は清らかさがあり、登って良かったの思いを強くしてくれた。山頂では展望を楽しみながら昼食をとったが、次はどの山を登ろうかと考えるのは楽しいことだった。昼を回ると次第に雲が増えてきて、上空にも広がってきた。その雲に陽射しが隠されると、とたんに冷たい風が吹いてきた。次第に陽の遮られる時間が長くなってきたので下山とする。山頂にとどまっていたのは30分ほど。下山は登山口までは忠実に自分のトレースを辿った。トレースのある雪道の下山は速く、20分とかからず林道に下り着いた。林道に出ると、すぐ先の千町コースに入った。また新雪を踏んで行くことになったが、下り坂なので厳しくなることは無さそうだった。千町コースは始め植林帯を下って行く。植林帯の雪は少なめで、スムーズな下りだった。どのような経路になっているのかと思ううちに沢に下り着くと、沢沿いにははっきりとした遊歩道が続いていた。もう遊歩道を歩くだけのようだったが、遊歩道歩きとなって道の傾斜がほとんど無くなったことで、またラッセル状態となり、かえって疲れることになった。また上空は晴れ間が再び広がり出しており、汗もけっこうかくことになった。その遊歩道が千町小屋のどの辺りに行き着くのかと思っていると、小屋の東側に出ることになった。そこには笠杉山の登山口標識が立っていた。後は奥田谷林道を歩いて戻るだけだった。林道の雪は緩んでおり、朝よりも解けているようだったが、スノーシューを脱ぐのが面倒くさく、そのまま履き続けることにした。ワダチの上は歩かず、出来るだけ雪の上を歩いて行くと、林道入口まで特に脱ぐ必要も無く歩くことが出来た。千町小屋コースは無雪期に歩けば少し物足りなそうだったが、雪山コースとして考えると、最短で山頂に立てるので、笠杉山の冬コースとしてポピュラーになるのではと思われた。
(2011/1記)(2020/7改訂) |