山の姿に惹かれてスリガ峯を登ったのは1998年7月のことだったが、そのとき山頂近くから見た須留ヶ峰が他の山から見るよりも悠然としていたのが印象的だった。それ以来次は須留ヶ峰まで縦走したいとの思いを持ち続けており、漸く実現したのは9年後となった2007年6月のことだった。この日の天気予報は兵庫南部は晴れときどき曇りで北部は終日曇りの予想だったが、兵庫のほぼ中央に位置する須留ヶ峰は晴れの区域だったようで、冨土野トンネルを過ぎて養父市に入っても上空に青空が続いているのを見て一安心となった。スリガ峯と須留ヶ峰の二つの山を登るとなると登山口は一択となり、須留ヶ峰の和田登山口を目指した。和田登山口はスリガ峯にも向かえる位置にあり、和田登山口を起点にスリガ峯を目指そうとの考えだった。登山口に着くと明延川に架かる橋を挟んで広い駐車場があり、そこに駐車とした。この日は長時間歩くことを予想していたため登山口には8時半に着いたのだが、既に先着の車が1台止まっていた。和田登山口には真新しい案内板が設置されており、それを見るといろいろと林道の出来ているのが分かった。その林道工事によって登山コースが少し変わっていた。以前はずっと沢沿いを歩いていたはずだったが、歩き始めて程なく沢を離れて植林の山肌を登るようになった。そして広い林道に出た。須留ヶ峰コースはそこより沢に戻るようだったが、こちらはスリガ峯を目指すためその位置より斜面に取り付いた。そのとき足下を見ると、靴にヤマビルが貼り付いているのを見た。よく見ると3匹おり、念のためにズボンの裾をめくると、早くも1匹に吸い付かれていた。パートナーの靴にも1匹おり、どうやら沢沿いの道で付かれたようだった。この季節の沢道はヤマビル対策を考える必要があるようだった。その後は足下に中止しながら登ったが、沢を離れてからはヤマビルの心配は無いようだった。始めに急坂の植林地を適当に登って行く。植林地は下生えも少なく、すんなりと登って行けた。ただ前日の雨の影響か足下が軟らかく、踏ん張りながらの登りだった。やがて尾根ははっきりしてきて、楽に尾根筋を追えるようになった。その尾根で二度目の林道出会いとなった。そこは林道の終点で、東に向かって小径が始まっていた。その小径に興味を持って歩いてみたが、ほぼ平行に続いて200mほど先の谷の位置で終わってしまった。すぐに林道終点の位置まで引き返したが、15分ほどのロスをしてしまった。また尾根登りを再開する。尾根は植林地となっており、その辺りの植林は手入れが悪いようで下枝がはびこっていた。また灌木のアセビやイバラもあって、そこは少し歩き難くなっていた。ただ歩き易い所もあって、難儀と言うほどでも無かった。その先でまた林道に出会ったが、その林道は全く使われていないようで、草むして自然に戻ろうとしていた。少し林道跡を歩いた後、また尾根に戻った。その辺りから周囲は自然林となって、優しげな風景が広がった。その雰囲気のままに歩いて行くと、その先で風景が一変した。樹林帯を抜け出すことになり、尾根は淡い緑の草が広がる風景に変わった。近づくとその草はすべてワラビだった。そのワラビ畑と言えそうな中を登って行くと、背後に風景が広がってきた。北の方向が見えたのだが、そちらはすっかり曇り空で、氷ノ山は山稜を厚く雲に隠されていた。それでも徐々に薄れる気配はあった。そこを過ぎるとまた自然林の中を登るようになり、もうそろそろスリガ峯に近づいても良い頃ではと思えても今暫く登りが続いた。考えれば登山口とスリガ峯との標高差は800mほどあり、ほとんど登山道の無い所を登るとあっては、やはり時間はかかるようだった。そしてようようの思いで山頂に着いたときは、歩き始めてから2時間以上経っていた。山頂は周囲を木々に囲まれており、その中央は少し狭いながらも開けていた。そしてそこに真新しい四等三角点が埋まっていた。地図には載っておらず、ごく最近に設置されたようだった。その三角点の設置工事は南東からの尾根を使って行われたようで、そちらに点々と赤い布が見えていた。まずは山頂で一休みとした。気温は20℃ほどと手頃な感じで、程良い木陰に涼しい風もあって、疲れを癒すには悪くない雰囲気だった。その山頂で早めの昼休憩とした。30分ほどの休憩を終えてもまだ12時前だった。いよいよ須留ヶ峰へと尾根歩きを開始した。スリガ峯の山頂こそ展望は無かったが、前回の記憶では東の方向に確か展望はあったはずだった。その位置まで進むと以前と変わらぬ大展望が現れた。北の空は朝方はどんよりと雲に覆われていたが、天気は回復に向かっており、氷ノ山の山稜こそ雲に隠されていたが、他の高峰は姿を現していた。その広やかな風景を楽しんだ後、少し進むと今度は須留ヶ峰がどんと現れた。ボリューム感があって何度見ても良い姿だった。その須留ヶ峰との間には小さなピークが幾つか見えたが、標高差は100mも無く、また尾根道もあるとあって気楽に歩けそうだった。展望地を離れると、また自然林の中に入ることになったが、そこにはブナの木も混じっており、場所によってはブナ林と呼べそうなほどブナの並ぶ所も現れた。まさに森林浴の雰囲気だった。そして中間点を過ぎた辺りで木々が切れると再び展望が広がった。そこは上り坂となっており、登るほどに西の方向となる背後に展望が広がった。スリガ峯が間近に見え、その後ろは宍粟市の千メートル峰が並んでいた。北に見える氷ノ山は山頂にかかっていた雲はほとんど消えようとしていた。その遠くの風景だけで無く、辺りはアセビの群落が出来ており、それが若葉とあって昼の陽射しに明るく輝いているのも良い眺めだった。少しはヤブ尾根かと考えていたのに、まるでプロムナードと呼びたくなる優しげな道を歩けただけでなく、森の美しさや展望の良さが相まって心楽しくなるばかりだった。その雰囲気のままに1時間ほどの山稜歩きで須留ヶ峰山頂に到着となった。その時点で13時前。てっきり誰かは居るものと思っていたのだが無人の山頂だった。その須留ヶ峰の山頂は来るたびに姿を変えるようで、始めはクマザサの繁る風景、次はクマザサが枯れてすっきりした風景、そして今はアセビが群落を作っている風景が広がっていた。須留ヶ峰の山頂からの展望は大杉山の方向が少し開けている程度で良いとは言えないのだが、この日に気がついたのは三角点そばの1本の木が、枝をたくさん切られていることだった。どうやらその木に登って展望を得ようと登山者が伐ったものと思われた。その木にこちらもさっそく登ってみた。なるほど妙見山など北の方向が少しは望まれたが、これなら先ほどの展望地の方がずっと良かったように思えた。須留ヶ峰の山頂で休んでいたのは20分ほど。ひたすら静かな山頂を楽しむと下山に移った。下山は和田登山口へと続くコースを辿ることにした。まずは北へと尾根を下って行く。コースの分かり難い所も、適度に赤テープが付いているので気楽に下れた。最初は自然林の中を歩き、その先で木々が切れて展望が現れると、ちょうど妙見山に向かって下って行く感じだった。そして樹林帯へと入った。尾根はその先で急勾配となるため、左にトラバースすることになった。そして沢に出会うと沢沿いを下った。その沢筋もけっこう急勾配で注意を要したが、赤テープが点々と付いており、道を追うと言うよりも赤テープを追って行く風に下ると、けっこう無難に下って行けた。途中にはクサリ場があって、そこは慎重に下った。沢そばにはっきりとした登山道が現れたのは山頂を離れて1時間ほど経った頃で、その起点には標識があり標高480mと記されていた。もう後はそのはっきりとした登山道を歩くのみ。途中にある千葉(せんば)の滝で足を止めたり、沢沿いの濃い緑に目を楽しませたりと、のんびり歩きを楽しんだ。そして林道に出た所でショートスパッツを履いた。理由はヤマビル対策だった。登山口に近い沢そばはヤマビルが多いようで、朝に歩いたときに気付かず血を吸われていたためだった。林道を少し歩いて再び登山道に入り、植林地を下って沢そばに下り着いた。そして問題の沢そばを歩いて登山口へと戻って行った。駐車地点に戻って足下を見ると、やはりヤマビルが3匹ほど貼り付いていた。但しショートスパッツのおかげで足に吸い付かれていることは無く、一安心だった。この季節の沢筋を歩くときは、スパッツを付けるなどヤマビル対策を考える必要があるようだった。
(2007/7記)(2023/7写真改訂) |