2009年の秋は順調に季節が移り、9月の終わりはめっきり朝晩が涼しくなった。そして10月に入ったが、山はまだ紅葉には早い季節だった。そこで山上の涼しさを味わいながらのんびり歩く山として、平石山に向かうことにした。
10月3日は土曜日。播州南部はまずまずの晴れだったが、北部の空は雲が多かった。ただ青空も見えており、予報の通り晴れ間が広がることを期待した。コースとしては一番簡単な千町峠からピストンするコースを考えており、その千町峠を目指して生野町栃原側から林道に入った。林道は舗装路とダート道が交互に続いたが、夏にあった大雨の影響でダート道が相当荒れていた。何度か車の底を擦ることがあり、そこでそろそろと車を進めていると、途中からタイヤがバラバラと音を立て始めた。どうやら前日の雨でシバグリのイガが大量に落ちたようで、それを踏みつぶす音だった。そこでシバグリ拾いを楽しみながら林道歩きでスタートすることにした。車を止めたのは倉谷と出会う辺りで、千町峠までは今少し距離があったが、足慣らしも悪くないと考えた。そこにも新しいイガがたくさん落ちており、クリの実もいっぱい散っていた。クリの実を拾うと、もう七割ほどは虫に穴を明けられていたが、それでも残りの三割が大丈夫となると、けっこうな確立で拾えると言えそうだった。ただクリ拾いに重きを置くとハイキングにならないので、大ぶりの実だけを拾うようにして歩いた。林道からは南西方向に山頂が緩やかな山が眺められて、それがこの日に目指す平石山だった。クリ拾いも途中で飽きて止まることは少なくなったが、意外と千町峠までは長く、峠に立つ悠友山荘が見えてからもまだ距離があった。そして歩き始めてから一時間かかって、漸く悠友山荘の前に着いた。山荘の前が平石山の登山口で、標識も付いていた。ところで歩き始めたときは晴れ間が広がろうとしており、このまま快晴かと思っていたのだが、どうも雲は逆に増えているようで青空の部分が少なくなっていた。登山口から登り始めると、すぐに尾根を歩くようになった。その尾根に沿って害獣避けネットが続いていたが、倒れてしまっている所もあり、もう役に立っていないようだった。足下は前日の雨で湿っており、少しジュクジュクとしていたが、そこにドングリがいっぱい落ちていた。クリのイガも多かった。登るうちに左手となる東側に展望が開けることがあり、達磨ヶ峰や高畑山が眺められた。但し空と同様に薄ぼんやりとした見え方だった。どうやらすっきりとした視界は望めないようだった。右手の西側も開けるときがあり、そのときは千町ヶ峰が間近に大きく見えていた。20分ほど登って四等三角点(点名・千町峠)の前に出た。ちょっとお腹が空いていたので、ここで少しばかり小腹を満たすことにした。気温は16℃ほどと悪く無かったが、少しばかり涼しい風があってひんやりとした感じだった。その三角点の位置より少し登った所が1050mピークで、そこは木々に囲まれており単なる通過点の雰囲気だった。少し下ると視界が開けたが、そこに見えたのはヒシロガ峰までびっしりと生えているアセビの群落だった。ここは来る度に様子が変わっており、前回2002年に来たときはアセビは増えていたものの、まだ何とか中を突っ切れたのだが、これでは数メートル歩くだけで音を上げそうだった。赤テープで目印の付けられた登山コースは、そのアセビ群落の東の縁を歩くようになっていた。ヒシロガ峰のピークに立たずに進むと、その次が1040mピークで、そこで尾根は少し南西方向に折れた。そこまで来るとアセビは減っており、植林を右手に雑木林を左手に見ての尾根歩きで、また歩き易くなった。もう上空は薄雲に覆われており、青空は見えなくなっていた。緩く下って緩く登り返す。その先で傾斜が少しきつくなり、それを登りきって再び緩くなったので山頂かと思うと、もう一度傾斜がきつくなった。そこまで登ると背後が開けて千町ヶ峰から段ヶ峰、フトウガ峰と一望になった。そちらは一段と天気が悪いようで、段ヶ峰にはガスがかかろうとしていた。坂を登りきった所が平石山の山頂だった。山頂手前から再びアセビが増えてきたが、その中を抜けるように小径があり、そしてぽっかり開けた山頂に出た。以前は木立の中だったはずだが、一帯の木は切られてすっきりとしていた。ここまで誰とも会わなかったが、山頂も無人だった。やはりこの尾根はいつも静かな山歩きを楽しめるようである。木の切り株に座って昼休憩とした。その休憩の間に空は一段と暗くなって、程なく雨粒も落ちてきた。この日は晴れの予想だったのだが、どうも裏切られたようだった。山頂からは北に向かって段ヶ峰が見えるはずなのに、そちらはガスに閉ざされていた。このまま小雨になるのかと思っていると、雨がぱらつくことはすぐに終わり雲が薄れてきた。暫くすると青空も見え出した。そして陽が射してきた。北のガスも薄れ出して程なく段ヶ峰が姿を現した。ちょっと気まぐれな天気のようだった。山頂で休んでいたのは一時間ほど。この日はこの先に進む気は無かったので、同じルートを引き返すのみだった。この帰路ではヒシロガ峰のピークに立ち寄ってみることにした。1040mピークを過ぎてヒシロガ峰へと向かった。そのピークは登山コースから少し登るだけだった。ヒシロガ峰のピークは疎らな雑木林でアセビは僅かに見るだけだったが、その南からは1050mピークまでびっしりとアセビが生えている。その様を見て、よくも短い期間で繁茂したものだと感心した。空を見るとまた曇り空に戻ろうとしていた。どうも晴れたり曇ったりを繰り返すようだった。アセビは大群落になってはいるものの丈は高くないので、展望は悪く無かった。少し位置を変えると、千町ヶ峰から段ヶ峰、達磨ヶ峰まで一望出来て、目を楽しませてくれた。但し少しうっすらとした視界だったが。後はクリ拾いもせず、ただ歩くだけだった。四等三角点でこそひと休みして、後は休まず歩いたので千町峠の登山口から駐車地点までは40分ほどだった。意外とあっさり帰れたと思えた。この日のハイキングを振り返って、本当に山は年々変化するものであり、また季節を変えれば新たな出会いがあることを改めて思い、山は面白いものだとこの日も満足の思いに浸ることが出来た。
(2009/10記)(2021/10改訂) |