TAJIHM の 兵庫の山めぐり <北但馬
 
蘇武岳    そぶだけ 1074.2m 豊岡市・香美町
 
1/2.5万地図 : 栃本
 
【2010年7月】 No.4 2010-65(TAJI&HM)
 
    仏ノ尾林道より  2008 / 11

 蘇武岳を登るコースとしては、今は名色から林道経由で登るコースが主流になっているように思えるが、以前は阿瀬渓谷から金山峠に出て、そこから尾根歩きで山頂を目指す片道3時間半ほどのロングコースがよく紹介されていた。こちらも1992年11月に「大阪周辺の山」を参考にしてその阿瀬渓谷コースを歩いたが、金山峠に出るのに時間がかかってしまい、また尾根もクマザサが茂って歩きづらく、途中からは尾根と平行する林道を歩いて山頂を目指してしまった。そのときの印象は、阿瀬渓谷は多くの滝があって悪くなかったのだが、林道を歩いたのは間違いで、せっかく苦労して千メートルの高さまで歩いてきたのに、簡単に車で来ている人もいたことに釈然としないものを感じてしまった。そこで以後は車で登れる無雪期は避けて、もっぱら雪の季節に蘇武岳を目指すことにした。ただそのときのいやな印象も18年も経てば薄れるもので、2010年の夏が近づいて、暑い季節は渓谷を見る登山も悪くないと考えたとき、阿瀬渓谷を再訪したいとの思いが浮かんできた。阿瀬渓谷を訪れるのなら、ついでに蘇武岳も登ろうと考えるのは自然な流れだった。
 向かったのは7月の梅雨明け直後、19日の「海の日」だった。余裕を持って山頂に立ちたいと考えて姫路を6時に離れると、8時を少し過ぎた時間に阿瀬渓谷の入口となる羽尻集落を通過していった。集落を抜けて道は林道となって阿瀬川沿いを続くが、途中で通行止めになっていた。理由は書かれていなかったが、自然災害があったのではと思えた。その手前が第一駐車場になっていたので、そこに車を止めることにした。そこからハイキング開始とする。通行止めの標識のそばを通って、細い林道を歩き出す。空は快晴。まさに梅雨明けの空で、青空が澄んでいた。ただ気温は25℃ながら湿度が少し高いようで、すぐにじんわりと汗が出てきた。林道のどの辺りが通行止めの原因かと注意していると、特に災害にあった所も見えず、10分ほど歩いて阿瀬渓谷の入口に着いた。これなら第二駐車場まで車を進めていたのにと思ったが、仕方が無い。その先も車道は続いていたが、進入禁止用の杭が立っており、車は進めないようにされていた。そこを過ぎると、車道から左手の沢へと遊歩道が分かれた。この日は阿瀬渓谷を楽しむつもりなので、遊歩道へと入った。ここからは現れてくる滝を一つずつ見物だった。ごく小さな滝もあれば高低差の大きな滝、緩やかな流れの滝、幅広く流れる滝、二つに分かれた滝と、一つ一つを丁寧に見た。源太夫滝を過ぎると遊歩道は阿瀬川に沿うコースと若林川に沿って洗心台を通るコースに分かれた。洗心台コースでは遠回りとなるので、思案橋を渡らず真っ直ぐに阿瀬川コースを進んだ。月照滝、竜王滝、不動滝とどんどん現れてくる。坂道をずっと登っての滝見物でもあり、この滝巡りだけでハイキングとして十分ではと思われた。その滝のそばまで下りると沢風を受けて涼しさが感じられたが、普通に遊歩道を歩いていると、まだ梅雨の空気が残っているのかけっこう蒸し暑く、大汗をかきながらで、次第に歩度が落ちてきた。どうも湿度が高いと足どりは悪くなるようだった。分かれていた洗心台コースが合流すると、その先で金山集落跡の入口に着いた。ここまでに2時間以上かかっていた。その先はほぼ平坦な道となって集落跡へと近づくが、辺り一面クサソテツ(コゴミ)で青々としているのが印象的だった。歩くうちに石垣が現れ、集落があったことを窺わせた。神社があったと思われる位置を過ぎると広場が現れて、そこに東屋が建っていた。滝の遊歩道を歩いているときはまだ木陰の中だったが、集落跡を歩くようになって強い陽射しを受けるようになっており、一気に疲れが出ていた。そこで東屋の中で一休みすることにした。沢音を聞いていると、うとうととしそうだった。そばに立て札があり、そこにはかつて金山集落があって何百年の歴史があったと記されていた。室町時代には金銀鉱山として金山千軒と呼ばれて想像も出来ない賑わいもあったようだった。暫く休むうちに少し元気が戻ったので、ハイキングの続きをする。細長い集落跡を過ぎてもまだ道は沢沿いを平坦に続いたが、遊歩道の雰囲気は無くなって、ごく普通の山道になっていた。その先で道が坂になりだすと、また滝が見られるようになった。それまでも十分に滝を見ていたので、おまけで見ている感じだったが、それにしても阿瀬渓谷は何とも滝の多いコースだった。金山峠まで1kmほどとなると、登山道は沢から離れるようになり、周囲は植林の風景となってきた。それにしても金山集落跡から峠までは2kmほどあるので、けっこう長く感じられた。あと500mの標識が現れたときは、まだそれだけ歩くのかの思いだった。金山峠に着いたときは、12時が近い時間になっていた。歩き始めてから3時間半が経っており、途中の東屋で長休憩をしていたものの、滝見物に時間を取り過ぎたようだった。その金山峠には広域基幹林道の妙見蘇武線が通じており、その林道を歩いても山頂に行けるが、あくまでも登山道を歩いて行くことにした。その前に金山峠で昼食とする。上空を見ると少し雲が増えているようだったが、峠には陽射しが強く当たっており、木陰を求めて一休みとした。昼食後、尾根歩きを始めると、けっこう尾根は急坂になっており、しっかりと踏みしめて登ることになった。その急坂も50mも登れば緩やかになった。尾根は植林もあったが自然林も多くあって、雰囲気は悪く無かった。そのうちに登山道の周囲にクマザサが見られるようになった。枯れてしまっている所もあったが、まだまだ元気に茂っている所もあった。兵庫にあっては少々の高山でもクマザサは衰退しているのに、ここに茂っている様を見ていると、感慨深いものがあった。歩くうちに尾根は緩やかとなり、左手に林道が近づいてきた。林道は数メートルの近さになることがあり、山頂へとひたすら尾根を歩いていることが、何だか無理に時間のかかるコースを歩いているように思えてしまった。それでもあくまでも登山道を歩き続ける。登山道からはときおり西に展望の開けることがあったが、意外にもそちらの空は曇り空だった。氷ノ山の山頂が雲に隠されようとしていた。上空も青空がほとんど見られなくなっていた。快晴が続くと思っていただけに、これは予想外だった。登山道と林道がほとんど接する所があり、そこには小橋も架かって、ちょうど登山口のようになっていた。林道のそばには東屋もあり、そこで休んでいる人を見かけたが、当然車で来た人だった。どうも金山峠から先はドライブを楽しむ人の世界のようで、蘇武岳は付け足しで登るだけではと思える光景だった。その林道の登山口の位置からだと、山頂との標高差は80mほど。その最後の坂を漸くの思いで登って山頂に出たときは、金山峠を離れてから1時間と40分が経っていた。その山頂に着いたときは僅かに陽射しがあったが、程なく消えてしまった。上空はすっかり曇り空だった。1992年に金山峠コースで登ったときは11月でもあり、山頂は10センチほどの積雪だった。その意味では無雪期の蘇武岳山頂を見るのは今回が初めてだった。その山頂の第一印象は、意外と展望が悪いと言うことだった。東の方向こそ大岡山や矢次山がすっきりと眺められたが、高峰の並ぶ西の尾根はすっかり木立に遮られていた。山名標識の上に立って、漸く尾根の一部が眺められるだけだった。その山頂で暫しの憩いをとることにしたが、着いて間もなくガスが漂いだした。そして時間をおかず東の風景がガスに閉ざされてしまった。そのうちに雨粒が落ちてきた。どうも確実に天気は悪化しているようだった。山頂は30分ほどで切り上げる。下山は歩いてきたコースを引き返すのみ。雨粒は降ったり止んだりしていたが、下山を始めると小雨となって降り続くようになった。小雨程度なら尾根歩きを続けるつもりだったが、雨は次第に強くなり、集中豪雨のようになってきた。ちょうど林道と接する位置に出たので、林道そばに見えた東屋で雨宿りすることにした。終日快晴のつもりで来たのに、何とも気まぐれな空だった。暫く経っても雨は止みそうになかったが、下山を考えるといつまでも雨宿りを続ける訳にもいかなかった。ただ豪雨の中で尾根を歩くのは厳しいように思えて、金山峠までは林道を歩いて行くことにした。林道を歩き出すと、林道は緩やかな上に、雨の振り方も弱まってきたので、気楽な感じで歩いて行けた。雨の中では気温は22℃まで下がっており、それも歩く助けになっていた。歩くうちに雨は更に弱まって小雨程度となり、ときに止むこともあった。林道はけっこう展望が良く、西の山並みの中から瀞川山がすっきりと姿を現しているのが眺められた。金山峠には雨宿りの時間を除くと、山頂から1時間で着いた。林道を歩く方がどうも早いようだった。金山峠からは、ただ登山道を辿って戻るのみだった。雨は小雨程度で降ったり止んだりを繰り返しており、もう強い降り方になることは無さそうだった。植林地の部分を抜けて沢そばに出ると、沢が様変わりしていた。沢の水は泥色に濁っており、水量が一気に増えていた。また水の流れも速くなっていた。そうなると心配になるのが徒渉点で、登るときは飛び石伝いに歩いたので、靴先を濡らす程度だったが、そこがどうなっているかだった。滝が現れ出すと、滝とは見えず泥の激流だった。ほぼ平坦に見える地形の所でも、流れは速かった。そして徒渉点に着くと、そこも激流になっており、流れに足を取られると、そのままそばの滝に流されそうだった。それを見て渡るのはあっさりと諦めた。そうなると左手の斜面をトラバースしていくしかなかった。いずれは金山集落跡に着けるはずである。ただ斜面はけっこう傾斜がきつく、足下に十分な注意が必要だった。とにかく急斜面を枝に掴まりながらトラバースした。その途中でひやりとすることがあった。薄暗くなっていたため近づくまで気づかなかったのだが、マムシを踏みそうになることがあった。気がついたときはこちらに顔を向けていた。飛び上がるようにして後じさったが、こんな所で噛まれたのでは、たまったものではない。トラバースするうちに金山集落跡が近づいたのか、水の流れの穏やかな所が現れた。水かさも少なそうなので、その位置で徒渉することにした。無理やり沢に入ると、膝を濡らす程度で何とか渡ることが出来た。まさに一安心の思いだった。そこより少し下った所が、金山集落跡だった。広場の東屋でまた一休みとしたが、午前の快晴のときとは大違いで、濁流となった沢が大きな音をたてていた。かつて金山集落に住んでいた人は、のどかなことだけで無く、嵐のときはこの激音も聞いていたのかと、新たな感慨が浮かんできた。その先は遊歩道を歩いての滝巡り。どの滝も水量は一段と増えているのだが、茶色く濁って激しい勢いで落ちる様を見ていると、滝とは見えず大きな激流としか見えなかった。やはり滝は白い流れであってこそ滝だと思わされた。この下山では源太夫滝を滝見小屋から眺めた。その滝も単に茶色の流れでしかなく、その下流は泥の流れだった。集中豪雨が風情ある風景を一変させていた。そこを過ぎると、登山口はごく近い距離だった。
 下山後は珍坂トンネルを通る県道を走って国道9号線に出たのだが、県道を走っている間に空はどんどん良くなってきた。程なく雲一つ無い澄んだ青空になったのには、ただただ唖然とするばかりだった。本当にこの日の天気は気まぐれだった。
(2010/8記)(2021/7改訂)
<登山日> 2010年7月19日 8:10スタート/8:54〜58思案橋/10:30〜40金山集落跡の広場で休憩/11:43〜58金山峠/13:39〜14:08蘇武岳山頂/14:22〜35林道そばの東屋で雨宿り/15:22金山峠/16:17〜22金山集落跡の広場で休憩/17:02思案橋/17:18エンド。
(天気) 朝は快晴、空が青かった。スタート時の気温は25℃ながら、湿度は高めで風も無く、気温以上に暑く感じられた。金山峠に出た頃は雲が増えていたが、まだまだ青空があった。それが尾根を歩くうちに、上空に雨雲が広がってきた。山頂では僅かな時間陽射しがあった後、曇り空となる。そのうちに周囲にガスがかかり出した。程なく小粒の雨が降ってきた。下山を始めた直後より雨は小雨となって降り続くようになったかと思うと、本降りの雨となった。気温も25℃まで下がってきた。雨はその後弱くなったものの、暫く降り続いた。雨が止んだのは阿瀬渓谷の遊歩道を歩き出した頃からで、陽射しも現れて気温は再び25℃まで上がってきた。この日の視界は良かったはずだが、尾根歩きで展望が現れたときは天気が悪くなっており、雨の影響か遠方はうっすらとしていた。
<< Photo Album 2010/07/19 >>
林道入口に通行止めとあり、第一駐車場に駐車
した
通行止めと思える箇所も無く、林道を歩けた 第二駐車場より先は、一般車は通行出来ない
     
林道から滝コースへの遊歩道が分かれた 「鋳物師(いもじ)が滝」を見る 「長持ぶち」を見る
    
「じょろ滝」を見る 木陰の中で小橋に光が当たっていた 「蛇つぼ」を見る
     
遊歩道は緩やかに続いた 「源太夫(げんだゆう)滝」を見る 滝そばを離れて左岸の遊歩道に向かう
   
「鉄砲滝」を見る 「恐れ滝」を見る この思案橋の位置では、橋を渡らず右の道を行く
    
「座禅の滝」を見る パートナーが倒れ岩のそばを通る 「百畳がふち」のそばを歩く
    
空は真っ青だった からん橋を渡る からん橋の上から阿瀬川の流れを見る
     
「龍が滝」を見る 「月照滝」を見る 「よろいの滝」を見る
   
「不動滝」を見る 不動滝のそばには金山不動尊が建っていた 阿瀬取水ダムのそばを通った
    
取水ダムの先で洗心台コースが合流した 「二段滝」を見る 「紅葉(もみじ)の滝」を見る
   
この橋を渡って金山集落跡の区域に入った 辺り一面にクサソテツ(コゴミ)が茂っていた この石垣は神社が建っていたように思われた
   
集落跡の中心部は公園になっていた 畑があったと思われる辺りを通る 集落跡を抜けると、また滝が見られるようになった
    
一帯は緩やかな地形で、水の流れは優しかった 「満願滝」を見る 金山峠までまだ1kmあった まだ小さな滝が幾つか続いた
    
漸く沢を離れて斜面を登るようになった 周囲
は植林地の風景となった
沢を離れてから金山峠までが長く感じられたが
漸く金山峠が見えてきた
金山峠に着く 標高は760mだった ここま
でに3時間半かかっていた
    
この林道を歩いて山頂そばまで行けるが、あく
までも登山道を歩いて行くことにした
時刻は12時前になっていたので、まずは峠の
地蔵のそばで昼食とした
尾根の登山道は始め急坂で続いた 植林と自然
林に囲まれた中を登る
   
尾根が緩やかになると、周囲はすっかり自然林
の風景となった
登山道のそばのクマザサがすっかり枯れている クマザサの枯れた所は一部だけのようで、まだ
まだ元気なササを見る
    
クマザサに囲まれた中を歩く 木漏れ日が優しい影を作っていた カラマツの林を見た
   
足下に林道が見えるようになる 展望も開けた
が、その空はすっかり曇り空だった
遠くに見えたのは扇ノ山だったが、その上空は
雨雲のようだった
登山道が林道と接するときがあった
 
    
西に向かって広く展望の開ける所があった 左の写真の青ヶ丸と仏ノ尾の並ぶ姿を見る
     
 上の写真の氷ノ山を
 大きく見る 山頂に
 ガスがかかろうとし
 ていた

    林道から登山道に小
    橋の架かっている所
    を見た 林道側の登
    山口のようだった
    
蘇武岳の山頂が間近になってきた 少し傾斜がきつくなって木立の茂る所を通った 山頂が目前となった
    

 芝地の広がる蘇武岳
 山頂を見る 上空は
 黒雲が広がろうとし
 ていた

       一等三角点のそばに
       は方位盤が置かれて
       いた
     
山頂に着いて程なく、周囲にガスが漂いだした 東の山並みもガスに隠されだした 山頂からは、西の山並みは木立に遮られていた
      
下山を始めると大雨となった 林道そばの東屋
に避難する
東屋から見る西の山並みも、すっかり雨雲に包
まれていた
尾根歩きは諦めて、林道で金山峠に向かうこと
にした まだ強く降る中を歩き始めた
    
歩くうちに瀞川山に陽射しが当たりだした 空の一角には青空の広がる所も見られ出した 前方の妙見山の尾根には、まだ黒い雲が多かった
   
林道を50分と歩かず、金山峠に着いた
阿瀬渓谷に着くと、川の水はすっかり泥の色だ
った
水量が増えており小橋は何とか渡れる状態だっ
    
滝も泥色になっており、風情は微塵も無かった 何とか徒渉して金山集落跡の広場に戻り着く 下るうちに水かさは更に増して、泥の川だった
    
「龍が滝」も単なる激流にしか見えなかった からん橋を渡る 沢は急流になっていた 「源太夫滝」も泥色では優美さは無かった
    
「源太夫滝」を見る滝見小屋が林道のそばにあ
った
小屋のそばから「源太夫滝」の下流を見る この日のハイキング時間は9時間になっていた