雪の積もる山は、無雪期と積雪期では違った表情を見せるもので、冬季も是非訪れるようにしているが、この阿舎利山にも積雪期登山を望んでいた。実現したのは03年12月23日のこと。この冬初めての大雪となった後で、快晴の日だった。山崎町以北はすっかり雪化粧をしていた。駐車地点はカラウコ大橋を渡り、トンネルを抜けた所にある休憩地点とした。この日考えていた登りのルートは、カラウコ大橋のそばから始まる尾根を登って行くルートだった。いままで登っていない尾根を登ろうとの考えで初めての尾根だったが、カラウコ大橋がショートカットしている湖岸路の奥から地形図には破線路が書かれており、それを利用して尾根に出ようと考えていた。トンネルの中を歩いてカラウコ大橋に近づき、その手前で湖岸路に入った。音水湖は大橋の南東へと入り込んでいるが、その先は渓流となって阿舎利山の山腹へと続いている。湖岸路を最奥まで歩き、後は渓流に沿っている地形図の破線路を歩いて行く。ごく普通の山道で雪は意外と少なく、10センチほどで歩く妨げにはならなかった。その沢沿いの道がやや急坂になって歩きにくくなってきたので、それなら尾根歩きのほうが楽ではと思え、左手の山肌に適当に取り付いた。けっこう急斜面だったが、100mほど登って尾根に出た。尾根は着いた地点から下り坂になっており、それなら斜めに登っておればと思いながら尾根歩きを開始した。尾根の雪も10センチほどで、無理なく歩いて行けた。もう山頂まで1本道のようなものである。ただ尾根は終始植林地で続いており、少し単調なきらいがあった。植林地だけに灌木等も無く、楽な登りが続いた。このまま楽なのかと思っていると、標高で900mを過ぎ辺りが自然林に変わって来ると、俄然雪の量が増えて来た。ワカンの準備をしていなかったため、膝まで潜り出した。もう一気にラッセル状態になってしまった。急傾斜で無いことは救いだったが、新雪とあって雪質が軟らかく、一歩一歩が潜ってしまい、一気に歩度が落ちて来た。また久々の雪歩きということもあって足は急激に疲れて来た。歩くことも大変だったが、昼が近づいて急激に気温上がって来たことで樹上の雪が固まりのまま落ちて来るようになった。大きな固まりだとちょっと危険なほどで、頭上にも注意が必要だった。ただこのラッセルにも、新雪の雪面にトレースを付ける楽しさがあり、苦しさも有れば面白さもありで、内心はこの状況をけっこう楽しんでいた。最後は本当に疲れてしまい、一歩一歩踏みしめるような状態になって山頂に着いた。ラッセルでかなり時間を使ったと思っていたが、麓から2時間半ほどでの山頂だった。山頂の積雪は60センチほどか。雪の阿舎利山を目指す変わり者は他にはおらず、本当に静かな山頂だった。相変わらず展望は無かったが、周りの木は裸木となっているため、樹間を通して音水湖や近くの山並みがちらちら眺められた。本当はいろいろと動き回りたかったが、雪が深くて思うように動けないのは残念だった。それでも一本の木に登って、三久安山をまずまず眺めることが出来た。山頂は少し冷たい風はあったものの陽射しが暖かく、快いひとときをパートナーと共に過ごすことが出来た。下山は過去に歩いた尾根の中で一番展望の良かったと思えた北西に延びる尾根を下ることにした。途中に812m三角点(点名・三久安)のある尾根である。この尾根だけは3度目となる。一番植林の少ない尾根で、歩き易さも一番だった。新雪の下りは楽なもので、散歩気分で下って行けた。一度、前方遠くに三室山がうっすら見えることがあった。812m三角点に着くと、予想通りに音水湖がはっきり見えていた。その音水湖を前景にして白くなった氷ノ山も頭を覗かせていた。その先の尾根も暫くは緩やかなまま続き、裸木の間から音水湖やそれを取り巻く山並みがまずまず眺められた。程なく尾根は二手に別れたが、この日は駐車地点に近づける左手の尾根を下って行った。植林地の急斜面となり、植林に掴まりながら尾根なりに下って行くと、トンネルの通る小さなピークとの鞍部に下り着いた。そこからは尾根を離れて北へと下りて行くと、国道29号線につながる山道に合流した。この日の阿舎利山も楽しい思いで終えることが出来たと思いながら駐車地点に近づいて行った。
(2004/1記)(2007/11改訂) |