宍粟市の北部、音水湖を取り巻く山並みは近年漸くガイドブックに取り上げられるようになってきたが、まだまだ静かな山域を保っている。その音水湖の山は四季を通して楽しめるが、一番楽しみなのは晩秋の紅葉期だろうか。植林の多い地域だが自然林も多く残っており、それが鮮やかな色に変わって山に華やぎを見せるようになる。07年はこの紅葉を期待して11月の第一週にまず三久安山を訪れて、思惑通りに紅葉の尾根を楽しめた。この07年は10月まで暑い日が続いたこともあり、中腹辺りはようやく紅葉を始めていた。そこでもう一週、音水湖の山を楽しむことにした。向かったのがこの阿舎利山で前週の続きのようなコース設定とした。前週は阿舎利山と三久安山の間にある973mピーク(点名・蓮花、字名から蓮花岩山とでも呼んでみたいが)に登ってから三久安山を目指したが、この日はまず阿舎利山に登り、その後に973mピークに向かうことにした。阿舎利山のルートとしては、「新・はりまハイキング」の紹介コースで登ってみることにした。6回目にして初めて登山コースを登ることになった。
前日までは小雨もありそうな天気予報だったが、この日の朝は快晴に迎えられて目覚めた。その快晴は宍粟市に入っても続いており、ほとんど雲の見られない絶好の登山日和だった。一宮町三方に入ると「阿舎利の水」の標識があり、それに従うままに走ると、自然と阿舎利集落への道に入った。その阿舎利の郷の最奥に二つ橋があり、それを渡った所が阿舎利山のセト谷コース登山口だった。そこには数台分の駐車スペースがあったため、車はそこに止めることにした。里にも紅葉が下りてきたらしく、近くのモミジが真っ赤に紅葉していた。このセト谷コースは95年に973mピークへ初めて登ったときに途中まで利用しており、問題無く歩けた印象があり、ごく気楽な気持ちで歩き始めた。沢沿いに続くコースには点々と赤テープの目印があり、ときおりは阿舎利山のプレートもあって、それを追うようにして登って行った。周囲はおおむね植林帯で、その中をスムーズに歩いて行けると思っていたところ、けっこう倒木が多く前回歩いたときよりも荒れているように思えた。途中でコースが二手に分かれたが、そこに道標があり、「右
引原、左 山道」と書かれていた。95年のときは右の道に入ったが、この日は左の道をとる。相変わらず沢沿いに小径は続いており何度か沢を横切ったが、沢沿いを進むことには変わり無かった。30分ほど歩いたときに一度沢沿いを離れかけたが、また戻って沢沿いを進むことになった。倒木が多いものの小径は緩やかに続くため、足にとっては楽な道だった。登るほどに沢は細くなって消えて来ると、ようやく傾斜がきつくなって来た。周囲はすっかり植林地でちょっと退屈な登りだった。その登りを続けているときに左方に明るい所が見られた。ひょっとして展望に出会えるかとコースを離れて向かってみると、そこは真新しい林道の終点位置だった。地図には書かれていない林道で、最近になって延びて来たようだった。展望も無いためコースに戻って登りを続ける。ただその辺りはコースが追いづらく目印を頼ることになった。程なく尾根を歩くようになってコースは分かり易くなる。その尾根登りに入って程なく前方に開けた所が現れた。近づくとそこは崩壊地になっており、この日初めての展望が開けていた。北の方向の展望で、快晴の下に三久安山と藤無山がすっきりと見えていた。その左手には氷ノ山も覗いている。もうそろそろ主尾根に出てもと思っていたのだが、その崩壊地のすぐ上が主尾根で、そこには山頂まで5分と書かれていた。山頂はずっと先かと考えていたので、何ともあっけない感じだった。主尾根に出るとそれまでとは別世界だった。尾根道はひたすた緩やかで、優しげな自然林が広がっていた。落葉は進んでいたが、真っ赤に色づいた木立も見られた。足元は落ち葉に覆われている。その中を歩き出すと、本当に5分ほどで山頂だった。山頂はほぼ落葉が終わって、すっかり落ち葉の世界だった。その山頂が以前と比べて妙に明るくなったように思われた。なぜかと思って見回すと、北の木立が切られており、そこだけぽっかりと空間が出来ていた。その空間の中に見えたが氷ノ山だった。こんなに見事な氷ノ山に出会えるとは思ってもいなかったため、ちょっと感動する思いだった。この新たな出会いだけで無く、山頂に点在するブナの姿を眺めているのも楽しく、久々の山頂を良い雰囲気で過ごすことが出来た。この山頂を30分ほどで切り上げ、973mピークへと向かった。セト谷コース分岐点までは登って来たコースを戻ることになり、そこより先は三久安山へと続く尾根を歩いて行く。左側は自然林で右側は植林で続いており、足元は落ち葉道だった。それにしてもこの阿舎利山の尾根からもすっかりクマザサは消えていた。何とも歩き易くなったものである。尾根を緩やかに下って行くと、始め左手に見えていた三久安山が正面に見えるようになって来た。そして先で973mピークへの尾根が分かれた。973mピークを目指してそちらへと入る。ここから973mピーク山の山頂までは一週間前に歩いた道で、始めに植林地を歩いて行く。枝打ちされた枝を踏みながらアップダウンの尾根を進んで行くと、左手に展望が広がって来た。一面が伐採地になっており、三久安山が全貌を現した。一週前と比べると中腹の紅葉が進んでおり、ちょうど見頃の感じだった。陽射しのある所まで歩いてそこで昼休憩とした。973mピークは三久安山の最高の展望台で、視野いっぱいに広がる紅葉の山肌を見ながら、パートナーと二人っきりでの昼どきを過ごした。先ほどまでチェーンソーの音が聞こえていたが、その山仕事の人が足元に小さく見えていた。8人ばかり居るようで、そちらも昼休憩に入ったようだった。20分ばかりの昼休みで尾根歩きを続けることにした。この973mピークは山頂付近だけが見栄えの良い自然林が残っているが、この日はごく簡単に通過して、更に東へと尾根を進んだ。この日考えていた下山ルートは、この973mピークの南東にある844mピークを経由して二つ橋の位置に戻って来る案だった。今少し東へと尾根歩いて行くと、尾根は下り坂となったが、灌木が茂り出した。灌木ヤブとなってちょっと面倒になったが、それも長くは続かず尾根が南に向かい出すと、おおむね植林の中を歩くようになってまた歩き易くなった。そして844mピークから先は南西へと二つ橋に向かう尾根に入った。それまでほとんど目印は見なかったのだが、植林帯の尾根に点々と赤テープが付いていた。どうやら測量用のテープのようで、尾根が急傾斜となっても続いていた。急斜面ではどこを下っても同じなので、赤テープを頼りに下って行くと、阿舎利の里に下り着いた。もう駐車地点は目と鼻の先だった。二つの山をつなぐことで周回コースを考えたのだが、予定通りに歩けた上に紅葉を楽しめて満足の思いで駐車地点に近づいて行った。
(2007/11記)(2021/12改訂) |