荒尾山を一番簡単に登るコースとなれば、鳥ヶ乢峠から千種町と波賀町を分ける尾根をひたすら登るコースと思えるが、コース中に植林地が多くあって、あまり楽しいコースとは言えない。それも積雪期となれば、コースが単純なことと手頃な時間で登れることで、ちょっと興味が湧いてくる。2012年1月は雪山には向かわず、ひたすら暖かい瀬戸内側の山を登っていた。2月に入ってそろそろ雪山でもと考えたとき、体を雪山に慣らすのに適当な山を登ることにした。そこで思い付いたのが荒尾山を鳥ヶ乢峠から登ることだった。
向かったのは2月に入っての最初の日曜日。パートナーは日曜は忙しいとあって、単独で向かうことにした。1月は雪がよく降ったとあって、波賀町は雪景色だった。国道429号線を鳥ヶ乢トンネルの手前で離れて、鳥ヶ乢峠への車道に入る。きれいに除雪されており、路面に雪は残っていなかった。難なく鳥ヶ乢峠に着いて、車は登山口から少し離れた道幅が少し広くなった所に止めた。上空は薄い雲があり、淡い色合いの空だった。宍粟環境美化センターの入口の前を通って登山口に着いたところ、そこに見たのは見事なトレースだった。誰か歩いておれば少しは楽に登れるのではと考えていたのだが、グループが歩いたようで、十分に踏み固められていた。幅も60〜70センチはありそうだった。これはスノーシュー無しでも歩けそうだったが、登り坂のことも考えて、始めからスノーシューを履いて歩いて行くことにした。始めは平坦な林道の部分を歩いて行く。左手に木立を通して美化センターの建物が見えていた。10分ほど歩くと、標識が現れて尾根の方向に向かうことになった。本来はそこからは方向と目印を頼りに登ることになるのだが、トレースをただ辿るだけだった。尾根に出ても、トレース上を歩くことに変わりなし。しっかりと踏み固められており、スノーシューはさほど機能していなかった。そのスノーシューが役立つのは急坂となった所で、そこはスノーシューのヒールアップ機能を使って軽快に登った。気温は0℃を下回っていたが、風は僅かとあって、登っているとほとんど寒さは感じなかった。むしろ良い汗をかくことが出来た。ただ周囲は植林が続くため、展望はほとんど無し。尾根の片側が松林になっている所も現れたが、展望の悪いことに変わりなかった。植林地内では雪は30センチ程度で、そこにトレースが付いているので、本当に歩くのは楽だった。細尾山の三角点で一息ついて、登りを続ける。登るほどに積雪は増えてきて、50センチを越えてきた。急斜面ではけっこう苦労してトレースを付けた様子が窺えたが、こちらはそのトレースを辿るだけなので楽なものだった。登るうちに上空にガスが広がり出しておやっと思ったが、一時的だったようで、程なく陽射しが現れて青空が広がってきた。標高1000mを越えて小さなピークを越すと、漸く樹間から山頂が望めるようになった。少し下って登り返した所が山頂手前の1080mピークだが、トレースは1080mピークは通っておらず、巻き道で山頂に向かっていた。どうもラッセルが厳しいためか、1080mピークを踏む余裕は無かったようである。こちらは1080mピークに立つことにした。トレースを離れると、スノーシューを履いていても、20〜30センチは潜った。雪は柔らかかった。1080mピークに立つと、山頂は指呼の距離だった。辺りの積雪は1メートルほど有りそうだった。トレースに戻って山頂に向かう。1080mピークから20分で山頂に着いた。荒尾山の山名標識が立っており、その一帯の雪が広く踏み固められていた。トレースを付けた登山グループは、その先は大甲山へと向かったのかと思っていたのだが、山頂から先にトレースは見られなかった。どうやらピストン登山だったようである。時計を見ると、ここまで登山口から約100分だった。ゆっくり登っていたのだが、これなら無雪期より早かったかも知れなかった。トレースのおかげである。ここに着いて展望もぐんと良くなって、少しうっすらとした視界ながら白くなった植松山がすっきりと眺められるようになった。その左には日名倉山も覗いている。本来なら雪の中を登って漸く着いたと言う思いに浸れるのだが、この日はそれが無かった。簡単に登れてしまうと、雪山と言えども感慨は少ないようだった。この先どうするかだったが、尾根なりに北西へ少し下った所に展望地があるので、そこまで歩くことにした。そちらはウサギの足跡があるだけだった。小休憩をとった後、その展望地へと歩き出したが、俄然ラッセルとなった。一歩一歩を運ぶ歩き方で進んで行く。展望地までは僅かな距離だったが、10分以上かかって着いた。そこは変わらず好展望地で、西から北、東へと広く眺められた。ごくうっすらとながら氷ノ山も望めた。またここに着いてヒルガタワが大きく眺められることになったが、その姿を見て急に登りたくなった。荒尾山を簡単に登れたことであまり疲れておらず、時間もまだ10時半とあって、昼を目処にヒルガタワを目指そうと考えた。そう思い付くと、すぐに実行に移した。そこまではラッセルと言えどもただ足を運ぶことを考えておれば良かったが、そこからは木立が邪魔をしだした。また大岩が行く手を阻むこともあり、苦労が倍加することになった。それでも下り坂なので足への負担は少なかった。鞍部に着いて登り返しにかかると、苦労は更に倍加する思いとなった。急坂の上り坂は雪溜まりに突っ込むことが多くなり、しかも軟雪に足を取られることになった。腰まで潜ったり、1メートル登って1メートルずり落ちることが何度もあった。こうなると脚力よりも腕力だった。少し登っては雑木に手をかけて、体を引き上げるようにして登った。時間はたっぷりあったので、焦る必要の無いのは精神衛生上良く、とにかく落ち着いて登った。それにしても目の前に見えているヒルガタワがなかなか近づかなかった。始めは一時間ほど歩けば目処がつくと思っていたのだが、漸く急坂を登りきったときは、リミットと考えていた昼になっていた。本当に苦労して登って来ただけに、思わず雄叫びを上げてしまた。そのヒルガタワの頂上部は東西に長くなっており、西端に着いて漸くザックを下ろした。そこまで来ると、植松山がずっと近くに見えていた。その姿を見ながら、思いっきり充実感に浸ることが出来た。ただ空の様子が変わってきていた。荒尾山では淡いながらも青い空だったのだが、薄曇りに変わっていた。そのため風景は少し沈んだ色合いになっていた。ヒルガタワの山頂では10分ほど過ごした後、下山開始に移る。後は歩いて来たコースを引き返すのみだった。自分で付けたトレースを踏むだけなので楽だと言いたかったが、急坂は登ってきたときとは歩幅が違うため、ともすると雪溜まりにはまることがあった。それでも登りと比べると楽は楽だった。その帰路でも荒尾山の手前の展望地では、再び小休憩とした。午前の青空と比べると暗い風景だったが、視界はさほど変わっておらず、氷ノ山がごくうっすらと見えるのは同じだった。荒尾山に着くと、後は幅広いトレースを辿るのみ。但し急坂の下りはトレースを辿らず、自分で踏み跡を付けた。雪が少なくなると急坂をスノーシューで下るのは逆に歩き難いので、スノーシューを脱いで下った。雪は十分に踏み固められていたので、特に問題も無く歩けた。下山を終えたのは15時前。空はすっかり曇り空に変わっていた。この日は雪山に慣れようとの目的もあったのだが、十分過ぎるくらい慣れてしまったと言えそうだった。 |