兵庫県にあっては千メートルを越す山ともなれば高峰の部類に入るが、宍粟市の北西部、旧千種町は三室山と後山が1300mを越えている上に1200m台の山もあり、1100mではあまり目立たないと言えそうだ。特にこの竹呂山は三室山のそばにあるだけに、どうも小ぶりに見えてしまう山である。その竹呂山を初めて登ったのは1994年9月のことで、山頂近くで展望が良かったものの山頂は樹林に囲まれて薄暗く、それに尾根もクマザサが茂っており、ちょっとマイナーな感じを持ったものだった。ところがこの数年の間に山の様子は大きく変わってきており、尾根を覆っていたクマザサが多くの山で激減していた。鹿の食害もあるだろうが温暖化の影響も関係しているのではと思っている。所によってはクマザサの痕跡も無く、禿げ山のようになっている尾根も見かけるようになった。その結果としてぐんと歩き易くなって、三久安山のように登山者の増えてきた山もあるようだった。この竹呂山もどうやらクマザサの消えた山になりつつあるようで、その変化の様子にちょっと興味が湧いてきた。初登山から14年経っており、兵庫の千メートル峰として一度しか登っていなかったことに少し気になるところでもあったので、興味が出たところで早速向かった。2008年7月最初の日曜日のことだった。
この日の天気予報は晴れ。姫路の朝の空は曇り空だったが、次第に晴れるだろうと考えながら北に向かっていると、予想通り少しずつ雲が薄れ出した。そのまま快晴かと思っていたところ、薄れ出した状態のまま相変わらず雲は多く、その薄曇りの中を波賀町原から八丈川沿いの林道に入った。林道は細いながらも舗装路で続いていたが、原不動滝の位置を過ぎるとダート道に変わった。道は少し荒れている程度で、ときおり落石を見たが、それを取り除きながら進んで行った。その状態で奥深くへと進み、カンカケ峠(カンカケ越)の林道が分かれる位置で車を止めた。前回の登山が西側となる旧千種町側からアプローチしたため、この日は東側からと考え、この旧波賀町側を選んだものである。この日のコースとしては周回コースを考えており、駐車地点を起点に登りは南東尾根を歩き、下山は南尾根を歩いてカンカケ峠へ、そして林道を歩いて駐車地点に戻る考えだった。南東尾根にはすぐに取り付かず、まずは八丈川沿いの林道を終点まで歩くことにした。林道は沢沿いを北西方向にまっすぐ延びていた。けっこう幅広い道で、作られてから長い年月が経っているだけに落ち着いた佇まいを見せていた。周囲の雑木林の緑が色濃かった。その林道が進むうちに荒れ出した。落石や倒木があるだけで無く、深く抉られた所もあり、とうてい車の通行は無理のようだった。45分ほど歩いて林道終点に着いた。そこからは南東尾根を目指して右手の山肌に取り付いた。その辺りでは八丈川は小さな沢になっており、沢の水量は乏しくほとんど沢底が現れていた。登り出してみると辺りの木々は空いており、無理なく登って行けた。聞こえて来るのはセミの声と沢からのカエルの声で、けっこう喧しかった。小さな尾根を歩き易い所を選んで登って行ったが、所々でアセビが茂っておりそこはムリヤリ突っ切っることになった。林道の終点位置と尾根までとの標高差は120mほどだったので、20分とかからず尾根に出た。尾根が近づくとブナも見られるようになっていたが、尾根に着くと雰囲気が一気に良くなった。なだらかな尾根にはブナを始めとして大木が多く立っており、山深さをじんわりと感じられる風景だった。思わず近くの倒木に腰掛けて一休みとする。それまでは少し蒸し暑さを感じながら登っていたのだが、そこは涼しい風もあって言うことは無かった。そしてふと足元を見てこの雰囲気の良さの原因が分かった。地表に点々と茶枯れた竹の切れ端が見えていた。どうやら以前はここもクマザサが茂っていたようだったが、それが消えてこの雰囲気に変わったようだった。ただ所々にアセビの若葉が見えているので、いずれはアセビの灌木ヤブになるかもしれなかった。まずはこの歩き易くなった尾根を楽しむことにした。尾根は緩やかに続いており、木々もゆったりと広がって本当に良い雰囲気だった。ときおり目にするブナの巨木が頼もしかった。クマザサが消えただけでこの雰囲気の変わりようかと思ったが、クマザサがあっての野趣もあったので、それが消えたとなるとちょっと寂しい思いも湧いてきた。尾根は自然林ばかりでもなく植林もあり、そうなるとちょっと平凡な尾根になった。やがてカンカケ峠から続く尾根が合流すると、程なく山頂に着いた。山頂は緩やかに平らになっており、木々は植林と自然林が混じった感じで疎らに広がっていた。その中にぽつんと三角点が埋まっていた。一帯はすっかり樹林帯とあって薄暗いものの、風に涼しさがあって休むには悪くない所だった。そこで休もうとしたところ、なんと小バエがいっぱいたかってきた。何十匹どころでは無い。これはたまらないと以前の記憶で展望の良かった西の斜面へと避難した。その西側だったが、雑木が育って以前の展望が消えていたのは残念だった。その位置でも小バエがたかってきたが、山頂ほどでも無いので我慢して昼休憩とした。その昼休憩後、せっかくの山頂なので少し展望を求めて辺りをうろついてみることにした。しかし結果として植林の隙間から切れ切れに風景が眺められるにとどまった。結局は手頃な木に登って展望を得るしかないと近くの木に登ってみると、後山から長義山、天児屋山が一望となって以前の記憶を蘇らせてくれた。後は下山の尾根歩きを楽しむだけだった。地図をよく見るとカンカケ峠への尾根は緩やかに下っているものの途中に三カ所ほど小さくピークがあるようで、ずっと下り坂では無さそうだった。南東尾根から分かれて南へと続く尾根に入ると、こちらも悪く無い雰囲気だった。下生えは少なくブナ混じりの自然林が心を和ませてくれた。どうも竹呂山は山頂に立つことよりも尾根歩きをのんびりと楽しむのが相応しそうだった。ただずっと自然林が続くと言うことは無く、貧弱な植林となったり、アセビの茂る所では歩き難くなったりもした。その途中で登って来る二人連れの登山者とすれ違った。こんなマイナーな山で人と出会うのは珍しいことだったが、それだけ竹呂山の尾根の易しさが認知されて来たのかと思ったりもした。小さなピークでは尾根を外さないように注意したこともあって、ごくすんなりとカンカケ峠に下り着いた。そこに止まっている車は下山の尾根ですれ違った登山者のものだろう。竹呂山をごく簡単に登るのなら、ここまで車を進めて山頂とのピストンをすればよいことになる。そのカンカケ峠がこの日一番の展望地で、山頂で木に登って得た展望が、そこにすんなりと広がっていた。後は林道を歩いて駐車地点へと戻るだけだった。この日の周回コースは紅葉の季節こそ面白いではと思いながら最後の林道歩きを続けた。
(2008/7記)(2021/11改訂) |