TAJIHM の 兵庫の山めぐり <西播磨 
 
植松山    うえまつやま 1191.1m 宍粟市
 
1/2.5万地図 : 西河内
 
【2006年1月】 No.5 2006-11(TAJI&HM)
 
    後山山頂より  2003 / 2

 山には人の気配が残ると言うか、山頂に立ったときに、そのときは無人だったとしても、人の訪れの多い山には何かしら人の気配が感じられるものである。植松山に初めて登ったのは1993年10月のことだったが、その無人の山頂に立ったとき、空気と言い辺りの雰囲気と言い、何となく新鮮さを感じられたものだった。今思うと人の気配がほとんど感じられなかったためではと思えてきた。その植松山に二度、三度と登る間にコースは整備され、また「ふるさと兵庫50山」で紹介されたこともあって、植松山は今では兵庫にあっては有名山の部類に入ったようである。それと共に、山頂の新鮮さが失われて来たようだった。その植松山の山頂で冬の姿を見たいと思い始めたのは、いつ頃からだったろうか。山頂に新たな気持ちで立ちたいとの思いからだったが、冬に遠くから見る植松山は山頂を白くしており、いずれは冬山として登るつもりではいた。実現したのは2006年1月のこと。雪山に登るとなるとコース設定を慎重にしなければならないが、まずは一番無難なコースと言える、南麓の岩野辺からの道で登ることにした。無雪期ならば登山口から1時間半ほどで山頂に立てると思えたが、雪の季節なら林道入口から歩き始めるとして、3時間はかかるとの予測を立てた。
 雪山に登るのなら、ぜひ快晴の日に登りたいものだが、1月29日は、休日と快晴が重なった。兵庫の北部までとなると久々のことだった。まさに雲一つ無い快晴で、朝の冷え込みはきつく、国道29号線の温度計は−2℃を示していた。波賀町から国道429号線で千種町へと向かうと、鳥ケ乢(とりがたわ)はトンネル工事の最中だった。トンネルが完成すれば、積雪による通行止めも無くなることであろう。峠を越えて岩野辺地区が近づくと、日名倉山と後山がいつものごとく出迎えてくれたが、どちらの山も雪をまとって冬の姿だった。植松山の雪の量も多いのではと想像されたが、林道に入るといきなり積雪だった。轍が付いていたのでそのまま進んで行くと、さほど進まないうちに何度かタイヤが空転し出した。朝の冷え込みで、雪が凍っているためだった。無理をすれば今少しは進めそうだったが、林道入口から歩くことも想定していたので、引き返して林道入口のゲートのそばに駐車とした。雪の量は少ないので、スノーシューをかかえて歩き始めた。轍のところは凍っているため無理なく雪を踏めていたが、次第に雪が増えてきたため、スノーシューを履くことにした。そして再び歩き出したところ、すぐに轍は消えてしまった。てっきり登山口まで続いていると考えていたのに、登山口まで半分ほど来た所で終わってしまった。その辺りで雪は20cmほどになっていたが、もうその先は真っ白な雪面が広がっているだけだった。後は自分でトレースを付けて行くしかなかった。ただスノーシューのおかげで登山口まで30分ほどで着くことが出来た。まずは順調と言ったところだった。登山口で雪は30cmほどになっていた。後は夏道のある小河内川沿いの道を辿って行く。登山道はすっかり雪の下で、それらしき所を辿って行くものの、どうもこのコースは赤テープの目印が少なく、無雪期なら気にならないのだが、どうもコースを追いづらかった。右岸を歩いたり左岸を歩いたりして進んで行くうちに、左岸で流れの急な辺りを高巻きする所に出た。一帯は植林地になっており、道の有りそうな所を辿っているつもりだったが、倒木地を歩くようになってしまった。どうやらコースを外れたようだが、とにかく進んで行くことにした。急斜面でもあり、がぜん歩度が落ちて来た。何度も倒木を越すが、時間ばかり経ってあまり進まなかった。2時間経ってもまだ沢沿いを歩いていることに少々苛立ってきた。そこで山頂に向かって直登することにした。冬山となると、どこを登っても苦労は同じとの考えでもあった。ちょうど東向かいに伐採地が見えており、その先は山頂に続く尾根のようだった。そこでその伐採地に向かうことにした。伐採地へは左岸に渡ることになったが、渡ってからが一苦労だった。そこは露岩地でもあり、その露岩の縁を登っていると、何度も灌木に載った雪を踏み抜いて、いらぬ労力を使わされた。また登るほどに斜度は増して、油断すると1メートル登って1メートルずり落ちたりした。沢沿いを歩いていたときよりも更に歩度が落ちてしまい、何とか伐採地の一端に着いたときは、歩き始めてから既に3時間が経過していた。そこでようやく一息をついた。伐採地だけに展望は素晴らしかった。南西にはすっきりと日名倉山が見えていた。そしてこれから向かう伐採地の斜面を見上げると、そちらはもうひたすら真っ白だった。ただ近くで見るとけっこう急傾斜で、楽に登れそうには見えなかった。長くも休憩できず、再び歩き始める。伐採地は始めは緩やかな丘で、スノーシューで楽に歩いて行けたが、やがて斜度が増して来た。そして急斜面と言えるほどになって来た。そうなってくるとスノーシューが滑り出した。辺りの雪の状態は、固い雪の上にふわっと新雪が数センチ載った状態になっており、その新雪にのみスノーシューの爪がかかるため、どうしてもその下の固い雪に滑ってしまうのである。何度か滑るうちにスノーシューが役立たないと分かり、後は登山靴のみで、キックステップで急斜面を登って行くことにした。雪の状態はナダレの恐れもあるため、なるべく植林地寄りを登って行ったが、数歩登っては一息つくの繰り返しとなり、この日一番の苦しい所となってしまった。ただ展望だけは、登るほどに一段と素晴らしくなって来た。日名倉山の見える範囲が広がり、後山が西向かいの尾根の後ろに現れて来た。その展望は尾根に登り着いてから楽しむとして、ひたすら登ることに集中した。そしてようやく尾根に着いたときは、13時を既に回っていた。予定の3時間はとっくに過ぎていた。標高としては既に1000mは越しているので、後は北東へ向かう尾根を登って山頂に向かうだけだったが、この先どれだけ時間がかかるか分からなかった。まだ昼食をとっていなかったが、昼食抜きで山頂を目指すことにした。そこで一緒に登ってきたパートナーにそのことを言うと、腹ぺこだと言う。改めて「昼飯をとるのか山頂をとるのか」と聞くと、あっさり「昼ごはん」と言われてしまった。今立っている所も絶好の展望地なので、その風景を見ながら待つとのこと。そう言われれば仕方がない。15時には戻ると約束して一人で先を急ぐ。植林地の尾根だったが、着いた位置は陽当たりが良いのか、ほとんど雪が付いていなかった。登山靴のみでしばらく登っていると、尾根が東へと曲がり出して雑木も見られるようになると、一気に雪が増えて来た。そこで再びスノーシューを履いた。雪はベタ雪になっており、スノーシューには好条件で、ようやく気楽な登りとなった。尾根が緩くなり、また植林が濃くなって来た。その植林を抜けると、いきなり真っ白な雪面の風景が広がった。そこが山頂だった。クマザサはすっかり雪の下で、なだらかな雪面に現れているのはアセビの木のみだった。山頂は風も無く、陽射しを浴びていると十分に暖かかった。もう何とものんびりとした雰囲気で、それまでの厳しい登りが嘘のようなのどかさだった。そしてひたすら静寂だった。もう別世界に来たようなもので、暫しただぼうっとその風景の中に佇んでしまった。そしてしみじみと冬山は良いものだと思えてきた。また初めて植松山の山頂に立ったときに感じた、人の気配の無さも思い出されてきた。その心満たされる思いの中で、展望を楽しむことにした。間近には植松山から延びる尾根として、ヒルガタワから荒尾山が続いていたが、ヒルガタワの西に広がる笹原は雪ですっかり白くなっていた。そして南西には少し離れて黒尾山が望まれた。ただこの日は昼となって気温が上昇したためか、遠方の風景は少しモヤがかっており、氷ノ山などはうっすらとした見え方になっていた。山頂に立ったときは14時を回っており、そう長くも居られなかったのだが、出来るだけ山頂の雰囲気に浸りたく、雪面をあてもなくうろうろとしたりしていたが、タイムリミットの14時半が過ぎたことに気が付いて、山頂を離れた。パートナーと合流してからは、南西に向かう尾根を尾根なりに下ることも考えたが、登って来た伐採地なら一気に下れるだろうと思えて、その伐採地をシリセードで下ることにした。スピードの出過ぎることを心配したが、午後に入って雪は重くなっており、まずは無難に下って行けた。その後は、急斜面に入らないように注意しながら、支尾根を慎重に下って小河内川のそばに下り着いた。沢沿いでは夏道コースに一度出会ったのだが、下り坂でもあり、夏道コースを気にせず、歩き易い所を選んで適当に歩いて行った。午後に入って沢沿いの雪は減っており、途中からはスノーシューの必要は無くなっていた。もう後はのんびりと歩くだけだった。林道を歩き出す頃にはそろそろ辺りは暮色が迫っていた。
(2006/2記)(2018/6写真改訂)
<登山日> 2006年1月29日 9:34スタート/10:04登山口/12:28伐採地に到着/13:20西尾根着/14:01〜34山頂/14:51西尾根の到着地点に戻って来る/16:37登山口/17:04エンド。
(天気) 朝から雲一つ無い快晴で、空は真っ青だった。朝の林道の気温は−2℃だったが、時間が経つとともに気温は上がり、尾根に着く頃には6℃まで上がっていた。尾根では少し風あり。南西の風で冷たさは少なかった。山頂では陽射しを十分に受けて暖かかった。ただ気温が上がったことで、視界はややモヤがかっていた。山頂の積雪は推定1メートル以上あり。好天は終日続いた。
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登山コースは、始めは植林地を通っていた 沢沿いを歩いて行く 右手が開けたとき山頂方向を見る 支尾根を登って行くと、次第に日名倉山が現れた

伐採地の端に立っ
て尾根の方向を見
上げた

尾根に着いて西の
山並みを眺めた
右上の写真に写る後山を大きく見る 尾根に出て山頂方向を眺めた 山頂への尾根歩きは雪山の楽しさを味わえた
(←)
山頂が近づいた
頃、北の木立に
空いた所が現れ
て北の高峰が望
まれた

 (→)
  左の写真の右手
  に氷ノ山を見る

(←)
山頂は無人の世
界だった その
静けさに思いっ
きり浸った

  (→)
  左の写真の右手
  を見る
山頂からの展望は、ヒルガタワの尾根の白さが目立った 頂から南東方向を望む
下山は伐採地を下ることにした シリセードで伐採地を下った 沢まで下りてきて、沢沿いを適当に歩いた