赤谷山に登山コースが出来てからは、戸倉峠側からは歩いていたが、東麓側となる戸倉スキー場からは歩いていなかった。その戸倉スキー場からのコースを残雪期に歩いてみたいと思って向かったのは、2011年4月の第2日曜日のことだった。前日の土曜日は曇りがちな空だったが、その夜の天気予報で日曜日が快晴になると分かると、このチャンスにぜひ登ってみたくなったものである。ただ一日を赤谷山で過ごす気は無く、午前で登山を終わらせたかった。そこで翌日曜日に自宅を離れたのは、早朝の6時を回ったばかりの時間だった。この急な思い付きにはパートナーは同調せず、一人で向かうことになった。空は期待していた以上に良く晴れており、雲は全く見られなかった。戸倉スキー場に着くと、広い駐車場に1台だけぽつんと止めることになった。ゲレンデにはまだ多くの雪が残っており、その雪の部分を登って行くことにした。時間は7時半を過ぎたばかり。快晴とあって朝は冷え込んでおり、気温は5℃だった。草地の現れている所は、うっすらと霜が降りていた。スノーシューは準備していたものの、まずはツボ足で登って行く。その雪が朝の冷え込みで凍っており、滑り易くなっていた。キックステップで登って行く。急斜面は登り難いので草地を登ろうとしたところ、そちらも凍っており、いっそうの滑り易さだった。結局は雪面を登って行くことになった。その振子沢ゲレンデを登りきって山頂ロッジのそばに出ると、そこは日当たりが良いのか、雪はほとんど見られなくなった。高丸ゲレンデを適当に抜けてスキーリフトの終点が近くなると、登山コースの標識が現れた。まだ少し雪が見られたが、そこを登って国土交通省の戸倉基地局が建つ880mピークに着くと、その先の尾根には雪は無かった。標高900mほどでは、4月ともなるとさすがに雪は残らないようだった。ただ尾根を外れた所には点々と残ってはいたが。その880mピークから山頂までほぼ真っ直ぐに尾根は続くので、赤谷山は見えるかと樹間の隙間から探すと、真っ白な山頂が小さく見えていた。期待通りにスノーハイキングを楽しめそうだった。暫くは雪の無い尾根歩きだった。落ち葉を踏みながらの気楽なハイキングだった。周囲の自然林は裸木とあって陽射しが良く届き、暖かさを感じながら歩けた。尾根の傾斜は緩く、小さなアップダウンがあるのみ。ブナの枝ぶりを眺めたり、樹間を通して氷ノ山を眺めたりと、一人歩きの気楽さを楽しみながら歩いた。その尾根を登るうちに周囲に見られる雪が少しずつ増えてきたが、登山道にはまだ現れなかった。雪が登山道を隠すようになったのは標高1100m辺りか。それでも現れたり消えたりだった。雪が現れたとき、そこに前日に歩かれたと思えるツボ足のトレースが付いていた。少し潜っていたので、昼ごろに歩いたのかも知れない。登山道がすっかり雪に覆われ出したのは県境尾根が近くなった辺りだった。少し雪が軟らかくなってきたことでもあり、スノーシューを履くことにした。これで漸く残雪のハイキングとなった。県境尾根に合流すると、山頂が間近に眺められた。そこまで白い雪面が続いており、上空は雲一つ無い青空が広がっている。その中を一歩一歩山頂に近づいて行くのは、やはり楽しかった。ただ見渡す所が総て白いわけでは無く、ネマガリダケが広く現れている所もあり、やはり4月の山だった。右手の氷ノ山がすっきり見えるようになっていた。風はほとんど無く、何とも穏やかな天気の中、山頂に着いた。その山頂はてっきり雪に覆われているものと思っていたのだが、一番良く陽射しを受けるためか、三角点の位置を中心に広く地表が現れていた。その様子では日に日に雪は消えて行きそうだった。時間は10時前。歩き始めてから2時間半ほどなので、手頃なハイキングだった。山頂に立つと、そこはほぼ360度の展望地。スキー場で周囲の山を眺めたときは視界はさほど悪いように思えなかったが、山頂から見る周囲の風景はうっすらしていた。春霞のようで、三室山も東山も残雪の姿をうっすら見せていた。北の視界は幾分良いようで、氷ノ山の避難小屋がはっきり見えていた。山頂に着いて、漸く朝食とした。周囲を眺めながら、この春山の雰囲気も悪くないと一人の山頂を暫し楽しんだ。山頂には20分ばかり居ただけで下山とする。この日の目的は残雪の雰囲気を楽しむことだったので、それを十分に味わえたことで心はすっきりしており、下山で別ルートを歩こうとは考えず、すんなり登って来た尾根コースを引き返すことにした。雪は少し緩んできていたが、下るとあって少しスノーシューが潜ることは気にならなかった。ブナの裸木となった姿を眺めながら下って行く。雪が消えても緩やかな尾根の下りはいっそうの易しさで、楽々だった。気温も15℃近くまで上がって、すっかり春の暖かさだった。それにしても尾根のクマザサはほとんど消えており、何とも楽になった赤谷山には、ただあきれるばかりだった。これなら新緑の候にブナの若葉をのんびり愛でながらの登山も楽しめそうだった。そのような思いで下っていると、もうスキー場が迫ってきた。そのスキー場の最後の急斜面は下るとなると速かった。朝と違って雪は緩んでおり、ツボ足でかかとを使って下ると10分とかからず麓に下り着いた。そして予定通り、午前で赤谷山登山の終了となった。
(2011/4記)(2021/2改訂) |