兵庫の山として千メートルを越えておれば気になるもので、一度は登っておきたいと願っている。その思いでめぼしい山にはほぼ登り終えていたが、この論山と中国風の名の付く山がなぜか残っていた。遠くから見るとそばの仏ノ尾が目立っており、それと比べると小粒感は否めない山だった。またヤブ山のようでもあり目印となる三角点も無いので、しっかり読図しながら登る必要もありそうだった。色々な要素が混じって後回しになっていたのだが、登るのなら紅葉の楽しめる晩秋にと考えていた。その論山を漸く目指すことにしたのは、2008年11月に入っての最初の土曜日、三連休の初日だった。
尾根の様子がつかめないため、遅くとも10時までには登り出したいと考えていたのだが、この日は自宅を離れるのにもたつき、姫路バイパスに乗ったときは7時半を回っていた。しかも播但道の有料代をけちって市川北ICで下りて、一般国道をひた走りした。また論山を見ようと香美町に入ってからも実山地区に立ち寄ったりもした。そんなこんなで久須部川沿いの林道に入ったときは、10時を十分に回っていた。空は雲が多いながらも青空が広がっており、もう昼の明るさだった。もう少し早く来ておればと思いながらも、順調に林道を走って高度を上げて行った。そして林道が小代スキー場の道と論山に近づく道との分岐点に着いたとき、そこに標識を見た。論山への林道は仏ノ尾線となっており、なにやら全通しているようなことが書かれていた。そうなると林道終点位置から歩き出す予定が狂うことになる。ただ全通は便利かもしれないと良い方にも考えられ、とにかく車を進めることにした。それまで林道は舗装路だったが、程なくダート道に変わった。ただダート道となっても道に凹凸は少なく、けっこうスムーズに走って行けた。そして前方には仏ノ尾が大きく見えて来た。その林道はやはり全通しているらしく、どんどん走って行け、予定の地点を知らぬ間に通り過ぎて仏ノ尾を東から見るようになった。その山肌が見事に色付いていた。こうなると取り付き地点が難しくなった。林道を更に走って下り坂になった所で車を止めて、どう登るかを考え直すことにした。そして決めたのが目の前に見えている仏ノ尾をまず登り、そして尾根を北へと辿って論山を目指すというものだった。但し、時計は既に11時を回っており、これはヤブ山登山としてはかなり厳しいスケジュールだった。ただ無理ならば論山を諦めて仏ノ尾だけで終わらせても良いと考えた。そこで突然の仏ノ尾登山となった。現在地を仏ノ尾の位置から判断して、仏ノ尾から東に延びる尾根上と推測した。「扇ノ山」の地図では1028mの標高点が付いている尾根である。そこで林道を少し戻って、仏ノ尾に一番近い位置から東尾根に取り付くことにした。その位置に戻るとうまく駐車スペースがあり、そこに車を止めた。その辺りも紅葉が見頃で、ちょうど陽射しを受けて明るく輝いていた。11時を10分過ぎてのスタートになってしまったが、さっそくそばの斜面に取り付いた。気持ちとしては論山登山は半分諦めていた。やや急斜面を雑木に掴まったり、草を掴んだりと適当に登って尾根に出た。後はひたすら西方向へと尾根なりに登るだけだった。尾根に笹はあまり見られず、灌木ヤブになっていた。但し緩いヤブコギ程度で歩いて行けた。尾根は緩やかに続いており、紅葉を楽しみながらの登りだった。尾根の紅葉は八分程度だったが、見事に色付いたヤマモミジもあって良い雰囲気だった。尾根は自然なままで続いており、歩き易いかと思えば灌木に遮られることもあった。またクマザサも現れたが、ササは枯れかかっており勢いは無かった。ときおり木々を通して南に論山が形良く見えていた。紅葉にときおり足を止めたり、またヤブに足を取られたりと、尾根は緩いながらもそれなりに時間がかかり、主尾根に着いたときは13時が近くなっていた。この先、仏ノ尾まで同じ状態なら仏ノ尾も厳しいのではと少し悲観的になりながら歩き出したとき、そばに小径の続いているのが見えた。目印テープも付いており、どうやら登山道のようだった。この出会いは本当に助かった思いで、そうなると現金なものですいすいと登って行った。ネマガリダケの茂る所も現れたが、ちゃんと切り開かれており、問題無く登って行けた。そして主尾根に出てから20分とかからぬうちに山頂到着となった。冬にしか来ていなかった仏ノ尾を、それも急な思い付きで登ってしまったことにちょっと戸惑いを感じたが、その様は冬の山頂のイメージを思い出させた。それは山頂一帯のネマガリダケが広く刈られていたためのようだった。そして中央には山名標識も立てられていた。その標識の柱をよく見ると、二カ所に大きな傷が見られた。その傷の様子から熊に囓られたのではと思えた。その切り開かれた山頂だったが、展望は良いとは言えなかった。ブナを始めとして高い木が周りを囲んでおり、視界を塞いでいた。少し良いのは北東方向ぐらいで、そちらは遠くに久斗山が望まれた。そこで山頂一帯を歩こうとしたところ、どうもスムーズに歩けなかった。それはネマガリダケの切り株によるもので、足元を見ていないとすぐに切り株に足を取られた。諦めて山頂中央のベンチに腰掛けて昼食とした。ただせっかくの仏ノ尾山頂なので氷ノ山を眺めたく、南から来ている登山道へと入った。少し下ると手頃な木があり、それにひょいと登ってみた。すると枝越しながらも期待通りに鉢伏山から氷ノ山の雄大な尾根が眺められて、漸く仏ノ尾に来ていることを実感出来た。青ヶ丸も見たいと別の木に登ると、こちらはごく近くにその山頂が眺められて、これで仏ノ尾山頂に思いを残すことは無くなった。遅い山頂到着ながらも、結局40分ばかりを過ごしてしまった。そして予定通り、論山に向かうことにした。途中でヤブのために時間切れになれば、東へと斜面を下れば林道に下り着けるので、気分的には楽だった。登って来た登山道を戻る形で下った。駐車地点から登って来た東尾根との合流点を過ぎても、すいすいと歩いて行けた。しかもブナを含めて自然林の美林が広がり、それが色良く紅葉していた。午後は雲が増えていたが、ときおり現れる陽射しがその紅葉を明るく照らした。すっかりハイキングコースとなっており、その歩き易さと雰囲気の心地良さにすっかりはまってしまった。ときおり東に展望が開けて、三川山から蘇武岳と続く長い尾根を眺められたりもした。仏ノ尾からずっと続くその登山道に、このまま難なく論山へと向かって行けるとそう思えたとき、急な感じでヤブ尾根になった。そこは論山との中間地点と言えそうな1030mピークへの登りにかかったときだった。ただ厳しいヤブでも無く、朝の尾根と同程度ぐらいだった。ちょっと我慢しながら、灌木の小枝を払ったりクマザサを分けたりしながら進むことになった。論山へ向かうとき、タイムリミットを15時としていたが、その15時が来ても着けそうに無かったので、15時半まででも良いと考え直して進んで行った。そのうちにヤブながらもケモノ道を追えるようになり、仏ノ尾を離れてから1時間半ほどで論山山頂に着いた。こちらはごく狭い山頂で、ただ自然なヤブだった。周囲を雑木が取り囲んで展望は無かった。ぽつんぽつんとブナの大木が立っていた。それでも目的通りに山頂に立てたことで、十分に満足する思いだった。ただ山頂の一番高いと思われる所に立つと、そばに半分倒れた杉の木が見えた。これ幸いと登ってみると、南に大きく仏ノ尾が見えており、論山まで歩いて来たことを改めて実感した。その後は下山するだけだったが、論山でも紅葉が進んでおり、その紅葉も楽しんで今少し過ごしてしまった。漸く腰を上げたときはタイムリミットと考えていた15時半を7分過ぎていた。下山は論山から南東に延びる支尾根を下った。これもヤブ尾根だったが、下り坂なので勢いのままにどんどん下って行き、30分とかからず林道に下り着いた。後は林道を南へと歩いて駐車地点へ戻るだけだった。林道は展望もあって蘇武岳の方向だけで無く、鉢伏山も眺められた。そして駐車地点との中間点辺りまで来たとき、右手の尾根側に標識の付いているのが見えた。そこに書かれていたのは「仏ノ尾登山口」の文字で、これで尾根の登山道に納得出来た。地図を見ると1030mピークの南につながる尾根が見えていた。それを登って尾根に出て、後はブナの美林を楽しみながら仏ノ尾へと歩いて行けることになる。ただこの日は知らずに歩いただけに新鮮さは大きかった。改めて新緑の季節に歩いてみたいと思いながら、駐車地点へと林道歩きを続けた。
(2008/11記)(2015/1改訂)(2021/12改訂2) |