TAJIHM の 兵庫の山めぐり <西播磨編
 
天児屋山    てんごやさん 1244.6m 宍粟市 
若桜町(鳥取県)
 
1/2.5万地図 : 西河内
 
【2008年11月】 No.4 2008-106(TAJI)
 
    おごしき山より  2008 / 8

 2008年も11月に入って、兵庫の高山はいっせいに色付き出した。そうなるとどっぷりと紅葉の山に浸りたくなった。その思いで11月2日に赤谷山を登ったとき、クマザサが枯れているだけで無く、ネマガリダケも勢いの衰えていることが気になった。これは以前から関心を持っていたことだったが、機会があればヤブ山の最深部でも状況に変化があるのか見てみたいと思ったものである。その一週間後の9日は朝から曇り空が予想された。前日の夜にその9日の山行を考えたとき、ひょっとすると視界は良くないのではと思えた。そこで展望は期待せず紅葉を楽しもうと考えたが、ヤブ山の観察もしてみようと思いついた。早速の実行である。そしてヤブ山として名高い天児屋山が目的に叶うのではと思えてきた。三国平までの登山道が無ければ行く気にはならなかったのだが、三国平を起点と考えれば、そこで標高は稼いでおり、後は尾根なりに東へと山頂に向かえば、ヤブのことはさておいて、登山としてはけっこう単純ではと思えた。そこでこの計画でパートナーを誘ったところ、あっさり断られてしまった。天児屋山の強烈なヤブコギは10年以上経っても薄れていなかったようである。おまけに天気の悪いこともあってのようで、断りの理由に急にコンサートの約束があると言われてしまった。ただこちらは行くと決めてしまったので、単独で向かうことにした。
 9日の朝は予想通り曇り空で迎えた。ヤブ山登山は行動を早くするのが鉄則なので、6時半には姫路の自宅を離れた。心配したガスのことは、千種町に入って後山を見たとき、山頂部に僅かにかかっているだけなのを見て、少しは安心した。どうやらいきなりガスの中を登ることは無さそうだった。峰越峠の登山口そばにある東屋の脇に駐車する。上空はガス雲が近かったが、尾根を隠すまでは下りていなかった。その空の下とあって、少し薄暗い中を歩き出した。気温は4℃と低いものの、県境尾根は紅葉の見ごろとなっており、良い雰囲気の中を歩いて行けた。その紅葉は下山で楽しむとして、さっと眺めながら尾根歩きを進めた。木々の間から見る天児屋山にはガスは見られなかった。標識に従って県境尾根を離れて江浪峠の道に入った。そして江浪峠からは三国平へとネマガリダケの切り開き道を歩いて行った。三国平はやはり山頂としての雰囲気は無く、どう見ても名ばかりの宍粟50山だと思ってしまった。三国平は北に向かって少し展望があったが、東山も氷ノ山も中腹から上は雲に隠されていた。いよいよ天児屋山へとヤブコギを開始する。もう道は無いので、歩き易い所を選びながら歩き出した。その辺りは笹も疎らでまた緩やかな地形のため、軽いヤブコギ程度で歩いて行けた。30mほど登って緩やかな台地に着く。そこには杉の木の並ぶ所があり、そこは笹が少ないためその間を歩いたりと、ヤブの少ない所を選んで進んだ。次の目標は山頂との中間地点となる1226mピークで、そちらもピークの分かり難い丘と呼べそうな地形になっている。そこをまず目指すのだが、地形がなだらかなため、方向だけは逸れないようにと注意した。もうネマガリダケも混じり出したが、予想した通り枯れてきているように思われた。今まで見たことの無かった立ち枯れの並ぶ所もあれば、広く枯れてしまっている所もあった。また元のままの所もあった。それをかき分けて進むが、枯れて簡単に折れるため、その折れ口が足に当たることになった。折れ口はけっこう鋭く、むりやり進んでいると足は傷だらけになってきた。そのうちネマガリダケが濡れてきた。前夜に小雨が降っていたようで、そこで雨具を着て歩くことにした。この雨具で足への衝撃は少しは和らいだ。1226mピークが近づくと、南に展望の開ける所があり、そちらには後山の尾根が眺められた。そちらも雲は低く、後山の山頂は少し雲に隠されていた。1226mピークに着いても地図の通りに一帯はなだらかで、どこが一番高いとも判然としなかった。そのピークの東端に進むと、漸く天児屋山の山頂が眺められるようになった。少しガスが出てきたようで、山頂はガスに隠されたり現れたりを繰り返していた。それまではネマガリダケのヤブコギと言えども、多少空いた感じはあったのだが、少しずつ密生してきた。それを押し分け踏みつけ進んで行く。やはり厳しいと言えたが、それでも以前感じたしなるような弾力感は減っているように思われた。その状態で山頂との中間点に来ると、そばにぽっかりとネマガリダケの切れている所が現れた。そちらに向かってみると、そこは膝丈までの笹が広がっており、のどかな所だった。よく見るとヒノキの植林地のようで、笹と同じ高さの幼木が点々と見えていた。その頃には北の空はすっかりガスに閉ざされていた。もう山頂は近いので、最後の一踏ん張りと再びネマガリダケのジャングルへと突っ込んだ。以前の記憶では一番高い地点で三角点を見たはずなので、高い方向を目指してひたすら進んだ。ヤブのきつい所は四つんばいになって通り抜けた。やはり核心部は厳しいようだった。もうこれで山頂かと思うと、まだ少し先が高いことが分かり、そこに着くとまたその先が僅かに高かった。そしてその先にもう高い位置は無いと確信したとき、そこに三角点を見た。その三角点を見たときの安堵感はヤブ山ならではのもので、本当にほっとする思いだった。そこは1m四方だけ三角点を中心に空いていたが、周囲は背丈を超えるネマガリダケがびっしりと囲んでおり、ネマガリダケの海に小さく穴が開いているようなものだった。その状態では展望は全く無しだった。ただ前回では手頃な木に登って展望を得たはずなので回りを見回すと、すぐそばにほんの小さな杉が立っていた。前回には見なかった木と思えたが、これは有り難いとさっそく登ってみた。登ると言っても手頃な位置に足をかけられる枝があり、ひょいと立ってみると、一気に展望が広がった。これが笹原の良いところで、雑木林ではこうはいかない。北の空はガスに閉ざされていたが、その他の方向がすっきり見えたのはうれしかった。先ほどの山頂のガスは一時的だったようである。東には三室山が見えていた。山頂こそガスに隠されているものの、間近に大きく見えていた。良く見えたのは南の方向で、後山から駒の尾山、ダルガ峰とその長い山稜が一望だった。そして眼下はネマガリダケの海だった。これはヤブ山ならではの展望と言えそうだった。そしてこの風景を眺めながら、天児屋山が宍粟50山に選ばれなかったのは良かったのではと思えてきた。宍粟の山にヤブ山好きだけが楽しめる山を残していただけたと感謝することにした。展望も得てこれでこの日の天児屋山に思いを残すことは無かった。軽い昼食を採って引き返すことにした。はっきりとした尾根筋が無いので、方向を定めながら歩き易い所を選んだ。緩やかな地形なので、ネマガリダケの中を進んでいるとすぐに方向がずれそうになり、何度も方向を確認することになった。1226mピークまで戻ってきたとき、南を見ると後山山頂のガスが消えており、また西の沖ノ山も眺められて、天気は山頂よりも幾分良くなっていた。その先はネマガリダケが多少疎らになることでもあり、少し安心したのだが、その先で大きな落とし穴があった。それは尾根が歩き易くなったことによるもので、つい尾根なりに下ってしまった。そして周囲の風景が朝と違うように思われて、漸く尾根を違えていることに気付いた。南西へと尾根を下ってしまっていた。そこで改めて地図を眺めて軌道修正をしたが、緩やかな地形の上に急にガスが広がってきた。程なく周囲はガスに閉ざされてただ近くの木立が見えるだけだった。そこで方向を決めて進むことにしたが、そういうときに限ってヤブがきつくなった。考えればヤブ山で最悪のパターンだった。ただ方向さえ間違えずに進めば多少時間はかかっても県境尾根には出られるので、我慢強くヤブコギを続けて行くことにした。そして突然のように登山道に出た。それは三国平と江浪峠を結ぶ登山道で、その中間点辺りだった。今少し北を歩いておればどういうことも無かったのだが、やはりヤブ山は難しいと言わざるを得ない。一度三国平のピークに立ち寄ると、そこもすっかりガスに包まれて何も見えなかった。おまけに小雨が降ってきた。そのガスを見ていると、このような天気での天児屋山登山はかなり無謀と言えそうだった。三国平に立ったことで、気持ちをハイキング気分に切り替えて峰越峠に戻ることにした。もう登山コースなりに歩いて戻るだけだった。そして県境尾根に着いて、じっくりと紅葉の様を楽しんだ。前週の赤谷山のカエデも美しかったが、この県境尾根のカエデも負けじと素晴らしかった。それは小雨でしっとりとした景色も影響しているようで、何度も足を止めて見入ってしまった。その美しさに大変だった天児屋山登山が少し遠い出来事だったように思われてきた。
(2008/11記)(2021/2改訂)
<登山日> 2008年11月9日 8:34峰越峠登山口スタート/9:12三国平分岐/9:19〜22江浪峠/9:27〜32三国平/10:50〜55[1226m]ピーク/11:38〜12:05天児屋山/12:42〜58[1226m]ピーク/14:10〜16三国平/15:01エンド。
(天気) スタート時の空はどんよりと曇り空。高い山の山頂は雲に隠されていた。尾根の気温は4℃と低く、少し風があって手が冷たかった。ただ曇り空ながらも視界はまずまず良かった。昼が近づいて天児屋山にもガスがかかり出したが、昼には消えていた。それが13時を過ぎた頃より周囲にガスが広がってきた。またときおり小雨がぱらついた。この日の気温は3〜4℃で変わらず続いた。
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峰越峠の登山口を登り始める 落ち葉が積もった県境尾根を登って行く ブナの木を見る 周囲に紅葉の木が見られた
見頃を迎えたモミジの木を見る 木立を通して見る天児屋山にガスは無かった 落ち葉の積もった様を眺める
ときに鮮やかな紅葉を見た 陽射しは無くとも落ち着いた色合いで、悪くな
かった
県境尾根を離れて、江浪峠への小径に入る
江浪峠への優しげな小径を歩いて行く 江浪峠に着くと、そこに石仏を見た 江浪峠には三国平登山口の標柱が立っていた
三国平に着いて天児屋山の方向を見る 東山も扇ノ山も山頂は雲に隠されていた 天児屋山へとクマザサをかき分けて歩き出す
最初のピークにある杉林が近くなった 最初のピークに着いて、南に駒の尾山を見る ブナの大木を見上げる
杉木立の辺りは歩き易かった ネマガリダケまで枯れている所を何度か見た 1226mピークへと向かう
南が見えたとき、後山は姿を現していた この辺りは枯れてしまった後のようだった ここはネマガリダケが黒くなって枯れていた
まだまだヤブの厳しい所も多かった 前方に見えるのは1226mピークだった 振り返ると、沖ノ山も東山も雲に隠されていた
1226mピークが間近になってきた 1226mピークに着いて山頂を見るとガスだ
った
進むうちに山頂のガスは徐々に薄らいできた
鹿によるものか、一帯の杉は樹皮を剥がされていた 山頂が近づいてヒノキの幼木帯を見る 山頂へと最後の登りにかかる

 山頂はネマガリダ
 ケの海だった そ
 の中に三角点を見
 た

   山頂のそばの木に
   登ると、ササの海
   が広がっていた

 右上の写真を少し
 大きく見る 三室
 山は山頂を雲に隠
 されていた

 南から西への展望
 も良かった
下山は登ってきたルートを引き返す 山頂近く
で真っ赤に色付いた葉を見た
下山時にヒノキの幼木帯に立ちよると、北東に
くらますが山頂を隠された状態で見えていた
下山時に1226mピークの東端に着いて、山
頂を振り返る うっすらガスがかかっていた
山頂の右手に黒尾山と水剣山を見る 1226mピークの東端から周囲を見たときガスが減っており安心したのだが
尾根を誤ったとき、周囲にガスがたちこめ出し
ヤブコギでむりやり進むと、予想通り登山道に
出た
下山時も三国平に立ち寄った
周囲はすっかりガスだった ガスの漂う中、県境尾根へと戻って行った 県境尾根に出ると紅葉をゆっくり楽しんだ
黄色く色付いたカエデを見る 赤く色付いたカエデを見る 微妙な色合いを持つカエデを見る