雪の三室山には二度登っているものの、どちらも夏道ルートを辿っておらず、変則ルートで登っていた。そこで一度夏道ルートのままに登ってみようと考えた。その夏道ルートも何年も登っていないと記憶が薄れるもので、正しくイメージがつかめなかった。そこで下見を兼ねて久々に無雪期の三室山を訪れたのは2008年7月だった。その登山もあいにくガスのかかる空だったため、翌週にもう一度登って山頂からの展望も確かめた。この二度の登山でルートのイメージを描くことが出来、後は雪の季節を待つだけだった。その機会が来たのは2009年に入って2月第二週のことだった。14日の土曜日は雨が早朝にあがると予想していたのだが天気の回復は遅いようで、この日は断念した。翌日曜日は兵庫全域で晴れが期待出来た。するとパートナーが用事で行かれないと言う。せっかくの快晴を棒に振りたくは無く、そこで単独行で目指すことにした。むしろきままに登れると言うものである。
姫路の自宅を7時前に出ると、鳥ヶ乢トンネルのおかげもあって8時を過ぎた時間には千種町に入っていた。この一週間暖かい日が続いていたため、千種町内の雪は一段と少なくなっていた。植松山を見ると、雪のかけらも見られなかった。三室山も山頂付近が白くなっているだけだった。そのため三室高原入口の駐車場にはすんなり着けるものと思っていたのだが、直前の三室橋を過ぎた所で一気に雪に阻まれた。凍った雪が20cm以上積もっており、四駆車なら進めそうだったが、無理をしないことにした。そこで少し戻って竹呂山登山口に車を止めた。歩き始めると雪が車道を塞ぐ部分は僅かだったようで、その先はまた雪は見られなかった。三室高原入口も雪の少ない風景で、遊歩道も半分ほど地表が現れていた。やはり例年と比べて雪はずっと少ないようだった。雪は積もっている所でも30cmも無いので、ツボ足で歩いて行けそうだった。ところが一歩一歩が潜ってしまった。なるほど空は快晴だったが、気温はその辺りで7℃と高めで、もう朝から雪は緩んでいるようだった。そこで雪は少なかったがスノーシューを履いて行くことにした。そのスノーシューでも大きく潜ることがあった。ただツボ足よりはだいぶマシだった。淡々と緩い坂を登って行く。やがて林道を歩くようになる。周囲は植林の風景だったり雑木林だったりしたが、すっかり地表が雪に覆われていると、スノーハイクの雰囲気となった。それでも雪は30cm以上は無さそうだった。またすぐに地表が見えたりした。高原入口から30分ほど歩いて最初の登山口標識が現れる。更に15分歩いて二つめの登山口標識が現れた。暫く木陰が続いていたためその辺りは少し冷えており、気温は4℃を指していた。そこからが登山道の始まりである。ほぼ地表は雪に覆われているが、それでも30〜40cm程度ではと思われた。そこまでの遊歩道も踏み跡はうっすらとしかなく、その先もあるか無きかなので赤テープの目印と地形を頼りに登って行く。始めに沢沿いのコースとなるが、一度左岸に渡る。そして右岸に渡ってから沢を離れるが、その辺りは雪で地形が不明瞭なために適当に沢を渡った。方向を定めて進むうちに赤テープを終えるようになり、やや急斜面を登って行く。その先は南西尾根を登って行くことになるので、目印が見えなくなっても頭の中にそれをイメージしながら植林地を登って行った。その辺りの雪も緩んでおり、ときにスノーシューでも大きく潜ることがあった。スノーシューが無ければ一歩一歩潜っていそうだった。南西尾根に出ると、後は山頂へと続くその尾根をひたすら登って行くことになる。スノーシューのヒールリフター機能をきかせて丁寧に登って行く。植林が裸木の自然林へと変わって、ぽつんぽつんと大きな岩が見られるようになった。岩場は暖かいのか笹の現れている所も見られた。そこを避けて雪の部分のを登って行く。大きな岩が並ぶ辺りは少し緩やかだった。そこを過ぎるとブナも見られるようになり、山頂まで10分の標識があってクサリ場が現れた。雪のためかクサリを登る部分は僅かしか覗いていなかった。クサリ場と言っても特に難しくも無くごく無難に登ると、木立が疎らになってきた。そして行く手に山頂が見えてきた。雪面が広がってきたこともあり、その辺りに来てようやく雪山らしい雰囲気となった。最後の急坂を一歩一歩確かめるように登る。そのまま歩を進めるのがもったいなく足を止めて振り返ると、今登って来た尾根の先に後山から駒ノ尾山へと続く尾根がすっきりと見えていた。もう山頂までほんのひと登りだった。笹はすっかり雪の下で、木立は疎らにしか立っていない。その木立が雪面に美しい影を落としていた。雪面にはトレースは無く、そこに自分の足跡だけが付いている。そして着いた山頂は人影は無く、山名標識だけがひっそりと雪面に現れていた。空は快晴。山頂の雪は例年よりも少ないようだったが、それでも1メートルはかさ上げされており、冬ならではのすっきりとした展望が広がっていた。播州の山はどの山も雪が少ないようで、ほぼ黒い姿をしていたが、北西に見えるくらますも東山も例年と変わらぬ白い姿だった。ただ北の空には雲があって氷ノ山も扇ノ山も山頂を雲に隠されていた。その北の空が暫くするうちに、雲が薄れてきた。10分もするとほぼ雲は無くなり、氷ノ山を始めとして但馬の雪山群が一望となって壮観だった。山頂は風も無くごく穏やかで、その風景を独り占めしながら昼どきとした。いつまで見ていても飽きない風景だったが、西から風が冷たさをもって吹くようになったので、それを潮時に下山することにした。もう自分の足跡を辿るだけなので、登って来たときのように前方に注意を払う必要は無く、気楽なものだった。山頂近くはゆっくりと下り、植林帯に入るとその急坂をずんずん下って行く。ここでようやく人と会った。6人グループで全員がツボ足で登っていた。けっこう靴を潜らせており苦労していた。それにしても雪山は何と言っても下山が楽で、ただ自分の足跡を辿るだけで無く、歩き易い所を気ままに歩けるのが良かった。おかげで登山口まで1時間とかからず着いてしまった。この日は気温が上がったこともあり、その先の車道部分は朝よりも一段と雪が減っていた、そこでスノーシューを脱いで歩くことにした。この後も一組の夫婦、単独者とすれ違ったが、午後に入っての雪山登山には違和感を感じた。登れることは登れるだろうが、雪が緩む分だけ登りにくいのではと思うのはこちらの杞憂だろうか。すぐにその考えから抜け出し、まずは二週間続けて楽しく雪山を登れたと、快い疲れの中でじんわりと幸福感を味わった。
(2009/2記) |