氷ノ山の霧氷風景の写真を撮るには、朝から登ったのでは山頂に着いたときは昼近くになってしまい、そうなるとブナに付いた霧氷は落ちかけており、中途半端な写真しか撮れないことになる。また霧氷の条件として朝の冷え込みも必要である。そこで快晴の期待出来る日の前日に登って、その日は避難小屋に泊まり、翌日に霧氷風景を見るという計画を立てた。実行したのは1999年2月末日のこと。コースとしては冬期登山でよく利用する東尾根コースとした。
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(2月28日)氷ノ山国際スキー場のリフトを利用する考えだったため、駐車場はリフト乗り場の駐車場を考えていたのだが、遅い到着だったためリフト乗り場に近い駐車場はどこも満車状態だった。そこで少し離れた大久保地区の駐車場に駐車とした。その駐車場には管理者が居らず、適当に駐車してリフト乗り場に向かった。まだ2月とあってスキー場には十分な雪があり大勢のスキーヤーが訪れていた。セントラルロッジまでリフトを使い、そのセントラルロッジで登山届けを提出した。そしてワカンを付けて登山開始とした。セントラルロッジで聞いたところでは、前日もこの日の朝も多くの登山者が登ったとのことで、その通りはっきりとトレースが付いていた。おかげで雪に潜ることも無く、けっこう楽に登って行けた。東尾根避難小屋までほとんど休むことは無し。そして東尾根の尾根歩きを始めると、少しトレースが消えていたり、また雪が凍って滑り易い所もあったが、下山してきた登山グループとすれ違ってからはトレースははっきりとして、また楽な登山となった。ただ尾根が終わって千本杉への登りとなった頃よりカメラ機材を入れたザックの重みが徐々に堪えて来た。休む回数が増えて来たが、トレースのおかげであまり歩度は落ちなかった。程なくガス帯に入った。ガスは次第に濃くなって、千本杉辺りでは10m先も見えないホワイトアウト状態になった。ただ方向が分かっているのでガスはさほど気にならなかった。雪の状態を見てセントラルロッジから山頂まで4時間以上かかることを覚悟していたが、トレースのおかげで3時間とかからず山頂に着いた。そして山頂の避難小屋に入ると、そこには二組の登山グループが休んでおり、ほぼ満杯の状態だった。ただどちらのグループも日帰りとのことで、14時過ぎにはどちらのグループも下山してしまい、避難小屋はパートナーと二人きりになった。外はガスで何も見えないとあって、早々と寝支度をして休むことにした。一休みしていると外が明るくなった気配がした。時計は16時を回っており、二階の窓から外を見ると、ガスが薄れ出していた。そして
一気に視界が広がって来た。真っ白な雪面が眼前に広がると、そこに何か動き回るものが見えた。一頭のイノシシが体に雪を貼り付けて、避難小屋の周りを走り回っていたのだった。真冬の氷ノ山山頂で動き回るその姿に、少々感動させられた。晴れて来たとなれば小屋にじっとしておれず、写真を撮ろうと小屋近くをうろついてみた。立派な樹氷も見られて、真冬の氷ノ山に居ることを実感することが出来た。程なく夕暮れを迎える。鮮やかな夕景を期待していたのだが、ガスが消えても空には少し雲が残っており、雲の一部を赤くしただけで真っ赤な夕焼けとはならず、空はすぐに薄墨色となり、次第に夜を迎えた。夜となって風の音が急に大きくなって来た。その風音を終始聞きながら二人きりの夜を過ごした。山頂避難小屋泊。 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
(3月1日)強風の音で夜中に何度か目を覚ましたが、朝の目覚めは6時を回ってしまっており、既に陽が昇りかけていた。さっそく朝の風景を撮ろうと身支度を手早く済ませて避難小屋を出た。前日にはあった木々の雪は夜の風ですっかり吹き飛ばされており、霧氷は全く無くなっていた。とにかく風が冷たく強く、手袋をはめていても手が凍えてきた。その冷たさにたまらず小屋に戻ると、小屋内の温度は−7度だった。その気温が本当に暖かく感じられた。それでもまた外に出て、氷紋を主体に撮影をした。厳しい風だったが、その風のおかげか視界は素晴らしかった。大山こそ雲があって見えなかったが、兵庫県下の高峰が余すところ無く見渡せた。遠いところでは千ヶ峰、雪彦連山もくっきり見えていた。ひととき撮影をしてまた小屋に戻った。そして9時近くになって下山のため小屋を離れた。すぐには下山せず、千本杉周辺でまた撮影をしたりしてひとときを過ごした。どこまでも蒼い空と純白の世界を二人きりで過ごすのはけっこう贅沢なことではと思わずにはいられなかった。11時が近くなって漸く下山に向かった。その下山で昨日以来の登山者となるペアで登ってきた山スキーヤーとすれ違った。東尾根の避難小屋からセントラルロッジのコースは、雪が凍っていて滑り易くなっていた。アイゼンの必要を感じたが、所々をシリセードで滑り、一気に下った。そしてセントラルロッジで下山届けを済ませ、後はリフトを使って麓へ。なお駐車場はこの日も無人で、結局無料駐車になってしまった。
(2001/12記)(2007/3改訂)(2022/9写真改訂) |