2018年6月の第四日曜日は、新潟県の長岡市で仕事をすることになった。前日は移動日だったので、現地に早く着けば午後半日をハイキングで過ごせそうだった。その観点で中越地方の山を探ると、ぴったりの山があった。それが弥彦山でJR弥彦駅から歩ける範囲にあった。
6月23日は早朝の新幹線を利用すると、11時過ぎには燕三条駅に着くことが出来た。駅前のホテルを予約していたので、ホテルに荷物を預けると、駅に戻って弥彦線の弥彦行きの電車を待った。そして弥彦駅に降り立ったのは午後に入った12時45分だった。弥彦山は目立つ山で、上越新幹線の車窓からも燕三条駅前からもその端正な姿を目にしていたが、弥彦駅前に立つと、もう見上げるばかりにして眺められた。駅では大勢の人が降りており、ほとんどの人が弥彦神社に向かうようで、その人の流れに付いていくようにして西へと歩いた。駅前から土産物屋があり観光案内板もあって、通りは賑わいがあった。どうやら佐渡弥彦米山国定公園として弥彦神社は有名観光地のようだった。一度車道を北へと折れて弥彦神社に近づくと観光ホテルが並ぶようになり、広い駐車場も現れて更に人が増えてきた。そして巨大な鳥居を潜って弥彦神社の境内に入った。その境内は広く、大神社特有の厳かさがあった。そぞろ歩きでその雰囲気に浸っていると登山のことを忘れそうになった。本殿に参拝した後、境内から登山口に向かえる道を探ったが見つからなかった。そこで大鳥居に戻って来ると、近くに登山道の標識を見たので、それを見て登山口に通じる道に入った。それは「万葉の道」で、すんなりと登山コースに入った。始めは植林地の中を歩いて行く。緩い上り坂になり登山茶屋の前を過ぎると急斜面に付くつづら折れ道を登るようになった。冬の大雪で登山道は大きな被害を受けていたそうだが、その補修は終わっており登山道の所々でその修復箇所が見られた。登山口に入って10分ほど歩いて漸く一合目の標識が現れた。その時間ともなると下山の人が多く、何人ものハイカーとすれ違った。やはり弥彦山は人気の山のようだった。登山道は道幅も十分にあり厳しさは無かったが、どうも階段部分が多いようだった。ただ周囲は自然林となってその緑の濃さを楽しみながら登った。二合目、三合目、四合目と過ぎて行く。蒸し暑さの中を登るとあってけっこう汗をかいたが、この日は曇り空のため気温はさほど高くはなく、休まず登って行くことが出来た。登山道の緑を楽しみながらだったが、ずっと展望が無く樹林に囲まれてとなると多少単調さは否めなかった。その登りの中でオアシスが現れた。そこは七合目の標識の位置で、湧き水があってそれがけっこう冷たく美味だった。その先で漸く展望が現れて越後平野が一望となった。頭上で人声が聞こえてきたので見上げると建物が見えた。それは稜線に建つ展望ビルだった。程なく主尾根となる稜線に出ると、そこは九合目だった。稜線には遊歩道が付いており、北に歩けば弥彦山ロープウェイの山頂駅で、南に向かえば弥彦山山頂だった。すぐに山頂へと向かった。緩やかな上り坂で一気に気楽になったが、山頂までの標高差はまだ70mほどあった。遊歩道からはときおり展望があり、西に佐渡島を東にはうっすらと山並みを見た。山頂に着いたのは稜線に出てから12分後で、弥彦神社の登山口からは66分かかっていた。そこは弥彦神社の御神廟があり、一帯は広場のようになっていたため展望地でもあった。午後も2時半になっていたので数人のハイカーを見るだけだった。うっすらとした視界の中で佐渡を眺めたり越後平野を眺めたりして暫しの時間を過ごした。そして下山すべく引き返した。九合目まで戻って来ると、そこからはすぐに登山道に入らず、遊歩道を更に北へと歩いて展望ビルに寄り道することにした。そこはレストランだったが屋上に上がることが出来て、屋上は展望台になっていた。その展望台に上がると、そこは山上では一番の展望地で、佐渡島の全姿が眺められることになった。北の展望も良く、尾根続きとなる多宝山や足下には弥彦駅も眺められることになった。そして東は広々と越後平野の風景だった。これで展望に関しては十分に満足して下山に向かった。九合目標識の位置に戻ると登山道に入った。往路をただ辿るだけだが、階段部分が多いとあって膝を痛めないように慎重に下った。時刻は既に15時半を回っていたが、そんな時間にもかかわらず、まだまだ登って来る人は多く、20人はすれ違ったのではと思われた。そのハイカーとも麓が近づくと漸く会わなくなった。登山口に着いたのは16時過ぎのこと。弥彦線の時刻表を見ると、次の電車まで1時間ほどあった。駅で電車を待とうかと考えながら戻っていると、「おもてなし広場」に来たときそこに足湯があるのが分かった。渡りに船と足湯に浸かって時間をつぶすことにした。そして20分ほど浸かっていると、足の疲れは感じないまでになっていた。その元気の戻った足で弥彦駅へと近づいた。
(2021/10記) |