信州百名山の一つ、大川入山に向かったのは2015年7月の最後の日だった。暑い季節なので朝の早い時間帯に登りたかったが、姫路から長野県阿智村までは400km近くあるとあって、自宅を未明の4時前に出たものの、登山口がある治部坂高原に着いたときは9時になっていた。高速道の走行中に夜が明けたわけだが、朝の空は濁っていた。全体に白っぽい空で、視界は悪いの一言だった。近くの山でもうっすらとしか見えなかった。その空が長野県に近づく頃には青空も見られるようになったが、視界がうっすらしていることに変わりはなかった。どうやらアルプスの展望は期待出来ないようだった。但し天気予報は曇り時々晴れで、雨の心配は無さそうだった。中央道を園原ICで離れると、県道89号線、国道256号線、国道153号線と走って治部坂高原に着くと、治部坂高原スキー場の前、登山口に通じる林道が分岐する位置にあった駐車場に駐車とした。車は他に一台見るだけだった。そこから林道を歩き出すと、6分ほど歩くだけで登山口標識が現れた。そこから登山道が幅広の道として始まった。暫くは緩やかな道で、小さな沢を渡ると沢沿いを歩いた。程なく沢から離れることになり、斜面を登ることになった。周囲は雑木林だったが、笹が目立つようになってきた。尾根に出ると、その尾根は横岳に続く尾根だった。始めは緩やかだったものの、木の根が多く現れており、歩き易くは無かった。次第に急坂になってくると、ロープの付いている所も現れて、そのロープを掴みながら登った。その急坂の途中で木立の切れ目が現れて、遠くにきれいな三角錐の姿をした山が眺められた。どうやらその山が大川入山のようだったが、どう見ても2時間はかかりそうに思えた。急坂は暫く続き、漸く緩んだ先で少し高くなった所が横岳のピークだった。気温は23℃と高くなかったが、夏場に急坂を登ったとあって少しバテ気味になっており、木陰で10分ばかり休んで息を整えた。その先は緩やかな尾根歩きが続いた。横岳と大川入山の手前にある1670mピークまでは距離にして2km以上あるのだが、最大標高差は110mでしかなかったので、ごく気楽な尾根歩きだと言いたいのだが、小さなピークが幾つかあり、上り下りを繰り返していると、けっこう足が疲れてきた。大川入山の姿はときおり見えていたが、当然ながら徐々にしか近づいて来なかった。それでもこの尾根は笹とシラビソ林が作る風景が何とも優しげで、心を和ませてくれた。道の踏み心地も良く、春秋ならずっと気楽に歩けるのにと思えた。所々で小休止をとり、1670mピークを越えて大川入山との鞍部へと下りて、そこでも小休止とした。そこから山頂までは標高差が280mあり、それまでと変わって俄然上り坂が続くことになった。そこまででけっこうバテていたが、気力を絞って休まず登った。幸いなことに思っていたほど急坂続きでも無く、つづら道で登る所もあってきつい感じでは無かった。樹林を抜け出すと、周囲は笹の風景となった。山頂が見えて来ると、ガスがかかろうとしていた。どうやらガスの山頂になりそうだった。振り返ると、横岳から続く尾根もガスに隠されようとしていた。朝から視界が悪かったこともあって山頂展望には期待していなかったので、ガスはむしろ涼しくなる材料として捉えた。おかげで山頂に着くまで休みを取らずに登ることが出来た。山頂は適度な広さで開けており、ベンチが置かれて休むには良い所だった。この日の登山者は少なく、途中で二人組の下山者とすれ違っただけで、山頂も人を見なかった。まずはベンチの上に寝ころんで、よれよれになった体を休めた。その後は改めて地表にレジャーシートを敷いて、その上で暫し昼寝とした。その昼寝の間にガスは消えて、陽射しを受けるようになった。それは天気の回復ではなく、単にガス雲が切れて青空がいっとき覗いただけだった。山頂にはパノラマ写真が置かれており、視界の良い日には中央アルプスだけでなく北アルプスも南アルプスも見えるようだったが、ガスが消えても見えるのは近くの尾根のみだった。山頂で休んでいたのは80分ほどで、下山は往路を引き返した。この復路で気を付けたのは尾根の途中にある四等三角点を見ることだった。三角点は横岳と大川入山との中間にあるのだが、小さなピークが続くため、往路ではどのピークが三角点ピークなのかはっきりしないまま通り過ぎていた。そこで下山では地図を頭に描いて歩いた。そして1670mピークの先にある1680mほどのピークが二つ並ぶ所まで歩いて、東側のピークで四等三角点(点名・もみじ平)を見た。後はシラビソと笹が作る優しげな風景の中を、マイペースを心がけて歩いた。それにしても横岳まではやはり長いと感じた。小さなアップダウンを繰り返してようよう横岳に戻ってきたときは、またもやバテ気味になっており、ベンチの上にごろりとなって暫し体を休ませた。後は惰性の感じで下り坂を歩き、国道153号線そばの駐車場へと戻ってきた。山頂での休憩を除くと6時間ほどのハイキングになっており、夏場では少々厳しかったと言えそうだった。下山を終えると飯田市の方向へと戻り、昼神温泉に立ち寄った。「湯ったりーな昼神」は立ち寄り湯で、広い湯船にじっくりと浸かって疲れた体をほぐすことに努めた。
(2015/11記)(2020/7改訂) |