前夜は北八ヶ岳の横岳ロープウェイに近いピラタスの丘にあるペンションに泊まっていた。朝食を7時にとって早めの出立とするも、蓼科山南麓にあるスズラン峠そばの駐車場に着いたときは8時になっていた。駐車場には既に10台以上が止まっていた。登山口は女神茶屋の前から始まっており、駐車場からは1分とかからない位置だった。そこから緩やかな登山道が始まっていた。辺りはいかにも信州の森と言った風で、カラマツやダケカンバが笹原の中に点在していた。その木々が明るい陽に照らされて青々としていた。気温は朝から高めですぐに汗ばんだが、湿度が低いのか木陰ではすっと涼しくなった。登るほどに一帯は純カラマツ林になったりダケカンバ林となって、森深くに身を置いていることを強く感じさせられた。また森の作るふくよかな匂いが快かった。ただ周囲は常に高木が占めるため展望は悪かった。少しきつめの坂はあったが、概ね登り易い道で、標高2000mを越すと一帯は平坦地になった。水場さえ有ればキャンプの出来そうな雰囲気だった。前方に木の間越しだが蓼科山の山頂が見え出した。その平坦地を過ぎると山頂に向かって真っ直ぐな急坂道が始まった。大きな石も多くあって、それを越したりと少し険しくなって来た。樹林帯もダケカンバとシラビソが主体になり、それも次第に疎らになり出した。そして漸く後方に展望が現れて来た。始めは足元に蓼科山麓の森が見えているだけだったが、次第に南アルプスが現れ、そして南南東方向に八ヶ岳連峰も見え出した。麓では稜線も見えていた八ヶ岳だったが、もうすっかりガスに包まれていた。南アルプスにもガスが湧き出していた。上空にもガス雲がみられるようになった。山頂に着いたときはすっかりガスになっているのではと、少々心配しながら登って行く。ひたすら急坂が続くので高度をかせぐのには良かったが、楽に登る雰囲気では無かった。高度も2400mを過ぎ山頂が近づいて来ると、枯れ木林が現れた。そして辺りの木々が低くなってハイマツが見え出したと思った頃、突然のように樹林帯を抜け出した。その先は岩、岩、岩と岩だらけの風景だった。上空はすっかり曇り空で、その雲が下がって来るようだと、この先では展望は無くなることになる。早く山頂に着きたい気持ちに急かされるように、休まずその岩礫帯へと入った。点々と目印があるので問題は無かったが、どこでも登ってしまえそうで、目印が無ければ逆に迷ってしまいそうだった。それとそこに来て進む方向が東方向となり、岩礫地をトラバース気味に登るようになった。余計のこと目印通りに登らないと変な所に迷い込みそうだった。ただその目印も蓼科山頂ヒュッテ方向に向かうと分かったので、途中からは山頂方向に向かって岩を適当に伝って登ることにした。そして前方に数人を見え出したかと思うと、そこが山頂だった。三角点があってそこが山頂と分かったが、そこに立ってみると周囲はだだっ広く、なんとも茫洋とした山頂だった。中央が少し窪んだ形になっており、いわゆる火山型と言うのか広大な火口と言った風の山頂になっていた。当然、縁に立たないと展望は良くならなかった。どうやら天気は持ち直すらしく、上空のガス雲は薄らぐようだった。その三角点ピークからは八ヶ岳から南アルプスへと広大な展望が広がっているはずだったが、そちらはすっかりガスに包まれていた。そこで青空の見える西の縁に向かった。岩砂地を歩いて中央の窪地に下りたが、そこも岩ばかりで歩き難いことには変わり無し。目指した山頂西の縁には方位盤が置かれており、そこも格好の展望地になっていた。そこに立ってまず目に飛び込んで来たのが白樺湖で、その背後には霧ヶ峰高原が明るく広がっていた。薄くモヤがかった視界だったが、ガス雲に隠されることも無くすっきり見えていた。霧ヶ峰の右手、北西方向にあって一段高くなって広がるなだらかな山並みは美ヶ原だろうか。暫しの間、その風景にじっと目を止めていた。ただその背後に見えるはずの北アルプスはすっかり雲に隠されていた。なお三角点山頂までは風も無く穏やかだったのだが、その山頂の西の縁では西から絶えず風が吹き付けており、暫く立っていると肌寒さでじっとしておれなくなった。そこで岩陰を見つけて一休みとした。徐々にだが上空の雲は少なくなり、また周囲の高峰にかかる雲も薄れて来た。次第に八ヶ岳の山稜が現れて来た。また再び南アルプスの山並みが現れて来た。昼も近づき出して、この蓼科山も多くの人で賑わい出した。ざっと見ただけで50人以上はいるようだった。登りで歩いた女神茶屋からのコースでは人を見かけることは少なかっただけに、北の白樺高原スキー場側からのコースの人が多いように思われた。もう一度三角点に立ち、そして下山を始める。当初は下山コースを天祥寺原を通ってのコースでと考えていたのだが、竜源橋登山口に着いてから女神茶屋登山口までを猛暑の中で車道歩きをすることになるので、それを嫌って単純に往路コースで戻ることにした。急坂を滑らないように慎重に下って行った。陽射しは厳しいが木陰は涼しいので楽だった。左手に八ヶ岳、正面に南アルプス、そして足元には蓼科高原が広がっている。それを眺めながらの楽しい下りだった。但し麓に着くと、そこは真昼の厳しい暑さだった。あまりの暑さに温度計を見ると30度を優に越していた。
(2004/12記)(2011/7改訂)(2022/8写真改訂) |