北陸から戻って来るときに名神道の渋滞が予測されたときは、迂回路として何度か若狭路(国道27号線)を走ったが、おおい町が近づいて来ると、前方の海際にひときわ目を惹く端正な山が見えてくる。それが青葉山で、裾野をきれいに引いた姿は別名の若狭富士の名を疑う余地は無かった。その姿を見るたびに登りたい気持ちが起きていた。
2009年の8月は後半に入って、月曜日の休暇を取って3連休とした。そして22日、23日の土日で北アルプスの霞沢岳登山を楽しんだが、その帰路に青葉山登山を計画したものである。上高地から平湯に戻ってきたのは日曜日の午後のこと。その夜の宿は敦賀にとっていたが、すんなり名神道に向かわず、日本海側経由の大回りで敦賀へと向かった。それは正解だったようで、何の渋滞も無くすんなりと夜の敦賀市内に入ることが出来た。泊まったのは敦賀駅前のホテルだった。霞沢岳登山の疲れを癒すため、翌24日の月曜日は朝をゆっくりと過ごし、ホテルを離れたのは9時半と少し遅い時間になっていた。この日の若狭の空は雲が多く、頂きを雲に隠された山も見られた。これはどうなるのかと少し心配したが、西へと走るうちに次第に雲は減って青空が広がってきた。小浜市を過ぎると、一目で分かる富士の姿、青葉山が見えてきた。その上空は青空で、くっきりとした姿だった。その姿をいっそう良く見ようと和田浜に立ち寄って、いっとき浜から青葉山を眺めた。この青葉山登山で参考にしたのは新分県登山ガイドの「福井県の山」。その記述を参考に青葉山青少年旅行村を目指して日置交差点で国道を離れた。後は案内標識があり、短い時間で青少年旅行村の駐車場に到着した。時間は既に11時を回っており、空はすっかり快晴で真昼の陽射しだった。そそくさと身支度を済ませて、車道歩きからスタートした。車道は青少年旅行村の周囲に付いており、300mほど緩い上り坂を歩いて登山口の前に出た。陽射しの中では気温は27℃まで上がっており、これは暑い登山になると覚悟して登山道を歩き始めると、程なく樹林の中に入った。左が植林地で右は竹林になっていた。途端にすっと涼しくなった。風もあり涼しさを助けていた。気温は見る見る下がって、温度計は22℃を指していた。これは予想外の涼しさで、気分は一気に楽になった。登山道も遊歩道の風情となり、丸太の階段道だったり普通の地道だったりしたが、どちらにしても歩き易く、前日の疲れがあるこちらとしてはありがたいことだった。涼しい風を受けながら、のんびりと登って行った。登っていると、どうも階段道の方が多いようだった。中腹まで来たとき、急に右手が明るくなった。見るとそこは平らになった所で、何人かの作業員が無線塔設置の作業をしていた。辺りの木々はすっかり伐られており、いかにも展望が良さそうだった。そこで作業の邪魔をしないように心がけながら、登山コースから離れてそちらに立ち寄ってみた。すると思っていた以上に好展望で、若狭の海が一望だった。青空の下に広がる海の景色に目を奪われた。ただ視界としては遠方が少しうっすらとした見え方だった。そこを離れてコースに戻ると、ほんの少し登った所が、本来の展望地だった。展望台が建っており、その上に立つと、先ほどの展望場所と同じく海が眺められたが、こちらの方が範囲が狭かった。ただ東の海岸風景は良く見えていた。海風が強く吹いており、なかなか快適な展望台だった。昼どきでもあり、その展望台で昼食タイムとした。15分ほどの休憩で登山の続きに入った。少し登ると、今度は小さな祠が建つ広場に出た。その広場になぜか季節外れのワラビの新芽が生えており、少しばかりワラビ採りを楽しんだ。その先で尾根は傾斜を増したのか階段道が急になってきた。それを登りきると、山頂(東峰)まで500mだった。一度下りとなり、登り返した所がまた好展望地だった。馬ノ背と名の付いた細長い露岩地で、今度は山側が開けて若狭の山並みが一望だった。また山頂が目前に見上げられた。残りの距離は急坂が続いて、見上げるばかりの大木が周囲に多く見られた。ブナも混じっているようだった。この低山でブナに出会えるとは思っていなかったので、堂々としたその枝ぶりを暫し眺めていた。登り詰めた所が東峰のピーク。このピークが若狭富士の頂きとなる。ピークには小さな社が建っており、それが青葉神社だったが、扉は閉ざされており、外観を眺めるだけだった。そのピークは木々に囲まれており、枝の間から青い海がちらりと見えていた。東峰は青葉神社の手前が広場になっており、その南端からは馬の背と同じく若狭の山並みが広く眺められた。東峰で登山を終わっても良かったが、西峰にも興味が起きて、立ち寄ることにした。青葉山は東から見てこそ富士の姿だったが、南からは双耳峰の姿で眺められる山だった。二つのピークは500mほどの距離なので、尾根歩きとしては手頃な距離と言えた。少時の休憩で西峰へと向かった。この尾根歩きはごく平凡なものではと思っていたのだが、これがけっこう面白かった。いわゆる修験道と呼べそうな雰囲気を持っていた。痩せ尾根の上に露岩地が多くあり、足下がすっぱり切れ落ちていたりしてスリルがあった。ただロープや鉄ハシゴがしっかり付いていたので、特に危険なことは無かった。展望も良く、若狭の海や南の山並みだけで無く、西には舞鶴湾も眺められた。途中は樹林帯となったが、その自然林の佇まいも悪く無かった。鞍部を過ぎて西峰が近づくと、大きな岩が現れた。岩室になっており、山籠もりも出来そうな雰囲気だったので、全くもって修験の山と呼べそうだった。西峰が間近くなると急坂となったが、涼しさに助けられて一気に登ると、呆気なく山頂(西峰)に出た。そこにもお堂があり、その前はやはり広場になっていた。お堂の背後が西峰のピークで岩場になっており、その上に立てるようになっていた。そして上がってみると、そこにはこの日の総仕上げをするかのように素晴らしい展望が広がっていた。足下には内浦湾の風景があり、その先はひたすら海だった。海の色が一段と美しかった。その若狭の海を、涼しいばかりの風を受けながら眺めていた。青葉山は姿が良く、登って楽しく、そして展望が素晴らしいと、三拍子揃った名山だと本当に実感させられた。さて下山だったが、西峰まで来ていたのでそのまま南へと下れば周回コースとして楽しめるのだが、山上でこそ涼しいものの麓の長い車道歩きはしたくなかった。そこで歩いて来たコースをすんなり引き返して、続けて涼しさを味わうことにした。ただ時刻は14時半と昼をだいぶん過ぎていたので、登りと違って休まず歩いて行くことにした。東峰までこそ岩場があるので慎重に歩いたが、その先の丸太の階段道は早足気味に下って行った。この東峰側の登山道は階段の幅がうまく作られているのか、何とも気楽にスタスタと歩けた。東峰から展望台までは22分、そこより登山口までも21分と、短い時間だった。結局登りの半分の時間で下りてしまったが、それだけ易しい道だったと言えそうだった。青葉山登山は本当に楽しかったと、十分に満足の思いで駐車地点へと戻って行った。
(2009/9記)(2021/10改訂) |