仕事で何度か松阪市を訪れていたが、交通手段は近鉄電車の利用が多かった。その車窓風景として鈴鹿山脈には目を向けていたのだが、その他の山にはあまり関心を持っていなかった。それが伊勢自動車道を使うようになってからは、松阪市に近づいたとき右手に見える鋭いピークを並べた山が気になるようになった。それが矢頭山と分かって、いつかは登りたいと思うようになっていた。その矢頭山を2008年の正月休暇で訪れた。但し始めから矢頭山を目指していた訳では無く、急な思い付きからだった。姫路を離れたのは1月2日の朝6時のことで、正月休みを三重県中部、主として台高の山を登ろうと向かったものだが、この日は行きがけの途中下車として伊賀の山を考えていた。そこで名阪国道を針ICで下りて国道368号線で三重県を目指して行った。ところが走るうちに雪が見られるようになり、雪は次第に増えて道路はすっかり白くなって来た。ノーマルタイヤで走っていたため、坂道となったところでそれ以上の走行は危険となり、諦めて引き返すことにした。このとき代替えの山として思いついたのが矢頭山だった。矢頭山なら海岸に近いため雪の心配は無いだろうと考えてのものだった。参考にしたのは新・分県登山ガイド「三重県の山」で、そこに紹介されていた矢頭中宮公園からのルートで登ることとした。
伊勢自動車道を一志嬉野ICで下りると、もう矢頭山は大きく見えていた。雲の多い空だったが、雲に隠されることも無くくっきりと見えていた。県道43号線で向かったのだが、この別名、一志美杉線は細い車道で、対向車と何度か譲り合いに時間をとられた。駐車地点は矢頭中宮公園の駐車場。松阪市近郊の山なので車は何台か止まっているものと思っていたのだが、他に1台も見なかった。登山口は駐車地点にごく近いところにあり、そばで行われている河川工事の資材が置かれて雑然としていた。登山道は普通の遊歩道と言った風で始まっており、緩やかな上り坂で続いていた。10分ほど登った所で林道に出た。その林道も30メートルほど歩くと、また登山道を登るようになった。山頂への案内標識が的確に付いており、その案内のままに登って行くだけだった。また登山道も無理なく歩いて行けた。周囲の木々は始めは植林が多かったが、次第に雑木へと変わって行った。登山道も登るほどに痩せ尾根となった。朝の冷え込みは厳しく、道には霜柱が見られて、それが固く凍りついていた。ただ滑るという感じは無く、ごく無難に登って行けた。やがて急坂が始まったが、ロープや掴まる木があって危険と言うよりもむしろ一気に高度を稼げて面白いと言えた。急坂を登り切ると一度植林地の平坦な所があり、その先でもう一度急坂が始まった。そこを越した所が山頂の南東隣のピークだった。そこは大日拝展望台の名が付いており、牛ヶ嶺と山名も付いていた。展望台と名が付いているのだが周囲を木々に囲まれており、むしろ展望は悪かった。かろうじて木々の隙間から山頂が見える程度だった。そのピークを越して山頂方向に向かい出すと、一気に展望が開けた。その中にちょっとどきっとさせられるピラミダルな山が見えていた。地図からそれは局ヶ岳のようだった。その姿の良さに暫し眺めずにはいられなかった。そこより山頂までは小さなアップダウンがあり岩場もあったが、ロープが付いているので問題無し。そして展望台から15分ほどで山頂に着いた。それまでが雲の多い空であまり陽射しを受けていなかったのだが、山頂に着いたときは陽射しが現れてほっとさせられた。冷たい風も陽射しのおかげで少しは和らげられていた。その山頂は平らに開けており、一隅には石の祠も置かれて穏やかな雰囲気が漂っていた。また展望も良く、北東には伊勢湾まで遮るものの無い風景が広がっていた。また翻れば南から南西へとそちらの展望も良く、改めて局ヶ岳が眺められた。また白くなった学能堂山が陽射しを受けて輝いているのも印象的だった。山頂では20分ばかり過ごしたが、空が曇ると共に冷たい風が強く吹いて来たので下山とした。下山は北西方向へ矢頭峠を目指して下って行った。そちらの登山道は丸太の階段道が続いており、一気に高度を下げることになった。そして30分ほどで矢頭峠に下り着いた。矢頭山は見た目と違ってごく短時間で楽しめる山だったのは少し意外だったが、それにしても山頂からの局ヶ岳の姿の良さがいつまでも目に焼き付いていた。
(2008/1記)(2010/10改訂)(2021/12改訂2) |