静岡県を流れる大井川は南アルプスを源頭とするだけに川は大きく、寸又峡辺りでも十分な川幅がある。その大井川は南へと流れて行くにつれて川幅は更に広くなり、島田市の川根温泉まで来ると、大河の様相を見せている。その温泉のある左岸側から南西方向を眺めたとき、対岸の先になだらかな山容を持つどっしりとした山が眺められる。それが八高山で、山頂には一等三角点が置かれている。2010年9月は3連休を利用して、静岡の山へ向かった。目的は大井川の上流部に位置する寸又三山だったが、沢口山と朝日岳の二山を登り終えると、けっこう足は疲れてしまった。そこで三日目は少し軽めの山を登ることにした。また別の地域の山を登りたい気持ちもあって、大井川の下流へと車を走らせた。そして向かったのが八高山だった。無理なく登れそうなことだけで無く、山頂から富士山も見えることにも興味を覚えてのことだった。
八高山はガイド本「静岡県の山」では駅から登れる山として大井川鉄道の福用駅からのコースが紹介されているが、往路と下山路でコースを変えることが出来るので、こちらもその紹介コースで登ることにした。福用駅に着いたのは9時過ぎのこと。近所の人に聞くと、構内の空き地に適当に駐車出来るとのことで、駅舎のそばに駐車とした。車を降りると、朝の9時なのに、もう照りつけるような陽射しだった。気温は30℃になっており、9月の中旬を過ぎたと言うのに、この暑さは異常と思えた。駅から歩いて行くのがメインコースのためか、標識は駅前から的確に付いていた。駅前の標識には山頂まで4kmと書かれており、それに従って車道を北へと歩くと、すぐに左に折れることになった。道の両側は茶畑だった。白光神社の前で山裾道に入ると、その先が登山口で山道が始まった。周囲は雑木だったり竹林だったりと、ごく普通の里山道の雰囲気だった。そのうちに道沿いにモノレールが見られるようになった。そしてその先で茶畑が広がった。モノレールは茶畑の作業用として作られたようだった。背後を振り返ると、茶畑の背後に大井川流域の山並みが広がっており、いかにも静岡の山を登っていることを実感させられた。ただ茶畑の中を歩いている時間は長くは無く、程なく傾斜がきつくなって、植林地の中を登るようになった。木々の中を登るようになって気温は25℃まで下がり、風も現れて、意外と涼しく登って行けた。一度植林地を抜け出たとき、左手の近い位置に大きな山が見えた。その方向から経塚山かと思われた。また植林地に入る。傾斜はきついながらも、山道は適度な登り易さで悪く無かった。三日連続の山歩きとあって、足の疲れを考えて、ゆっくりと足を運んだ。植林ばかりでは無く自然林も混じったが、自然林は常緑樹が多いようだった。急坂を登りきると周囲はすっかり植林となり、一帯はほぼ平坦な地形になっていた。程なく「ゆるやかコース」と合流した。今歩いてきたコースには「急斜面コース」の名が付いていた。植林地の中を歩いて行くが、尾根筋を歩くのでは無く、尾根から少し低い位置を登山道はほぼ平坦と言った感じで続いた。周囲はずっと植林風景だったが、自然林が見られるようになると、程なく林道に合流した。その林道の先が広場になっており、馬王平の名が付いていた。その背後に丸いピークがすっきりと見えており、それが八高山のピークと思えた。馬王平には歩いてきた東の方向からだけで無く、西からも北から林道が来ており、北の林道には重機が路上に置かれているのが見えていた。この近くで伐採作業が進められていると、標識が立っていた。のんびりとそこまで来たので休まず先を目指す。八高山の山頂へと登山道に入ると、すぐに伐採地が現れた。まさに伐採作業の進行中の風景で、広い範囲に切り株が広がっていた。その切り株の年輪が鮮やかだった。伐採されているだけに展望が良く、登るほどに東の風景が広がってきた。但しこの日の視界はモヤが強いようで、ややうっすらとした風景だった。北東の空は雲が多いようだった。伐採地も標高にして100メートルほどの範囲で、その先は樹林帯を登るようになった。ちょっと薄暗い中の登りだったが、涼しさがあるのは良かった。相変わらず傾斜はきつめで、登山道に木の根が露わになっている所も多く見られた。尾根の傾斜が少し緩んだとき、マイクロウェーブ反射板が現れた。反射板は二つあり、向き合う形で建っていた。その縁を回り込むように過ぎると、また樹林の中の急坂だった。もうそろそろ山頂ではと思え出したとき、周囲の杉木立に巨木が多くなり、突然のように白光神社の奥宮が現れた。静謐の中に佇むと言う表現が似合いそうな神社だった。そこを過ぎると道はなだらかになり、僅かに登った所が山頂だった。山頂は狭い範囲で開けており、それまでが薄暗い中での登りだったため、山頂の明るさがまぶしかった。その山頂の中央にどんとばかりに大ぶりの三角点が置かれていた。やはり一等三角点(点名・八高山)は大きい。それを中心にベンチが三つばかりあったので、北寄りの木陰になったベンチで休憩とした。先着者が一人いたが、すぐに下山したので、後はパートナーと二人きりだった。それまでの樹林帯は木陰とあって気温は22℃まで下がっていたが、山頂は陽射しを受けているため、26℃と多少高めだった。ただ北から涼しい風が吹いていたので、特に暑くさ感じなかった。簡単に昼食を済ませると、山頂からの展望に関心を向けることにした。山頂には展望写真が北向きと南向きの二カ所に設置されていた。それを見ると、北には南アルプス、北東には富士山が見えるとなっていたが、どちらも雲に隠されていた。また視界は薄ぼんやりとしており、遠方は判然としていなかったので、展望を十分に楽しむとはいかなかった。それでも展望写真を参考に、前日に登った朝日岳は何となく分かった。その朝日岳はこの日も山頂を雲に隠されていた。その山頂で憩っている間に犬連れの三人グループやラジオの音を周囲にまき散らす登山者が現れたりと、賑やかになった。風の涼しさのおかげで過ごし易かったこともあり、展望を楽しめなかった割には40分ばかりを山頂で過ごした。そして下山へと向かった。下山は途中までは登ってきたコースを戻って、「ゆるやかコース」を下る考えだった。その下山では馬王平までで数人とすれ違い、馬王平でもハイカーを二人ほど見かけた。この暑い日でこれだけの登山者と出会うのだから、八高山はけっこう人気のある山ではと思えた。「ゆるやかコース」に入ると、こちらの方が700mほど長いだけに、名の通り緩やかだった。ただこちらのコースも雑木林が続いて、展望は良くなかった。下る途中でマウンテンバイクが追い越して行ったが、それだけ易しいコースと言えそうだった。途中からは植林も混じって雑然とし出したり、少し雑草が茂っている所が現れたりと、ややマイナーな雰囲気となった。往路よりも少し時間がかかって登山口に下り着いた。その先は林道で、東へと歩くとごく僅かな距離で線路沿いの道路に出た。そこからは南へと線路沿いを500mほど歩けば福用駅だった。麓に出たことで気温は一気に上がり、そのあまりの暑さに気温を見ると、33℃まで上がっていた。これは残暑どころか真夏ではと思いながら、福用駅へと戻って行った。
(2010/10記)(2021/8記) |