越前大野市の山を考えると、荒島岳に経ヶ岳、それと三ノ峰のある加越山地に冠山、能郷白山を持つ越美山地と豊富だが、その中で経ヶ岳が気になって出かけたのは2011年8月の最後の週末のことだった。天気予報は晴れとなっており、その通りに大野市の空は晴れていたのだが、経ヶ岳の空は怪しかった。始めに見えたときは山頂を現していたのだが、六呂師高原の登山口に着いていざ登りだそうとすると、上空はガス状の雲が広がろうとしていた。どうもそのまま雲に包まれそうだった。それではガスの中で山頂に立つことになりそうで、それはしたく無かった。そこで経ヶ岳はあっさり諦めることにした。そして一度大野市に戻ってきたとき、西の空に見えたのが飯降山だった。快晴の空の下、820mピークと並ぶ姿は、美しいと思ってしまった。経ヶ岳の替わりとして別の山を登るプランを持っていたのだが、飯降山に惹きつけられてしまった。持っていたガイドブック「福井県の山」を見ると、この飯降山も紹介されていたので、即座に飯降山を登ろうと決めてしまった。登山口は国道158号線に近く、ショッピングモールのヴィオなどが集まる商業エリアとは100mと離れていなかった。その登山口のそばに車1台分の駐車スペースがあったので、そこに駐車とする。時計は既に11時が近くなっており、気温は30℃を示していた。しかもけっこうな蒸し暑さだったので、厳しい登山になりそうだった。登山口には飯振古墳群の標注が立っており、登山道は石段で始まっていた。石段を登り始めると、すぐにごく普通の里山道に変わった。そして数分で小さなお堂の前に出た。その先は草に覆われていたが、車道の幅ほどある道が平坦に続いていた。実際に車が通るようで、轍も見られた。ただその道は長く歩かず、程なく尾根の道が分かれた。その尾根道が山頂への道のようだったが、分岐点には赤いテープが一つ付いているだけだった。登山道は雑木林に囲まれたごく自然な山道で、古くから歩かれている道らしく落ち着いた佇まいを見せていた。程なく1合目の標識が現れた。標高も書かれており、250mだった。2合目に着くと、そこは支尾根の分かれる所で、そちらにも山道があり、標識では戌山城址主郭に続くようだった。ガイドブックを見ると、僅かな距離で三角点があるようなので、立ち寄ってみることにした。ほぼ平坦と言ってよい緩やかな道で、歩くのは易しかったが、どうも体がだるくなってきた。周囲は木々が囲んでいるため陽射しは受けなかったのだが、どうやら蒸し暑さで少しばて気味になってきたようだった。分岐点から7分ほど歩いた小さなピークに、四等三角点(点名・鍬掛)があった。そこは強く陽射しが当たっていたが、そばの木陰は風が通っており、そこで休むことにした。昼も近いとあって昼食もついでにとった。それをしたためか、少し眠気が出てきた。まだ登山を始めたばかりだったが、急ぐ必要もないので、疲れていることでもあり眠気のままにそこで昼寝をすることにした。20分ほど眠ると少しは体のだるさも取れており、登山を続けることにした。分岐点に戻ってメインコースを登って行く。3合目、4合目と過ぎると、登山道の傾斜が増してきた。そうなるとまた体がだるくなってきた。尾根ではときおり風と出会えるので、その風を受ける所で休憩とした。また眠気が出てきたので、そこでも15分ばかり昼寝とした。体のだるさが消えると、また登山再開である。登るうちに背後に展望の開けることがあり、経ヶ岳が眺められたが、経ヶ岳は稜線を広く雲に隠されていた。登山道は急坂ながらもよく踏まれた道だったが、登るうちにワラビなどの雑草が茂って被さっている所も現れた。そのヤブが続くのかと思っていると、また歩き易い道に戻った。7合目の先で小さな小屋が現れた、その辺りは共同アンテナが立っており、林道も接していた。展望もあり東の風景が眺められて、そこに荒島岳を見た。荒島岳は経ヶ岳と比べて意外とすっきり見えていた。そこを過ぎるとすぐに8合目の標識が現れた。そこに着いてまた涼しい風に出会えたので、そこでも昼寝とした。もう山頂まで標高差にして100mほどなので、最後の気力を振り絞って登った。ブナ林が見られるようになり、また雑草の茂る所を通ったりしたが、9合目を過ぎて山頂が近くなったとき、一瞬トイレかと思えるような建物が現れた。ガイドブックを見ると、御嶽神社のようだった。風雪に耐えるために神社らしくない建物にしているようだった。その先は緩やかな道となり、ごく短い時間で山頂到着となった。歩き始めてから3時間半が経過していた。途中、寄り道をしたり三度の昼寝をしているので仕方のないことだったが、すこし時間がかかり過ぎたとは言えそうだった。山頂には二等三角点があったが、その周りはすっかり雑木が囲んで展望は無し。ただそれまでよりも、いっそう涼しい風が吹いていた。その風を受けていると、また昼寝をしたくなった。疲れたときは休むに限ると、木陰を見つけて休んだところ、今度は少々寝入ってしまい30分ばかりは眠ったようだった。それだけ眠るとだるさは取れており、十分に体力は戻っていた。下山は往路を戻るのみ。それこそ登りとは違って、すたすたと休まず下った。尾根から見える東の山並みは、すっかり雲に隠されていた。それを見て、経ヶ岳を登らずこちらに目標を切り替えたことに、納得する思いだった。ずんずん下ると、70分で白山神社に戻ってきた。神社の前は小さな広場になっており、そこから北東の展望を楽しんだのだが、そのとき重大なことをしていなかったことに気が付いた。それは山頂そばの奥ノ院を訪ねていなかったことで、ガイドブックでは展望が良いと書かれていた。山頂の昼寝ですっかり忘れてしまったのだが、もう戻ることは無理なので諦めるしかなかった。また機会があって登ることになれば、それこそ休まず登って山頂に立ちたいものだと思いながら登山口へと下りて行った。
(2011/9記)(2021/6改訂) |