以前ならこの山の名を見て「ふくべがたけ」とすぐに読める人は地元以外では少なかったと思えるが、東海北陸自動車が開通して瓢ヶ岳PAが出来たことで、この読み方を知った人が多いのではと思われる。この瓢ヶ岳が美濃の中部にあって、高賀山、今淵ヶ岳と共に高賀三山と呼ばれて、東海では少しは名の知られた山と知って興味を覚えた。ただその登山コースを調べると、片知渓谷側からよく登られているようだったが、山頂まで1時間ほどで登れてしまうようで、一日かけて楽しむ山としては、少々不向きではと思えた。その瓢ヶ岳を訪れたのは2006年11月の勤労感謝の日だった。2006年の後半は名古屋に滞在しており、週末は東海の山を登ることを楽しみにしていた。ところが11月の紅葉期に入って、週末になると天気がくずれるという悪いパターンになってしまった。勤労感謝の日は週末では無かったが休日になっており、そこでハイキングを楽しみにしていたのだが、天気は休日だけを狙っているかのように、この日の名古屋の空はすっかり曇り空になっていた。天気予報は一時雨ともなっていた。ただ雨になっても強く降ることは無さそうだったので、半日だけでも軽いハイキングをすることにした。そして思い付いたのが瓢ヶ岳だった。雨の降り出さないうちにと早めに名古屋を離れると、登山口となる片知渓谷の「ふくべの森」には8時半に着くことが出来た。そこには広い駐車場があり立派なトイレもあったのだが、この日の天気をきらったのか車は1台も見なかった。ところでその空はと言うと、薄曇り程度で、うっすらと青空も覗いていた。いずれは曇り空に変わると思えたので、いそいそと歩き出した。登山口を歩き始めると程なく沢そばに出て、沢沿いを登って行くようになった。一帯の木々は紅葉しており、ちょうど陽射しも現れて、良い雰囲気になっていた。コースとしては沢をよぎることもあったが、目印が点々とあって、おおむね無難に登って行けた。そして40分ほどで尾根に着いた。そこは骨ヶ平となっており、左に向かえば瓢ヶ岳で、右に向かえば南岳となっていた。ごく簡単に瓢ヶ岳のピストンを考えていたのだが、南岳の方向に展望地があると記されていたので、それに興味が湧いて南岳に立ち寄ってみることにした。尾根には遊歩道と言ってもよさそうな良く整備された道が付いており、南岳に向かっては丸太の階段道になっていた。階段道は木々に囲まれており、その下草としてクマザサが繁っていた。それを登り始めて10分と経たないうちに木々に空いた所が現れて、そこからは展望が広がっていた。そしていきなり目に飛び込んできた白い山があった。白山だった。曇りの予想だったため展望には期待していなかったのだが、北陸の空は晴れているようで、その空の下に白山がくっきりと眺められた。南岳には更に広い展望があるのではと期待して、そのまま南岳へと足を延ばしたところ、そちらは展望の無いごく平凡な山頂だった。そこですぐに先ほどの展望地に引き返し、改めて白山を眺めた。白山は一帯の尾根から泰然と抜け出ており、名山の風格があって飽きない眺めだった。ただ北陸の空こそ良く晴れているものの、御嶽山のある北東の空はすっかり曇り空で、そちらは何も見えなかった。その展望地に佇んでいる間にも、上空は青空が消えてすっかり薄曇りの空へと変わってきた。北陸の空も薄晴れへと変わり出していた。そこで瓢ヶ岳での展望も期待していただけに、少時展望を楽しんだ後は瓢ヶ岳へと尾根歩きを続けた。骨ヶ平へと下り、そして登り返して行くと、そちらも丸太の階段道となった所もあって全くの遊歩道だった。周囲の雑木林は既に落葉していたものの、裸木の中の遊歩道歩きも悪い雰囲気では無かった。足も軽やかに登って行くと、骨ヶ平から20分も歩けば、瓢ヶ岳の山頂に着いた。そこは狭いながらも平らになって展望も開けていた。その山頂に立つのを待っていたかのように、白山がちょうど雲に隠れるところだった。その南の越美の山並みはすっかり曇り空の下だった。そして悠然と見えているのは西向かいとなる高賀山だった。その高賀山は麓からは立派な姿として眺められていたが、こうして瓢ヶ岳から見ると山頂近くを通る林道が切り傷のように見えて痛々しかった。その瓢ヶ岳で暫しの憩いを取ると、後は登山口へと引き返す予定にしていたのだが、尾根の遊歩道は西隣の奥瓢ヶ岳(標高1160m)にも通じていたためそちらにも立ち寄ってみることにした。数分でその奥瓢ヶ岳に着いてみると、南岳と同様に山頂は単なる通過点のような雰囲気だった。そこで南岳に立ったときと同じくすぐに引き返した。後は骨ヶ平へ、そして登山口へとのんびりと下って行った。その下りで漸く他の登山者と出会った。そのまま登山口へと思っていたところ、登山道が沢から離れる辺りで、別の小径が巻き道のような形で分かれているのを見た。それは「ふくべの森」から始まる遊歩道のようで、そちらを歩いてみることにした。その小径が良かった。道そばにはカエデの木が多くあり、それがちょうど紅葉の見頃を迎えていた。おかげで最後にモミジ狩りも楽しめての下山となった。
(2007/1記)(2014/5改訂)(2022/3写真改訂) |