2008年の5月連休は両白山地の秘峰として有名な笈ヶ岳を目指した。登ったのは3日のことで、日帰り可能な山とは言え歩行時間は10時間を超えており、足は十分に疲れてしまった。その夜の宿は白山一里野温泉。翌4日を帰宅日としており、帰宅の前に手頃な山に登っておこうと考えていたが、具体的にどの山を登るかは決めていなかった。そこで宿で取り出して読んだのが新・分県登山ガイドの「石川県の山」だった。一里野温泉の近くにあって軽いハイキング程度で楽しめる山は無いかとページをめくっていると、この大嵐山が目に付いた。登山としては少し軽過ぎると思われたが、中腹にはミズバショウ群生地があり季節的に面白いのではと思えて、すんなりと大嵐山ハイキングを楽しむことに決めた。
翌4日に一里野温泉の宿を離れたのは8時を回ってから。この日も前日に続いて快晴だった。いくぶん空の青さが薄らいでいるように思われたが、ほとんど雲は見られなかった。大嵐山のミズバショウは有名なようで、国道157号線を走っていると標識が現れた。その標識に従って手取湖に架かる桑島大橋を渡った。後は案内標識のままに大嵐山中腹の駐車場へと車を進めた。駐車場は標高900mに近い位置にあり、そこに着いたときは9時にまだ間があったが、既に20台ほどの車が止まっていた。遊歩道へと歩き出す人を見るといずれも家族連れで、軽いハイキングの装いだった。こちらも手早く準備をすませて遊歩道を登り出した。遊歩道は緩やかな坂で始まっており、10分ほどで十字路に着いた。そこは百合谷(びゃっこたに)峠と呼ばれる所で、真っ直ぐ進めばミズバショウ群生地で、右手の尾根を登れば大嵐山山頂へ、左手の尾根は遊歩道のブナ林コースだった。大嵐山へは涼しいうちに登ろうと考えていたので、まずは山頂へのコースに入った。その尾根道に入った途端に人の気配は無くなった。どうやら前後を歩いていた人は皆ミズバショウ見物に向かったようだった。尾根の雰囲気は悪くなかった。明るい尾根で新緑がまぶしかった。その中に大ぶりの白い花をがよく目に付いた。タムシバのようで、今が盛りと花の白さに汚れが無かった。少し登ると大嵐山の山頂が見えて来た。その位置からだと標高差は200mほどなので、ごく小さな山にしか見えなかった。その位置より少し登ると尾根は一度平坦になり、そこに見事なブナ林が広がっていた。それが新緑とあってその清々しさは素晴らしいの一言だった。その先で尾根は南東方向となり傾斜が増した。尾根は少し北向きとなるため薄暗さがあり、そのうちにちらほらと雪が見られるようになった。その雪の上を歩くこともあったが、雪はよく締まっており特に問題は無し。前日の足の疲れを気にすることも無く登って行けた。雪は消えたり現れたりしながら次第に増えて、ほぼ雪の上を歩く形で山頂に着いた。その山頂でまた風景が一変した。そこには天然杉の巨木が林立しており、どの木も高いだけで無く枝をいっぱい広げてボリューム感がたっぷりあった。その杉によって暖かいのか山頂にはほとんど雪は見られなかった。この山頂には三角点は無く、展望の良さそうな所で休憩しようと辺りを探ると、東側で開けている所があった。そしてそこに立って見えたのが白山だった。前日の笈ヶ岳では北から眺めていたが、この大嵐山は西側から眺めることになった。距離はこちらの方がいくぶん近いとあって、その大きさは圧倒的だった。まさに大嵐山山頂は白山の好展望地だった。それにしても分岐点からずっと人を見かけずパートナーと二人っきりだった。そして山頂でも白山を眺めながら二人して静かなときを過ごすことになった。どうも大嵐山はファミリーハイカーに敬遠されているのかと思ってしまった。その山頂には30分ほどの休憩で腰を上げた。ちょうど単独の登山者が着いたときのタイミングだった。その下山だったが、この大嵐山が決して静かな山で無いことが分かった。何人ものハイカーとすれ違うようになり、ほとんどが家族連れだった。どうやら単にミズバショウ見物を先に済ませていただけのようで、百合谷峠に着くまでに30人ほどとはすれ違ったかと思えた。おかげで雪の僅かに付いていた所は踏まれてどろどろになっていた。百合谷峠からはミズバショウ群生地に向かった。遊歩道はメインコースとあって、幅広の道で緩やかに下り坂で続いていた。前後に大勢のハイカーを見た。すぐに木道が現れて、その辺りで早くも満開のミズバショウ群が見られるようになった。その木道歩きのまま群生地の中心へと行くのかと思っているとそう言うことは無く、また土道の遊歩道に戻った。その先で下り坂は傾斜を増すと、程なく前方が開けて白い花がいっぱい咲いているのが見えてきた。そこがミズバショウ群生地でさほど広くは無かったが、湿地に広がるミズバショウの風景は十分に絵になっていた。そのミズバショウ群を前にして、木陰で休憩とした。幼児連れの家族もおり、それだけ気楽な場所と言えそうだった。一休みのあと群生地を一回りして帰路についた。そして百合谷峠に戻ると、そのまま駐車場に戻るのでは無く遊歩道を尾根コースへと入った。そちらは尾根のブナ林を通って遠回りで駐車場に戻るコースだった。このコースのブナ林も良かった。山頂コースのブナ林も美しかったが、こちらはより自然な感じでブナ林が広がっていた。こちらも新緑の盛りで、その明るい緑が空の青さにひきたっていた。またこちらの尾根にもタムシバが花盛りだった。新緑のブナと白いタムシバの花の広がる風景を見ながらの尾根歩きは、この季節ならではの楽しさで足の疲れも忘れてのんびりと歩いた。ただこの尾根歩きはさほど長くは続かず、30分ほどで終点の駐車場に戻り着くことになった。その駐車場はけっこう広いのだが、ほぼ満車状態になっていた。数えてみると70台は越していそうだった。大嵐山は思っていた以上に大人気の山のようだった。大嵐山は短いコースの中に色々な楽しみが詰まっており、ファミリー向けハイキングコースとしてはなかなか良い所ではと思いながら帰り支度を始めた。
(2008/5記)(2021/12改訂) |