10年8月の第三週に出かけた福井の山への小旅行は、当初は経ヶ岳と大長山に決めていた。それが出かける段になって、大長山の林道が工事中と分かり、大長山に替えて赤兎山を登ることにした。出かけたのは20日の金曜日。この日は赤兎山を鳩ヶ湯コースで登ったのだが、簡単に登れると考えていたのが大外れで、厳しさのあるマイナーコースだった。結局8時間のハイキングとなってしまい、足の疲労は大きかった。二日目の山は経ヶ岳を予定していたのだが、その経ヶ岳を六呂師高原から登るとすると、往復で5時間を越えそうで、決して易しいとは言えなかった。そこで経ヶ岳を諦めて別の山を登ることにした。参考にしたのは新・分県登山ガイド「福井県の山」。それを開くと、すんなりと決まった。冠山だった。冠山は何度か登った岐阜県の山から良く見えていた山で、その特徴ある山頂の姿は記憶に残るものだった。その冠山を以前にも登ろうと考えたことがあったが、冠山峠からのコースがどうも易し過ぎるように思われて、そのため冠山だけを目指すのをためらう気持ちが起きて、行かずじまいになっていた。その冠山も足が疲れているときに考えると、素直に登りたくなった。それを決めたのは大野市内の旅館のことで、決めたとなると、疲れていたこともあって21時には寝てしまった。おかげで十分な睡眠がとれ、翌21日の朝は、すっきりとした目覚めだった。足の疲れもあまり残っていないようで気持ちよく冠山に向かった。
大野市内から冠山へは、始めに国道476号線で飯降山の尾根を越えて旧美山町へ入った。暫く国道476号線を走り、池田町で国道417号線に折れると、後は国道417号線をずんずん走った。その国道が途中から冠林道に変わった。この林道は舗装路で続いてくれたので助かったが、福井岐阜の県境尾根まで達するので、小さな尾根を越したり谷越えがあったりと、長々と続いた。冠山峠は標高1050m。漸く着いたときは、大野市街を離れてから1時間半が経っていた。林道は峠を越えて岐阜県へと続いていたが、峠の位置のゲートは閉じられており、通行は出来なくなっていた。その峠の手前に駐車場があり、既に5台ほど車が止まっていた。用意を調えて峠に出ると、そこは広い場所になっており、冠山峠の説明板があったり、トイレも設けられて、ちょっとした観光地の体をしていた。少し高い位置に立つと、東にすんなりと冠山が眺められた。そこから見る冠山は、冠の姿と言うよりも風折れ烏帽子の姿に見えたが、特異な姿に変わりはなく登高意欲をそそられた。ただ峠には風が無く、けっこうな暑さだった。気温を見ると30℃を越えていた。その峠を離れて県境尾根を歩き出そうとしたとき、1台のマイクロバスが到着した。子供たちでいっぱいだった。マイクロバスに池田町の名があったので、地元の行事としての冠山ハイキングのようだった。東へと登山道を歩き出す。程良い歩き易さで、遊歩道と言っても良さそうだった。前方に冠山が見えていた。まずは1156mピークへと登るが、木々の中を歩くようになると、気温は27℃まで下がってきた。また僅かに風も現れて、暑さを和らげてくれた。木々には大きなブナも見られて、登山は簡単でも千メートルを越える山を登っていることを知らされた。1156mピークを越すと下り坂となり、その先では尾根は小さな起伏が続いて、あまり高度は変わらなかった。少し傾斜が付くと階段道となるので、気楽な尾根歩きだった。概ね木陰を歩けたが、ときに陽射しを受けることがあり、そのときは真夏の暑さを感じた。それを和ませてくれたのが尾根のブナで、ときに大木が数本と並んで現れた。ときおり下山者とすれ違った。歩くうちに冠山はどんどん近づいて、近くから見上げるようになると、あまり冠の風には見えなくなった。いよいよ山頂直下と思える辺りまで来たとき、近くに笹原の広がる風景が現れた。その中央はぽっかりと地肌を見せており、数人の若い男女が休んでいた。そこが冠平で、それを見て一息入れることにした。着くと冠平は風の通り道なのか、涼しいばかりの風を受けた。風の快さに長居してしまいそうだったが、小休止で腰を上げた。山頂へは冠平から道が延びていると思い込んでいたので、いざ先に進もうとしたところ、道が見えなかった。そこで休んでいた一人に聞くと、ここに来る少し手前に分岐点があったとのこと。そこで来た道を少し戻ると、灌木に隠されるようにして山頂への道が分かれていた。始めに急坂があり、その先で一度緩むと、次に岩場を登るようになった。ロープも付けられていた。なるほど見た姿のままに急角度の登りだったが、冠平からでは山頂との標高差は100mほどでしかなく、10分と登らず急坂は終わって平らな所に出た。そこより東に僅かに歩いた位置が、三等三角点のある山頂だった。てっきり誰かは居るだろうと思っていたのだが、無人だった。山頂はごく狭く中央が岩場になっていた。狭いと言ってもパートナーと二人っきりとあれば十分な広さだった。その山頂には冠平と同様に涼しい風が渡っており、陽射しの下でも十分な涼しさだった。そして360度と、総て見渡せる山頂だった。少し残念なのは視界がモヤがかっていたことだったが、前日の近くの山さえ判然としないほどのひどさでは無く、遠方がはっきりしない程度だった。まず東に大きく見えるのは、能郷白山だとすぐ分かった。北に二つ並ぶのは部子山と銀杏峯かと思われた。西に端正なのは金草岳のようで、南に鋭い姿は、暫く考えて蕎麦粒山だと分かった。2008年秋にその蕎麦粒山から冠山を眺めたことを思い出した。この全方位の展望を暫くの間ひたすら眺めていた。そして少し早いが、昼食タイムとした。その昼食時に足下の冠平を眺めると、集団登山の子供たちが集まっていた。そのうちに山頂を目指して来ると思っていたのだが、そうではなく、冠平で昼休みとするようだった。山頂には40分ほどいたが、結局二人っきりだった。下山は登って来たコースを引き返した。急斜面を下りると、賑やかな冠平へは寄らずに、すぐに尾根歩きに移った。昼となって、木陰の中でも風が無いときは、けっこうな暑さだった。そしてちょっと煩わしかったのがアブだった。登りのときも、ときおりまとわりつかれていたが、この下山ではしつこいアブが何度か現れた。体の動きを止めると、ときに刺してくるので、出来るだけ止まらないように歩かなければならなかった。前日の赤兎山のアブもけっこうしつこかったので、どうやら夏の福井の山は凶暴なアブが多いようだった。そのためそこそこのスピードで歩いたこともあり、下山は山頂を離れてから1時間で冠山峠に戻ってきた。下山といえども1時間で歩けるのでは、やはり冠山は登山としては簡単な山だと言えそうだった。またこの下山では、真夏の昼どきだと言うのに、登ってくる登山者と何度かすれ違った。思っていた以上に人気のある山のようだった。この下山後に冠林道を起点まで戻ってきたときに立ち寄ったのが、冠荘だった。その中の天然温泉でさっぱりと汗を流せたのは良かった。
(2010/9記)(2019/8改訂) |