鳥取県若桜町には千メートル峰が多くあって、鳥取まで出かけるとなると、そちらに向かうことになるが、低山にも幾つか面白そうな山があり、この鶴尾山は知名度では若桜町でも指折りではと思われる。但し鶴尾山の名では無く、山頂に広がる鬼ヶ城跡のある山としてだが。その鶴尾山に向かったのは2010年5月の新緑の季節のこと。但し鶴尾山を目指して鳥取に向かったのでは無く、この日の目的はくらますだった。そのくらますが以前よりも歩き易くなっていたこともあり、正午を回った時間には、下山を終えてしまった。そこで午後の時間に簡単な山を登ろうと考えて、鶴尾山登山を思いついた次第だった。その鶴尾山には当然ハイキングコースがあるはずだが、それを知らないため、山頂からなだらかに西へと延びる尾根にあるのではと考えて、西尾根の端を目指した。すると案内標識が現れてそれに従うと、西尾根では無く、それよりも少し南の位置に登山口が現れた。登山口には城の名にちなんだものか、キャラクターの鬼の子が標識に付いていた。車は登山口のそばに止めた。いざ歩き出すと、意外と道はマイナーな雰囲気で、周囲は植林が囲んで薄暗かった。始めは沢筋を歩いていたが、途中からは沢を離れて右手の斜面を登るようになった。周囲は自然林も増えてきて少し明るくなってきた。そして小さなスキー場の前に出た。スキー場は若小スキー場とあり、リフトは無くただ草地の斜面が見えるだけだった。その名の通り、小学校の遊び場になっているようだった。登山コースはその斜面を登るのでは無く、そのそばよりごく普通の山道と言った感じで小径が始まっていた。周囲は新緑の木々が囲んでおり、良い雰囲気で登って行けた。しかもつづら折れの道として続いていたので、ごく気楽な感じだった。そして山頂が近づくと石垣が現れた。六角石垣とあり、城跡の領域に入ったようだった。その先でも石垣が現れて、それを横目に進むと二ノ丸跡の広場に出た。木陰が多くあり、涼しい風を受けるようになった。またレンゲが足下で可憐な花を咲かせていた。そこを抜けると、少し高い位置に本丸跡があって、その一隅に四等三角点(点名・鬼山)が置かれていた。そこは標高446mだったが、その本丸跡が山頂では無く、そのそばで更に一段高くなっている天守閣跡が山頂だった。そこはごく狭かったが、休むには良い感じの所だった。そこに立って城跡をざっと眺めると、全体に落ち着きある雰囲気があって悪くなかった。適度に整備されているのか、下生えも無くすっきりと見せているためかもしれなかった。その城跡にはシャガが多いようで、それが花を付けているのも良い感じだった。城跡に着いた頃より涼しい風を受けるようになっていたが、天守閣跡は一段高いこともあって、よりいっそう涼しい風が渡っていた。その風が爽やかそのものだった。空は薄晴れとも薄曇りとも言える空になっており、陽射しを受けることも無かったので、風の涼しさに誘われて暫しの昼寝を楽しむことにした。本当に五月は良い季節だと思える山上だった。一休みしたところで周囲を見ると、この鶴尾山は好展望の山でもあるようだった。天守閣跡の位置からは北東から東にかけて開けており、対峙するどっしりとした山は高山だった。遠くには氷ノ山の山頂も覗いていた。本丸跡に下りると、北西の方向も開けており、陣鉢山や扇ノ山、嶽山と一望だった。そして足下には宿場町若桜の屋根瓦が並んでいた。ここまで二人きりの山頂だったが、近くで何人もの声が聞こえてきた。人影が現れると10人ほどの学生グループで、引率の先生らしき人も見かけた。ごく軽装だったので、車で林道を走って山頂そばまで来たのかも知れなかった。そのグループと入れ替わるように下山することにした。山頂に着いて知ったのだが、北へと町の中心部に向かっての登山コースもあるようだった。その宿場町への最短コースに入ってみると、赤テープが急斜面に点々と付いているのが見えた。そのテープを目印にして下り出すと、道は無く単に急斜面を木に掴まりながら下ることになった。すぐにこれはおかしいと思ったが、急斜面を既に何十メートルか下ってしまったので、その勢いのまま下って行くことにした。どうも最初から登山コースを外していたようだった。麓が近づくと赤テープが見えなくなったが、雑木でちょっと雑然とした斜面を適当に下って行くだけだった。そして足下に家並みが見えてこれで終わりかと思われたとき、何と登山道に合流した。そして結果として登山口に正しく下り着いた。まあ山頂と麓との標高差は230mしかないので、登山道を歩こうが、ヤブコギで下ろうが、時間的に大して違いは無いと思って納得することにした。下り着いた所は若桜町民体育館のそばで、後は本通りから少し外れた裏通りを歩いて駐車地点へと戻って行った。その閑静な通りだが、通りと平行して溝があり、町の人がその溝で洗いものをしていたのがときおり目に付いた。低山の山際にしては珍しく清流が流れているようで、その光景に若桜の町への印象は更に良くなった。若桜小学校の前を通って交差点を左に曲がると、駐車地点までは400mほどの距離だった。
(2010/5記)(2021/10改訂) |