八頭郡用瀬町は、今は鳥取市と合併して鳥取市用瀬町になっているが、駅前周辺は宿場町の佇まいを色濃く残しており、ちょっと町並み散策を楽しみたくなる町である。この用瀬町が年に一度、大いに賑わう日が、旧暦三月三日だった。千代川で行われる流し雛の行事は全国的に有名で、20年以上前に一度訪れたことがある。そのとき、流し雛もさることながら、町の旧家で展示される江戸時代からの雛飾りの古式ゆかしい姿にちょっと感動したものである。その宿場町用瀬を少し離れて眺めると、町の背後は間近まで山が迫っているが、その尾根の中で一つの山が特徴ある姿を見せている。それは三角形の鋭角的な姿で、小振りながら周囲の山から抜けて目立っている。それが三角山で、山頂には三角山神社があって神域になっている。また尾根続きにある北に一段低いピークのお城山には景石城跡があり、二つの山を結んでハイキングコースが出来ている。この三角山は以前からその姿に惹かれて気になっていたが、鳥取県でも鳥取市に近い位置にあると言ってよく、その遠方まで500m台の山にわざわざ登りに行くのは、ちょっと躊躇させられた。それが2010年3月に鳥取自動車道が出来て、鳥取市が身近に感じられたとき、楽に日帰り出来る山として三角山が視野に入ってきた。
向かったのは2010年11月の文化の日のこと。播州南部は快晴だった。北の空は雲が多いとの予報だったが、鳥取自動車道に入って北へと走り、鳥取県に入っても空は良く晴れていた。このまま用瀬の空も大丈夫ではと思われた。それが智頭町と用瀬町を結ぶ三つのトンネルを越えるうちに、雲の多い空に変わってきた。そして天気予報通りの雲の多い空になってしまった。ただ青空も覗いており、これから晴れそうな気配はした。用瀬PAに出口があり、そこを下りて用瀬の町へと向かった。智頭急行の線路を渡って古い家並みが続く路地に入ると、すぐに三角山神社の標識が現れた。それに従って進むと、用瀬町総合支所の前に出たので、その広い駐車場に駐車とした。その駐車場から山の方向を見ると、三角山は山頂だけ覗かせていた。あまり近いようだと、全貌は見えないようだった。空は青空が増えており、雲の多い晴れと呼べるまでになっていた。標識のままに山の方向へと歩いて行くと、左手に三角山へと真っ直ぐな道が分かれた。もうその道を歩いて行くだけだった。石の鳥居が現れてそれを潜ると、少し道の傾斜が増してきた。コンクリート舗装の車道は濡れており、足下に注意していないとちょっと滑りそうになることがあった。その足下の滑り易さを気にして登っていると、左手に細い道が分かれた。そこからも景石城跡へ行けるようだった。そのまま真っ直ぐ進んで行く。山の西面だけに午前は光が射さず、辺りは薄暗くなっていた。すぐに現れたのが女人堂だった。案内板を見ると、戦前まではこの先は女人結界だったことが書かれていた。車が入れるのはそこまでで、その先にまた石の鳥居があって登山道が始まっていた。道はすぐに二手に分かれたが、矢印があって左手の道を三角山山頂への道としていたので、そちらに入る。登山道は雑木の中を続いており、足下は露岩になっている所が多かった。露岩は花崗岩のようで、それが階段になっている所もあった。花崗岩は特に滑り易くも無く、無難に登って行けた。そのうちに小雨が降ってきた。いつのまにやら空は暗くなっており、どうも晴れてくるだろうとの予想と違ってきた。ただ空の一部には青空も見えていたので、通り雨かと思われた。その通りで、10分もすると雨は止んで、また青空が上空にも見られるようになった。その頃にはごく普通の山道になっていた。昔からよく歩かれている道なので、歩き易く、安らぎも感じられて、良い感じで登って行けた。登るほどに色付く木立も見られたが、紅葉の盛りにはまだ二週間ほどかかるのではと思える色付きだった。ただときおり鮮やかな紅葉も見られた。女人堂から300m、山頂まで500mの位置で、景石城跡のあるお城山への道が分かれる。下山時はそちらに向かう予定だった。少し尾根が緩んで平坦な感じになった先で、急坂が始まった。三角錐の部分にかかったようだった。その急坂にはロープやクサリが付けられているので、それを補助にすれば、特に難しくもなく登って行けた。むしろ快適な登りだった。休むこともなく良い感じで登って行くと石段が現れて、その先に大きな岩に寄り添うようにして三角山神社が建っていた。そこが山頂だった。そこまで誰と会うことも無かったが、山頂も無人だった。ちょうど陽射しが現れていたので、その暖かい陽射しを受けながら昼休憩とした。小ぢんまりとした山頂なので、パートナーと二人してで、ちょうど良い感じだった。そこに着いて漸く展望も開けて、南には洗足山へと続く尾根が眺められた。また西はすっきりと開けており、足下には用瀬の町並みを、遠方は高鉢山の尾根が一望だった。東側も僅かながら展望があり、兵庫との県境尾根を望めたが、氷ノ山は雲に包まれていた。岩の点在する山頂に小ぶりな三角山神社が建つ風景は悪くなく、その中で昼どきを過ごした。静かさの広がる山頂でもあり、そこに身を置いていると、自然と心が和んできた。山頂で一時間近く過ごした後、下山とする。空は青空の部分が増えたと言っても、まだまだ雲の多い空だった。まずはお城山コースへの分岐点までは登ってきた道を辿る。お城山コースに入ると、ササが目立つようになった。但し道に被さるようなことは無く、むしろ登山道を風情あるものにしていた。道自体も歩き易く、落ち着きが感じられて悪くなかった。緩やかに下って緩やかに登ると、分岐点から20分ほどで、お城山のピークに着いた。そこは景山城跡になっており、いかにも城跡らしく平らに開けていた。三角山の山頂が狭かったのに対して、そこは十分な広さがあり、しかも西に向かっての展望は、三角山の山頂よりもいっそう素晴らしい展望で、何とも伸びやかな所だった。そこでも眼下に用瀬の家並みが眺められた。また北を見れば、うっすらとながら日本海も見えていた。三角山山頂が岩場があって男性的なら、そこは穏やかさがあり女性的と言えそうで、味わいが違うのが面白かった。なお、城跡の北の隅には三角点(点名・屋敷)があり、また南の一段低い位置には東屋も建っていた。展望を楽しんだり、東屋で休んだりとひとときを過ごした後、そこより麓へと続く登山道に入った。こちらの道は歩き易さは変わらなかったが、雰囲気としてはごく普通の里山道を歩いている感じだった。足の下りるままにゆっくりと下って行ったのだが、15分も歩けば林道に下り着いた。そこから右手が下り坂になっていたが、そちらに歩けば町並みから離れる方向となるので、左手の東の方向へと、緩い上り坂を歩くことにした。歩きだしてすぐに駐車場が現れたので、そこに車を止めてのスタートも考えられたようだった。林道は緩い上り坂だが平坦と言ってよく、そのうちに緩い下り坂に変わった。車が何とか一大通れる幅だったが、あまり車は通っていないようで、草の茂りだした所もあった。むしろ標識に書かれているように、「健康ウォーキングコース」としてハイキングコースで利用されているようだった。下るうちにやや傾斜がきつくなって、女人堂に続く車道に合流した。そこからは朝に歩いた道となり、車を止めてある用瀬町総合支所へと戻って行くだけだった。小さな山ながら、二つの味わいある山を登れたことに満足しながら、緩い坂を下って行った。
(2010/12記)(2021/8改訂) |