新緑の山を楽しもうと毎年5月は鳥取の山に登ることを楽しみとしているが、2011年はちょっと変わった山名の六郎谷に向かった。ロクロウと言う名からして、木地師が使うロクロと関係があるのかも知れないと思えた。2009年に近くの遠見山を登ったときに、その六郎谷の姿が小さいながらもどっしりと眺められて、気になっていたものである。その六郎谷をどこから登ろうかと考えて、「稲葉郡家」の地図を開いた。距離的には東麓側の山志谷集落側から登れば良さそうだったが、山頂から北に延びている尾根が気になった。緩やかに真っ直ぐ延びており、新緑の尾根をゆっくり眺めるのに良さそうに思えた。ただピストンはしたく無いので、北尾根をずっと歩くのは下山時として、往路は北尾根の西を走る林道をアプローチとすることにした。その林道を途中まで歩いて、適当な所で北尾根を目指して支尾根を登ろうと考えた。
この日の空は黄砂の影響なのかうっすらとしていたが、5月の風と言う言葉が相応しい爽やかな風が吹いていた。国道29号線を走って行くと、八頭町に入って富枝交差点で右折して扇ノ山方向へ向かう県道37号線に入った。その県道は途中で二手に分かれ、「ふる里の森」へ向かうのは林道で、県道は西へ折れて尾根を越えることになった。県道に入ると展望は良く、南に向かって東山の尾根が眺められた。尾根を越えると間近に六郎谷が見えるようになり、山志谷集落へと下って行った。山志谷集落を過ぎると県道282号線に合流した。今度は六郎谷の北麓を西へと走る。その県道282号線を、野町集落の標識を見て離れた。野町集落に入って行くと、集落の道は車1台がやっとの細い道だった。集落を抜けると車道は林道に替わって、野町川沿いを南に続いていた。対岸が六郎谷の尾根だった。下山を考えると林道を奥まで走るのは無意味だったので、道幅が広くなった所で車を止めて駐車とした。そして林道を南へと歩き始める。林道と野町川の間は狭いながらも水田になっており、田植えの準備が進められていた。次第に六郎谷の尾根と右手の尾根が狭まってきた。そして野町川に架かるニノ谷橋を渡って右岸側に出た。地図を見るとその辺りから始まる支尾根に取り付けば、スムーズに六郎谷の北尾根に出られそうだった。その辺りは急斜面になっていたが、無理やり登って行った。一帯は植林地だった。尾根を辿るようになっても尾根は急傾斜で続いた。その尾根の木々が登るほどに植林から自然林に替わってきた。そのときは少し雲の多い空だったが、雲間から陽射しが現れると、自然林が今が新緑の盛りとばかりに薄緑色の葉を輝かせた。ただ風が強く吹いており、絶えず小枝が揺らされていた。気温は17℃と少し低めで、風もあって少し涼し過ぎるぐらいだったが、急坂を登っているとあって適度な涼しさに感じられた。200メートルほど登ると、尾根の傾斜は一気に緩んだ。その辺りから下生えとしてクマザサが増えてきたが、そこも鹿の食害が進んでいるようで、多くの葉はかじられて枯れようとしていた。そのためごく普通に歩いて行けた。尾根は大きな木が多くあり、新緑として楽しむには十分だったが、どうも良く育っていると言うか木々に切れ目が無く、展望は現れなかった。その支尾根の傾斜が再び増して北尾根に合流した。林道を離れてから一時間近くが経っていた。もう山頂まで緩やかな尾根が続くのみ。尾根はササがあったり、植林地が現れたりするものの、概ね自然林に覆われており、明るい尾根だった。その自然林はやはり大ぶりの木が多いようで、たっぷりと新緑を楽しめた。ただ北尾根も展望は無かった。下生えが少ないのでスムーズに歩けたが、地表が広く現れている中にクマザサの痕跡を見たり、ウリハダカエデが育とうとしている様子を見ると、この北尾根は以前はクマザサにすっぽりと覆われていたのではと思われた。それが鹿の食害で植生が変わってきたものであろう。山頂が近づくとクマザサが見られるようになり増えてきた。それをかき分けて二等三角点(点名・山志谷)が置かれた山頂に着いた。そこはすっかり木々に囲まれており、展望は全く無かった。一帯が緩やかな地形と言うこともあって、尾根の途中かと思える雰囲気だった。但し、人の訪れの少ない山で感じる落ち着きはあった。ササの少ない所で休憩とした。山頂は風が少ないようで、休むにはちょうど良い涼しさだった。その涼しさの中で少しばかり横になって体を休めた。一段落したところで周囲を探ってみたが、植林地があったり自然林が広がっていたりと、どちらにしても展望は開けなかった。山頂で休んでいたのは一時間ほど。下山は予定通り北尾根をひたすら歩くことにした。この下山では尾根からの展望に注意することにした。やはり注意すれば見つかるもので、尾根を少し離れると木々の空いた所が現れて、北東方向に扇ノ山が望めた。その展望が得られたことで、後はひたすら尾根の緑を楽しんで下った。その尾根は植林と自然林が混じっていたのだがが、麓が近づいたとき、孟宗竹の竹林になったのは少し意外だった。やはり里山と呼ぶのが相応しい山と言えそうだった。そのまま竹林の中を歩いて麓に出るものと思っていると、また雑木林になった。そして尾根がはっきりしなくなった。北へと下って行くことだけを心がけて下って行くと、麓の田園風景が見えてきたとき小径に出会った。その小径を下って行くと、野町集落から東へ少し離れた田圃の一角に下り着いた。後は野町集落を抜けて、林道の駐車地点へと戻って行くだけだった。
久々に情報の無い地図だけが頼りの手探り登山をしたが、自然な山の佇まいと、この季節ならではの新緑が楽しめて、十分に満足出きるハイキングとなった。それにしても人の訪れが少ない山は当然会う人はいなかったが、静けさだけで無くゴミ一つ無いことは、歩いていて気持ちの良いことだった。
(2011/5記)(2021/7改訂) |