2009年の元旦の朝は広島市内のホテルで迎えた。前日から広島の山を登ろうと一泊二日の予定で来ており、前日は広島湾に浮かぶ江田島の古鷹山とクマン岳を登っていた。どちらの山でも山頂展望に恵まれ、多島海の風景を眺められて旅情を満喫することが出来た。その豊かな気持ちのままに迎えた新年初日の山は、広島市街にごく近い呉娑々宇山だった。今度は陸地側から多島海の風景を眺める予定だった。元旦の広島市の空は、やや雲が多いものの快晴と呼んでもよさそうな明るい空が広がっていた。平和公園に近いホテルから登山コースの入口となる水分峡(みくまりきょう)公園までは30分ほどの距離だった。公園管理棟の前が駐車場になっており、そこには10台ほどの車が止まっていた。但しほとんどの車は霜を被っており、前日から何らかの理由で止めているようだった。この日の朝に止めたと見られる車は2、3台だった。ただこちらが止めて準備をしている間に、新たに2台の車が入ってきた。御衣尾川に沿って続く遊歩道を歩き出した。その御衣尾川に架かる橋を渡ると、水分神社の前に出た。その先で遊歩道から分かれて真っ直ぐ北へ向かう登山道が始まっていた。まずは高尾山へ向かおうと、その小径へ入った。いかにも里山道の感じで、狭いながらも適度な歩き易さだった。空は少し雲が多いようで、陽が射したり陰ったりを繰り返していた。15分ほど登ると東屋が現れて、その先で尾根道に合流すると、後は尾根を歩くことになった。緩やかな道で、所々で花崗岩質の露岩が現れて、その上を歩くことがあった。またこの好天のためか、何度かハイカーとすれ違った。前方には露岩の目立つピークが見えていた。暫く進むと石段が現れて、それを登ると広場の前に出た。以前は岩屋観音があったそうだが、火事で焼けてしまったとのこと。見上げると岩峰のように突き出た岩が間近に見えていた。それまでが展望が無かっただけに、その上が絶好の展望場所と思えて、それを目指して登りにかかった。広場からは登山道は急坂となって、様子が一変した。手を使って急坂を登って行くと、その目指す岩のそばに着いた。そして足下に注意しながら岩の上に立つと、予想以上の好展望が広がっていた。広島市街が足下に一望で、その先は広島湾と多島海の風景だった。西を見ると松笠山が陽射しを受けて明るく見えており、その背後は広島市近郊の山が重なっていた。遠くの山は雪化粧をしていた。そのスケールのある展望に、暫くはじっと眺めて立っていた。その大岩の上はやはり展望ポイントのようで、他にも人が上がってきたが、数人しか立てない狭さだった。後ろを見ると一段高い位置にも大岩が見えており、人が立っていた。そちらに移ってみると、その岩は畳岩と呼べそうな平らな岩で、十人以上は楽に休めそうだった。そこも絶好の展望場所で、北にも展望があって白い山が見えていた。その位置からして白木山のようだった。たっぷりと展望を楽しんだが、その先でもまた展望の岩場が現れた。どうやら高尾山は展望の岩尾根を楽しむ山のようだった。その岩場から一段登った所が高尾山の山頂だった。そこは三角点があって山頂と分かるものの、周囲は雑木が囲んでおり尾根の単なる通過点のような雰囲気しか無かった。足を止めずに先に進んだ。高尾山を過ぎると急坂は終わり、尾根は緩やかになった。前方にはときおり呉娑々宇山の方向が開けることがあった。尾根が平らに見えるため山頂がつかみ難かったが、電波塔の見える位置がどうやら山頂のようだった。空は相変わらず雲が広がったり晴れたりを繰り返しており、陽射しの中では暖かさを感じられたが陽射しが消えると寒々とした。気温を見ると5℃を指していた。尾根は緩やかにアップダウンを繰り返し、二つの鉄塔のそばを通過すると、車道に下り着いた。その車道を横切って再び登山道歩きを続けた。いよいよ呉娑々宇山へと近づいて行く。それまでは比較的明るい尾根歩きだったが、周囲の木々が濃くなったこともあって、薄暗い雰囲気になってきた。そのためか気温も下がって2℃ほどになり風の冷たさが身に凍みてきた。登山道には前日に降った雪も見られるようになった。その寒々とした登りを続けるが、それにしても高尾山の山頂を離れてから誰とも会わず、全く静かなものだった。山頂がそろそろ近いと思え出したとき、また畳岩と呼べそうな平らな大岩に出会った。バクチ岩と名が付いており、そこに立つと広島湾に向かって素晴らしい展望が広がっていた。ただ展望は下山時に楽しもうと、そこは先を急いだ。尾根はその先も緩やかで歩くことに問題はなかったが何とも寒く、再び温度計を見ると0℃を指していた。北から寒気が南下しているようだった。空も先ほどより雲が増えているようだった。もうそろそろ山頂に着いてもよいのではと少し焦りを覚えたとき、二つのマイクロウェーブ反射板の建つ位置に出た。その先には山頂の電波塔が目前だった。漸く山頂に着いたようだった。途中でけっこう休憩をしていたが、歩き始めてから3時間近くが経っていた。電波塔のそばを通ってほんの僅か歩いた所に三角点があった。それは二等三角点(点名・五八霜山)だった。そこも人影は無く、ひっそりとしていた。ちょうど陽射しがあって佇まいとしては悪く無かったが、周囲を雑木が囲んでおり展望は少し海側にあるだけで良いとは言えなかった。そこで休憩は展望の良いバクチ岩でとろうと、僅かな時間で山頂を離れた。もう少し開けている山頂かと思っていたのだが、ちょっぴり期待外れの感じだった。その三角点のそばからは北への展望は無かったが、電波塔のそばを通るときに北を見ると、木々の隙間から白い白木山が覗いていた。バクチ岩に戻って昼休憩とした。その岩の上なら10人は休憩出来そうだったが、そこも人影は無く、パートナーと二人っきりだった。広島湾を眺めながらの休憩だった。相変わらず上空は雲が多かったが、バクチ岩の休憩中はけっこう陽射しがあって有り難かった。一休みを終えると、後は下山するだけだった。下山は南西方向へ延びる尾根を下って真っ直ぐ水分峡を目指すことにした。バクチ岩を離れると程な高尾山コースから水分峡コースが分かれた。そのコースは常緑樹が多いようで、少し薄暗い尾根だった。歩くのは下山とあってけっこう気楽だったが、なぜか林道とよく出会って、その都度横切ることになった。水分峡コースに入って10分ほどで最初の林道を横切った。また10分と下らぬうちに2度目があり、また7,8分で3度目、そして4度目、5度目とあり、その5度目はほぼ尾根を下ってしまったようで、そこからは林道を歩くことになった。そして水分峡公園へと入って行った。公園内の「草摺の滝」を見る頃より漸く人を見るようになったが、高尾山の山頂を離れて以来、ここまで全く人と出会わなかったことになる。広島市という大人口が近くにあることを思うと、ハイキング愛好者は少ないのかと思ってしまった。水分峡公園には特に興味が無かったので、ただ通り過ぎる感じで歩いて行くと、水分神社の前に出た。こうして周回コースで高尾山と呉娑々宇山を巡ってくると、最初に歩いた高尾山の岩場の印象が強く、呉娑々宇山はどうも歩く易しさだけで歩いてしまったような印象になってしまったのは意外だった。
(2009/1記)(2016/10改訂)(2021/11改訂2) |