兵庫県境に近い岡山県の山として、ツズラ山は麓から良く見える山でも無くごく地味な山だが、地図を見て尾根歩きを楽しめそうだと思えた。訪れたのは2004年8月末のこと。漸く朝に涼しさが出てきていたが、まだまだ日中は厳しい暑さが続いていた。大原町古町で国道373号線を離れ、前年の高照峰登山と同じく黒谷川沿いの林道を奥へと進んだ。やがて林道は二手に分かれたので、ツヅラ山へ向かえる右手の道に入った。尾根歩きを山頂に近い位置から始めたくは無く、そこで適当な位置に車を止めて斜面に取り付くことにした。もうその辺りでは黒谷川の川幅は2メートルほどになっており、その細流を飛び石伝いに渡って、向かいの植林地の山肌に取り付いた。やや急斜面だったが、尾根までの距離は短く、さほどの時間もかからず尾根に出た。その尾根には8月末とも思えぬ涼しげな風が通り抜けており、秋風と言って良い爽やかさだった。また周囲は自然林が広がり、落ち着いた雰囲気を醸していた。小径も付いており、もうハイキングの気分で歩いて行けた。まずは現在地を掴もうと展望が現れるまで休まず歩き続けることにした。快い風に吹かれて緩やかな尾根歩きを続けて行くと、小さなピークに着いた。そこから先は一帯が伐採地になっており、見事な展望が広がっていた。どうやらそこは漸く600mを越した辺りと思えた。この日の空はややモヤの強い空で、淡い色合いの青空だったが、うっすらながらも遠方までまずまず見えていた。北の展望が良く、鳥取県との県境尾根や、北東には後山から駒の尾山へかけての尾根などが望まれた。しかし、この展望を得てからの尾根歩きが、俄然ヤブコギになってしまった。見た目は優しげな風景だったが、灌木と雑草の茂る尾根は伐採地にありがちなイバラが多く、灌木の小枝も四方に広がっており、なかなかの手厳しさだった。その状態がけっこう長く、二つほど小さなピークを過ぎても変わらず、その次のピークで尾根が北向きになるまで続いた。涼しげな風は消えており、陽射しを強く受けて汗をかき通しての登りでもあった。北へと尾根が向きを変えたそのピークに着いて、初めて山頂一帯が望まれた。北へと尾根を辿り出すと、一帯は再び植林地となった。そして次のピークで尾根は西へと向きを変えて下り坂となった。その鞍部でナラタケモドキの群落と出会った。そこより登り返したところが山頂だった。歩き始めてから2時間かかって漸くたどり着いた山頂だった。そこは足元にクマザサが広がり、周囲を杉の植林と雑木とが入り交じって囲んでおり、全く展望の無い山頂だった。ただ中心にあった三等三角点(点名・古町)は、傷一つ無いきれいな姿だった。この日のツズラ山登山で期待したのは西方向の展望で、間近に袴ヶ仙が見えるのではと思っていたのだが、そちらは雑木が遮っており、叶えられなかった。山頂で一休みした後は、林道に向かって南の方向への尾根を下ることにした。植林地の急斜面を一気に下るのだが、下り始めた頃に西の樹間より、僅かだが袴ヶ仙の山頂部が望まれた。急斜面のおかげで30分ほどで林道に下り着いた。そこは林道の終点となっていたが、数台の車が止まっており、林業関係と思われる数人の人が、車の傍らで昼寝をしていた。谷あいを涼しい風が渡っており、極上の昼寝場所になっていた。後は林道歩きを20分ほど続けると、駐車地点に戻って来られた。このツズラ山の山頂だけを目指すのであれば、林道終点からなら僅かな時間で山頂に立てるが、長い尾根を周囲に延ばしている山なので、多少の苦労があっても、尾根をじっくり歩いて山頂を目指すのに手頃な山だと思えた。
(2004/11記)(2014/10改訂)(2022/2写真改訂) |