岡山県の北東部には後山から駒の尾山へと続く山並みと、那岐山を中心とする山並みの二つの大きな山域があるためか、その間の個性的な山々はどうも見過ごされがちのように思われる。この袴ヶ仙はその中でもガイドブックにも紹介されて、比較的名前を知られている山ではと思える。
訪れたのは1999年8月下旬。快晴の空にはうろこ雲がわずかにかかり、秋の気配を感じさせる風の涼しい日だった。岡山県勝田町右手(うて)の塩木地区に入って、塩木生活改善センターそばの県道脇に駐車した。袴ヶ仙へは塩木集落の中を通って行くが、集落を貫く道はかなりの急坂で、道幅も車がやっと1台通れる程度だった。すぐに家は切れて棚田風景となり、それも間もなく両側から山が迫ってくると終わった。道は林道となり、次第に雑草が増えて来た。やがて山中に入ると、程なく林道は二手に分かれたが、東に向かう林道を辿ることにした。堰堤のそばを過ぎると、道幅は狭くなって山道となり、丸太で作られた土橋に着いた。ここで塩木川を渡ると、山道は沢を離れて植林地を登り出した。山肌はすっかり植林に覆われて薄暗い。道は徐々に不明瞭になり、やがて踏み跡程度となって、急斜面を登ることになった。木に掴まりながら登って行くが、赤テープの目印が付けられていたので、進路を外れることは無かった。やがて尾根に出た。この尾根はクマザサが茂っており、尾根道もあまりはっきりしていなかった。周囲の植林も手入れが悪く、雑木と混じり会っていた。クマザサの密生した所では背丈ほどもあり、また尾根も急になって、クマザサを掴みながら登らなければならなかった。その辺りでは陽射しをまともに受けて、結構暑さを感じた。無理やり登って行くとやがて尾根は緩やかになり、別の尾根に合流した。その合流点辺りでは植林地が切れて、西に向かって一気に展望が広がった。澄んだ青空の下に、正面に那岐山が堂々と聳えていた。また足元には右手の集落が落ち着いた佇まいを見せていた。そこで小休憩とした後、再び植林地に入った。尾根は緩やかでクマザサも少なくなっていた。涼しい風が時おり吹いていたが、湿度が低いせいか風が無くとも木陰では十分に過ごし易かった。途中やや尾根筋が不確かになったが、目印が常に付いており助かった。やがて再びクマザサの密集地に入ると、尾根の傾斜もまたきつくなった。クマザサは密集したままだったが、やがて尾根は緩やかになったと思うと、そこが山頂だった。山頂は三角点周りが少し刈られているだけで、すっかりクマザサに覆われていた。その周囲も植林が囲み、決して展望は良いとは言えなかった。少々失望させられたが、とにかく山頂で憩うことにした。三角点周りのクマザサを今少し刈り込んで、空き地を広げた。少しは展望を得ようと、東の方向に少し下ってみることにした。クマザサの急斜面だったが、植林地が切れると一気に展望が広がった。日名倉山から後山、ダルガ峰と、兵庫岡山の県境尾根が余すところ無く眺められた。遠くには黒尾山も見えていた。澄んだ空気の下で、十分に目を楽しませてくれた。ただ急斜面なので、滑り落ちないように木に掴まっての眺めであったが。午後に入って、西より少し薄雲が広がり出した。そして十分に休憩したところで、登りと同じコースを辿って下山とした。尾根の不確かな所も、目印のおかげでさほど迷わずに済み、大いに助かった。最後に土橋のそばの渓流で、頭を洗ったり体を拭くなどして水辺を楽しんだ。麓に戻るとやはり残暑でけっこうな暑さだった。
袴ヶ仙はクマザサに覆われており、コースも明確とは言えず、人の訪れは少ないようだったが、それだけに人擦れしていない落ち着きを十分に感じる山だった。
(2002/9記)(2009/6改訂)(2021/3写真改訂) |