氷ノ山を中心として兵庫と鳥取の県境尾根は南北に長く続いているが、その県境尾根の周辺には1000mを越す山が多くあり、手付かずの自然も多く残っている。ただ登山コースを持つ山が少ないためか紹介記事を見かけることは少ないのだが、幾つかこの山域を登った経験から言うとなかなか新鮮で魅力的な山が多いように思えた。時にはネマガリダケのジャングルに掴まって体力勝負となることもあるが、まだまだ自然林が多く残っており、その中を足の向くままに歩く楽しさはかけがえのないものである。特に4月の雪解けから5月の新緑の候になると、この地を訪ねたく胸が躍ってくる。この2003年4月も、氷ノ山から西へ派生する尾根の一ピークである高山を訪ねることにした。この山に関する知識は全く無く、参考とするのは点の記だけだった。その点の記では北西の長砂集落から登っていたのでそれを参考にと考えていたのだが、いざ麓に着いてみると南西の根安集落と長砂集落を結ぶ林道が現在工事中で、その林道を利用するのが手っ取り早そうに思えた。但し林道を車で走ってしまうのはもったいないと思い、暫くは林道歩きもすることにした。工事の終わっている根安集落側から入り、林道が山腹で上り坂となった辺りに駐車とした。後はひたすら緩い林道を歩いて行った。山腹は若葉が萌え出したばかりだった。真っ青な空にその淡い緑が鮮やかで、目の覚めるような美しさだった。のんびりと新緑を楽しんで歩くと、1時間ほどで峠に着いた。そこより尾根に取り付いた。自然林の尾根はイワカガミの自生地で、可憐なピンクの花が咲いたばかりであった。尾根の至る所で見かけるため、足を置く位置に苦労した。やがて尾根はアセビなどの低木が増えて、少し歩き難くなった。ただ高度を上げて行くと、その低木類は減って、次第に無理なく歩けるようになった。一帯の木々はまだまだ冬姿であり、そこにタムシバの純白の花が一際目立っていた。尾根はやがてクマザサが広がる中にブナやミズナラなど高木の自然林が点在する物静かな風景に替わった。クマザサは密生していないため、結構歩き易かった。南西方向にはときおり東山が見えていた。その姿が登るほどに大きくなってきた。また北東には木々を通してだったがまだ雪の残る氷ノ山や間近に陣鉢山が見えていた。そぞろ歩きの気分で山頂へ。山頂も自然林の広がる落ち着きのある風景だった。その中にあって三角点周辺だけは草地となっていた。この日は朝こそ冷え込んでいたが、山頂に着いた頃には気温も16,7℃まで上がっており、空気は爽やかで絶好の天気になっていた。この山頂の雰囲気の良さに、暫し尾根を散策することにした。山頂はブナがあまり見られなかったが、それが東へ尾根を辿るとほとんどの木々がブナとなり、正にブナの純林帯と言った風景に変わった。何とも言えない良い雰囲気だった。あと数週間もすると見事な新緑が見られるのではと思えた。その美しい自然に包まれて山頂では2時間ほど過ごしてしまった。ただ自然林がよく繁っているためなかなか展望は得られなかった。その展望のことだが、下山は山頂から南西に延びる尾根を下ったところ、程なく南に向かって展望が開けて鳥取、兵庫の県境尾根が望まれた。但し幾分木々に視界をじゃまされた。そこで今少しよく見ようと手頃の木に登ってみると、下の写真の通り見事な展望を得ることが出来た。
(2003/4記)(2008/3改訂)(2022/5写真改訂) |