新見市の北部には1000mを超す山が幾つかあるが、その中にあって剣森山は大らかな山容を誇っており、麓から登山道もあってじっくり登るのに適した山と言えそうである。その剣森山を訪れたのは2004年10月23日のこと。この日は朝から快晴の空が広がり、また青く澄んで正に秋の登山日和と言える日だった。参考にしたのは分県登山ガイドの「岡山県の山」で、そこに紹介されたコースで登ることにした。バス停「則本」の近くの橋を渡り右手の小径を辿ると、馬場集落の東外れに近づいた。そこに剣森山の道標が見えたが、かなり古くなっており文字が読み辛くなっていた。道標は二つあってその指示で山道へと入って行けたが、枝道が多くあったので、道標が無いとすんなりとは山道に向かえなかったのではと思えた。山道は渓流そばを暫く続いた後、林道に合流した。その林道を横切って再び山道を辿るとシイタケのほだ木のそばを通るようになったが、道が少し分かり難くなってきた。かまわず真っ直ぐに登ると、再び林道に合流した。どうも先ほどの林道を素直に歩いていてもよかったようである。そこからは山道が見えないために林道を登って行くと、程なく道標に出会った。そして再び山道を辿ることになった。すぐに作業小屋跡に出会ったが、どうもガイドブックの記述と違うようで、林道が様子を変えてしまったと思えた。もうこれで後は道なりに登って行けばと、安心して進んで行った。但し足元が滑り易くなっており、慎重に登っった。やがて尾根方向に荒れた小径が分かれる所に出会ったが、そちらは別道だろうと、広やかな道をそのまま進んでしまった。これが間違いだったようで、次第に下り坂となり方向も山頂方向とは大きく違ってきた。ガイドブックが頼りにならないことが分かったので、地図で位置を確かめようとしたところ、その地図を車に忘れてきたことに気付いたが後の祭りである。仕方なく引き返そうと考えたが、ちょうどそのとき別の道が見え、それが山頂方向に向かっていたので、それを歩いて軌道修正をすることにした。その道は平坦なまま続いていたが、やがて行き止まりとなってしまった。もう目的の尾根まで近づいたと思えたので、後は急斜面の植林地を適当に登ることにした。そして狙い通り尾根道と合流出来た。もう道を外さないようにそれまで以上に慎重に山道を辿って行った。周囲は植林地が主だったが、雑木林の広がるところもあり、そこは明るくなっていた。但し、周囲の山並みが眺められるほどではなかった。ガイドブックでは大山も望まれると書かれていたが、どうやら木々が育ってしまったようで、どうも頼りにならないガイドブックだと思った。ところでこのところの度重なる台風襲来のためと思われるが、いたる所で大木が倒れていた。多くはヒノキの植林だったが、幹周り1メートル以上はあると思われる大木が何カ所も道を塞いでいた。また吹き飛ばされた葉が地表を覆って道を分かり難くしており、道もすんなりと尾根を辿るのではなく、くねくねと続いていたので、幾度か外れそうになった。その状態で登って行くと、標高にして900m辺りで林道の終点に出会い、そこを過ぎて漸く展望地に出た。そこはススキの原が広がる平坦地で、低木がぽつぽつと生えているだけである。山頂も目前に見えていた。秋晴れの展望を期待していただけに、ようやく荷を下ろして一休みとした。展望は西から北にかけてが良く、天銀山や花見山がそのすっきりとした姿を大きく見せてくれた。大山も見えるはずだと、その方向にじっと目を凝らすと、どうやらガスに包まれているようだった。小休止を終えて終えて山頂を目指した。そこからはススキの原を縦断するのだが、そのススキが進むほどに密集して道が分かり難くなって来た。またイバラも混じり出して、けっして簡単には歩いて行けなかった。半ばヤブコギ状態で突き抜けると、後は植林地の緩やかな坂となった。登り詰めた所がクマザサの広がる山頂だった。中心に三等三角点(点名・剣森)がぽつんとあるだけで、ひたすら静かな山頂だった。周囲は雑木が取り囲んでおり、木の間より山並みが覗けるものの、展望は決して良いとは言えなかった。そこで昼食はススキの原で採るべく、山頂をすぐに後にした。ススキの原で昼時を1時間ばかり過ごしたのだが、この好天にもかかわらず他に訪れる人は無く、広々とした山上で涼しい風に吹かれてひたすらのんびりと過ごすことが出来た。気が付くとガスに隠されていた大山が、うっすらとながらも姿を見せていた。
(2004/11記)(2012/9改訂)(2022/2写真改訂) |