氷ノ山三ノ丸から西へ延びる尾根は起伏の少ないまま緩やかに下っていくが、大段のピーク辺りはいっそうなだらかな地形になっている。大段とはピークを指すよりもその一帯の地形を指すものと思われるが、この大段に興味を持って訪れたのは、2003年5月の連休明け最初の土曜日のことだった。空は少しモヤがかっていたものの、まずは快晴と言える空だった。戸倉トンネルを越えて国道29号線を鳥取県に入ると、落折集落を過ぎた辺りで「くそぎの大滝」の標識を見た。そこより久曽木谷川沿いを舗装された林道が始っていた。新緑の風景を楽しむため林道を入口から歩こうと、その林道に入ってすぐにあった道沿いの空き地に駐車とした。歩き始めると林道は緩やかな上り坂で続いていた。ひっそりとした林道でそのまま山中へと進むものと思っていたところ、暫く歩いた頃に道沿いに点々と家屋が見え出した。家の造りからしてどうやら別荘地のようだった。ただ小さな別荘地で、家の数は10軒ほどだった。舗装路は別荘地のためのようで、最奥の家で舗装は終わっていた。そこは駐車スペースなのか数台の車が止められそうな広さになっていた。そしてそばに幻の滝(くそぎ滝)の案内図が立っていた。その先で林道は荒れ道となり、急坂登りが始まった。右手に久曽木谷川が見えていた。この土道の林道を歩いているとき、道ばたにウドが生えているのを時どき見かけた。その林道も15分ほどで終わると、その先は小径が久曽木谷川沿いに続いていた。所々に目印が付いていた。その小径も少し荒れており、滝へのルートとしてあまり歩かれていないように思えた。その小径の途中には丸太を渡した所があり、渡るのに少々危ない思いもした。小径は少しずつはっきりしなくなり、そのうちに沢の中を歩くようになった。水流の激しい所を何度か渡ることになった。この道のはっきりしない沢筋を歩いてほぼ滝に近づいたのではと思えて来たとき、突然はっきりとした小径に出会った。どうやら正しい道を外して歩いていたようだった。もう楽なものだった。程なく「くそぎの大滝」の前に出た。落差50メートルとのことだが、雄大さと言う風では無く、幅があって優雅な水の流れだった。滝の周囲を新緑が取り巻いており、美しい絵を眺めているような光景だった。やはり名瀑と言えそうだった。パートナーと二人して暫しの滝見物だった。その後は、いよいよこの日の目的の大段を目指す。ただ小径は先へと続いていなかった。そこで大段から南に長々と延びる尾根を目指して、滝そばの急斜面を登ることにした。手頃な木があって助かったが、木にしがみつくようにしてがむしゃらに登って行くことになった。標高差にして100メートルほど登ると、漸く支尾根に出て一息付けた。この小さな尾根が良かった。尾根は自然林で占められ、多くはブナだった。そのブナが新緑の盛りで見事な美しさだった。下草も無く木々は疎らで、まさに森林浴を満喫している思いだった。この支尾根を登って大段へと真っ直ぐに延びる尾根に合流した。こちらの尾根は植林が主体でそこにクマザサが生えており、少し歩き難くなった。ただ登るほどに自然林が混じり出した。巨木が多くあり、ブナはもちろんだったが、目を引いたのはカエデの大木で幹周りは2mを越えていた。山頂と言うか大段と呼ばれる一帯が近づくと尾根はいっそう緩やかになり、漫然と歩いていると大段の方角を見失いそうになった。それとクマザサに替わってネマガリダケが増えて来た。ときおりコンパスで方向を確かめながら大段のピークを目指した。ところで展望に関しては良いとは言えず、滝を離れて急斜面を登っているときも、その後の尾根歩きに移ってからも展望の開けることは無かった。それでもネマガリダケをかき分けながらピークが近づいたときに、少しだが東から東南方向がわずかに覗けることがあった。そこからは赤谷山から戸倉峠を越えて三ノ丸へと続く尾根が眺められた。もうそろそろ一番高い位置に着くのではと思え出したとき、ぽっかりとネマガリダケの切れた所に出た。そこは巨木と呼びたくなる大きな木が並んでおり、ブナはもちろんだったが天然杉の大木が目を見張らせた。太い幹から太い枝が出ている様は、実にどっしりとしておりたくましさが感じられた。その近辺が一番高い位置のように思われたので、辺りを探って三角点を見つけることにした。少し離れるとまたネマガリダケにとらわれ出した。暫く探ったが見つからない。そこで改めて地図を眺めると、その一帯の東端辺りに三角点があるようだった。但しそちらはネマガリダケのジャングルだった。三角点探しは後回しにして、先ほどのネマガリダケの無い空き地で昼食とした。周囲を大木に囲まれたエアーポケットのような所で、物静かな時間を過ごすことが出来た。食後はそこにパートナーを残して一人で三角点探しに向かった。どうもパートナーは三角点には興味が無いようである。方向を定めてネマガリダケのジャングルに突っ込んだ。そして少し空いたスペースに体を入れながら東方向へと向かって行った。所々で登り易そうな木を見たので、それに登って位置を確かめた。ついでに展望も楽しんだ。木に登ると一帯はまさにネマガリダケの海で、それを足下に見るだけに展望は一気に良くなった。北は陣鉢山が近くに見えており、その北には扇ノ山と青ヶ丸が並んでいる。北東には氷ノ山の山頂が覗いており、避難小屋が見えていた。そしてそこより南に向かって長い尾根が続いている。東に間近く見えるピークは1376mピークであろう。その1376mピークには疎らな林があってアクセントになっていた。それにしても1376mピークまですっかりネマガリダケに覆われていた。南の展望は広やかだった。赤谷山から三室山へと続く尾根やくらますが良く見えていた。とにかく木にしがみついての展望なので腕が疲れてしまった。ところで肝腎の三角点探しだがこれが難しかった。東に向かうほどネマガリダケが密生しており、数メートル進むだけでもかなり体力を必要とした。とにかく平坦部の東端まで進んだのだが見当たらなかった。更に色々と位置を変えたがだめだった。一度これはと思えるネマガリダケの切れた所に出たがそこにも無かった。一時間はもがいていたかと思えたが、結局、点でしか探せず、今回は諦めることにした。パートナーの所へ戻るのも大変だった。三角点探しに時間をかけすぎてしまい、気が付いたときは14時を回っていた。あわてて下山に向かった。下山は登って来た南向きの尾根をずっと下って行くことにした。本当に緩やかな尾根なので、なかなか高度を下げなかった。クマザサは疎らだったが、やはり歩く妨げにはなった。そうして標高にして950m辺りまで来たとき、西の斜面が若木の植林地になっていた。そのためはっきりとした展望が広がっており、南西方向にくらますが大きく見えていた。その展望地を過ぎると尾根がはっきりしなくなって来た。歩き易い所を選んで適当に下るうちに、尾根筋を離れていることが分かった。そこで尾根を追うことは止めて、林道を目指して急斜面を一気に下ることにした。一帯は植林地になっており、木に掴まりながら休まず下ると、無難に林道に下り着いた。そこは土道となった林道の中間点辺りだった。後は路傍に見えたウドを摘みながらのんびりと駐車地点へと戻って行った。
(2003/5記)(2016/9改訂)(2022/6写真改訂) |