TAJIHM の 兵庫の山めぐり <鳥取県の山 
 
沖ノ    おきのせん 1318.2m 智頭町(鳥取県)
 
1/2.5万地図 : 坂根
 
【2011年3月】 No.3 2011-26(TAJI&HM)
 
    沖ノ山の東尾根より  2011 / 3

 東山と沖ノ山は鳥取県の南東部にあって、氷ノ山を取り巻く山の中ではヤブ山として双璧をなしていたが、どちらも近年は登山道が出来てしまい、ヤブ山の魅力が減ってしまったことは少し寂しい気もするが、雪山としての魅力はまだまだ十分に保っている。どちらも登りたい気持ちは持っていたもののなかなかタイミングが合わず、2008年3月になってようやく東山を登る機会を得た。そして残ったのが沖ノ山だった。その沖ノ山を登るとなれば智頭町駒返からか西粟倉村大茅スキー場からとなるが、どちらにしても林道の状況次第で、どれだけ時間がかかるか予想しにくかった。ただコースとしては大茅スキー場からの方が東尾根に出てから長く展望を楽しめそうで、魅力を覚えた。その沖ノ山を今年こそ登ろうと決めたのは2011年に入ってのことだった。出来るだけ雪の安定した時期にと考えて、3月の声が聞こえるのを待った。そしてその3月の最初の土曜日が晴れを期待出来そうだと分かると、もう気持ちは沖ノ山に向かうことになった。ただ誤算だったのは、その前日と前々日に寒気が襲来して雪が降ったことだった。どれくらい降ったのかは播州南部に住むこちらとしては良く分からず、大雪とは聞かなかったので、多くは積もっていないはずだと考えることにした。早い時間に登り出したく、5日の朝は自宅を7時前に離れた。中国道を山崎ICから入り、作用JCTで鳥取道に入った。よく晴れていた空も大原の町に入った頃には、雲の多い空になっていた。心配した雪は大原では屋根に僅かに積もっているのを見る程度だった。これは大したことは無いと安心していると、国道373号線を坂根で大茅スキー場へ通じる車道に入ったとき、一気に増えてきた。途中からは車道にも雪が見られ、それが10センチほどになったとき、大茅スキー場に着いた。除雪されていないことをいぶかしく思っていたのだが、大茅スキー場が閉じられているのを見て納得した。そして車道を走れたのはそこまでで、その先の林道は全く除雪されておらず、押しやられた雪で1メートルほどの壁が作られていた。その壁の前に車を止める。どうやら林道を最初からスノーシューで歩いて行かなければならないようだった。これは時間がかかると見ておいた方が良さそうだった。スタートは8時40分を過ぎた時間。山頂まで4時間かかったとしても、無理のない登山は出来そうに思えた。ところがいざ歩き出すと、新雪とあって雪は軟らかく、一歩一歩が潜ることになった。しかも歩くほどに新雪が増えてきて、始めは15センチ程度潜るだけだったのが、途中からは20センチ以上、ときに30センチは潜るようになった。林道歩きの段階で手こずるとは想定外だった。一度パートナーを先に歩かせたが、10メートルと歩かずに止まってしまった。やはり新雪のラッセルは歩きにくいようだった。ただ天気は徐々に回復しているようで、上空の青空の部分は次第に広くなっていた。どうやら天気は恵まれるように思えた。吉野川が左手から右手となり、また左手に移ったとき、車道が分岐した。真っ直ぐ進めば若杉峠で、右手に入れば峰越峠だった。ここまでで80分ほどかかっていた。その間ずっとラッセルだった。若杉峠の方向へと真っ直ぐ進んだものの、遅々として進まない林道歩きに次第に飽いてきた。更に30分ほど歩いて右手に支林道が分かれたとき、地図を取り出した。適当に登って行ける所はないかと探すためだった。当初の予定は鳥取岡山の県境尾根近くにある1140mピークを南東側から登ろうと考えていたのだが、他にも小さな尾根があり、今立つ位置の近くからも登れそうだった。そこで林道を離れてその小さな尾根を登って行くことにした。林道歩きは結局1時間と50分していたことになる。いざ山肌に取り付いてみたものの、雪の軟らかいことに変わりなく、一歩一歩が30センチほど潜ることもある状態が続いた。尾根は植林地になっており、緩やかに続くかと思っていると、ときおり傾斜がきつくなった。特に方向を注意せず、尾根なりに登って行く。尾根は目印テープを見ることはあったものの、数としては少なく、あまりあてに出来なかった。周囲の木立が自然林に変わってくると、ブナの木も見られるようになった。風景としては穏やかで悪くなかったが、歩度は全然上がらなかった。ようやく1140mピークが近づいたかと思うと、その先に一段高いピークがあり、そちらのようだった。数メートル下ってまた登り坂となるが、その辺りは傾斜がきつく、しかも新雪の下は古い雪が凍っている所があり、1メートル登って1メートル滑るときがあって、少々難儀させられた。ようやく1140mピークに着いたものの、鳥取岡山の県境尾根までは30メートルほど下って70メートルほど登り返さなければならない。ここまでで既に3時間が経過していた。上空に青空が広がっているのは良かったが、一度下るのは気の重いことだった。登り返しの斜面も傾斜がきつく、軟らかい雪を踏み固めながら登った。その急坂を登り終えて東尾根に出たときは、ほっとする思いだった。ここまで来れば沖ノ山が見えるはずだと西の方向を見ると、沖ノ山が木立の間から小さく覗いていた。その遠く見えたことには、愕然とする思いだった。どうみても2時間はかかるのではと思えたので、地図を改めて眺めると、ざっと4kmほどありそうだった。時間は既に12時を大きく回っており、どうみても明るいうちには帰れないのではと思えてきた。一瞬、登山はここまでにしようかとの考えがよぎったが、足は多少疲れを覚える程度で、山頂までは時間こそかかっても、さほど厳しいとは思えなかった。そこで初心貫徹で歩き続けることにした。ここまで来て、ようやくスタート地点に着いた思いだった。山頂手前までは小さなアップダウンがあるだけで、緩やかな尾根として続いた。植林の所もあれば、真っ白に雪原として広がっている所も見られた。ときおり現れる沖ノ山は一度ガス雲がかかったが、すぐに消えてきたので、確実に天気は良くなっているようだった。そのガス雲は東の空にはまだ多く残っており、今立っている所も少し前までは雲に包まれていたのではと思われた。その証拠に、まだ霧氷を残している木立が多く見られた。その霧氷がぱらぱらと落ちる音が、絶え間なく聞こえていた。相変わらずラッセル状態が続くが、尾根が緩いとあって厳しい感じは無くなっていた。下り坂では周囲の風景を楽しみながら歩いていたが、次第にパートナーが遅れ気味になってきた。ずっとこちらがトレースを追うだけなので足の負担は軽いはずだったが、既に4時間以上歩いており、疲れが出だしたようだった。1193mピークを越えて再び沖ノ山が見えてきたとき、まだ距離のあるのを見てパートナーがとうとう山頂は諦めると言い出した。下山の体力を残しておきたいと言う。そこは雪原となって燦々と陽射しが注いでおり、その陽射しの中で休んでいたいと言うので、こちら一人で山頂を目指すことにした。少し歩くと、銅像が現れた。この山の持ち主である千崎善一氏の像で、3年ぶりの対面だった。そこからは山頂まで150mほどの標高差を登ることになる。程なく傾斜が増してきて、ちょっと踏ん張って登ることになった。尾根が一度緩んだとき、樹林帯に入ったが、そこが霧氷の木立が一番多かった。青空の下で見る霧氷はやはり美しく、少しは疲れを癒される思いだった。周囲の展望も良くなって、背後には三室山がすっきり見えている。右手となる北の方向には東山、氷ノ山もけっこう大きく見えていた。その先は最後の一踏ん張りと、休まず登って行くが、この斜面でも雪の深い所があって、なかなか歩度が上がらなかった。もう山頂かと思っていると、まだ先が高くなっており、それを二度ほど繰り返して、最後、樹林の中に狭く開けた山頂に着いた。歩き始めてから5時間半、パートナーと別れてから50分が経っていた。ただただほっとする思いで、展望の無い山頂を眺めるだけだった。その山頂だが、この日の雪の深さに、他に登山者は来ていないのではと思っていたのだが、南側からスキーのトレースが付いていた。既に下山をしており人影は無かったが、駒返側から登ってきたと思われた。そのトレースは山頂に立っただけで引き返したようで、山頂を歩き回った跡は無かった。やはり相当厳しかったのではと思えた。山頂は周囲を木立に囲まれて展望とは縁が無かったので、こちらもすぐに下山を始めることにした。この時間ではどうみても林道上で暗くなりそうだと思いながら下山を始めたが、思っていた以上に楽な下山だった。自分のトレースを追うだけで、しかも雪の下り坂だけに、足への負担はラッセルの登りと比べると、数分の一ではと思われた。気分が楽になると気持ちに余裕が出来るもので、登りでは先を急ぐ気持ちもあって十分に楽しんでいなかった展望を、この下山では思いっきり楽しんだ。東山から氷ノ山、三室山、後山とパノラマとなって眺められる所があり、それに足を止めたりしていたので、けっこうゆっくりと戻ることになった。暗くなっても林道に下りておりさえすれば、問題なしと考えてのことだった。パートナーの所に戻ってくると、雪面にビニールシートを敷いて休んでいた。合流したことで、二人して尾根歩きの続きを始める。昼の間に霧氷の多くは落ちており、ただの裸木の姿となった木立が多かった。登り坂になるとさすがに足に疲れを覚えたが、トレースの付いた所を登るので、ラッセル時と比べるとずいぶん楽だった。最後の登りは1140mピークへの登りで、そのピークに立ったのは16時ジャスト。ここまで考えていたよりもずいぶん早く着いており、このまま順調なら何とか明るさの残るうちに戻れそうだった。そう思えると急に空腹を覚えた。そして朝から何も食べていないことに気が付いた。かなり遅くなったが、ここで手早く昼食とした。そこから林道までも早く、登りでかかった時間の三分の一で林道に下り着いた。後は長い林道を歩くのみ。辺りを照らす光は幾分赤みを帯びていたが、太陽はまだ山ぎわまで降りていなかった。その太陽が歩くうちに山際へと近づき、そして沈んで行った。もう辺りの風景はすっかり赤みを帯びて、夕焼け色になっていた。その薄暗さが出てきた中を、大茅スキー場そばの駐車地点に戻り着いた。何とも長い一日だった。すっかり体はくたびれていたが、その疲れを取るには温泉が一番。近くにはあわくら温泉黄金泉があったので、さっそく向かった。浴槽に浸かって体の隅々まで暖かさが広がるのを感じたとき、雪山登山を終えた後では格別の快さではと思えた。
(2011/3記)(2018/8写真改訂)
<登山日> 2011年3月5日 8:41スタート/9:11一の橋/9:58峰越峠の車道と分かれる/10:25右手に支林道が分岐する/10:30林道を離れて左の斜面に取り付く/11:44[1140m]ピーク/12:20東尾根に出る/12:50[1196m]ピーク/13:32銅像の位置/14:12山頂/14:42銅像の位置/15:45東尾根を離れる/16:00〜12「1140m]ピーク/16:37林道に下り着く/16:55峰越峠からの車道と合流する/17:24一の橋/17:44エンド。
(天気) 前日と前々日に降った雪で、林道は新雪にすっかり覆われていた。朝のうちは上空に雲が広がっていたが、林道を歩くうちに青空が広がってきた。尾根に出ると、沖ノ山の空はまだ雲が残っていたが、近づくほどに雲は消えて快晴となる。気温は5℃で終始していた。風はほんの僅かで、陽射しの中では気にならなかった。山上の雪は、古い雪の上に新雪が更に積もって、十分な量としか言えなかった。視界は良く澄んでいた。
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大茅スキー場に着くと、リフトはいていなかった 今
期の営業は終わったのかも知れない
植林に囲まれた林道はすっかり白かった 新雪だけで
も30センチ以上積もっていた
歩くうちに上空の雲は少なくなってきた
   
     
陽射しが周囲の山肌を明るく照らすようになった 道そばを流れていたのは吉野川だった 路傍に佇む石仏を見かけた
一歩一歩が大きく潜った パートナーに前を譲るとす
ぐに疲れてしまって、後ろを歩くことになった
林道から峰越峠に向かう道が分かれた ここまで1時
間20分かかっていた
更に林道を30分歩いたが、林道歩きに飽きてしまい
近くの尾根に取り付くことにした
1140mピークを目指して植林の山肌に取り付いた 尾根を歩き出したとき、右下に林道が見えていた 尾根も新雪が多くあり相変わらずラッセルが続いた

尾根はときおり
きつい坂になっ


登るうちに自然林
が広がってきた
1140mピークが近づいて急坂となった 1140mピークに着いて、北の県境尾根を見る 県境尾根へと急斜面を登る 青空が広がり出した
登るうちに背後に展望が広がってきた 三室山の山頂にはガス雲がかかっていた 尾根に着いてパートナーが登って来るのを待つ
県境尾根にはまだ霧氷が残っていた 漸く見えた沖ノ山は、はるか先だった 左の写真の沖ノ山を大きく見る
気持ちを奮い立たせて、県境尾根歩きを始めた 尾根には踏み跡一つ無く、緩やかな雪面が続いていた 足はくたびれていたが、県境尾根を楽しく歩いた

県境尾根では小さな
ピークを幾つか越え
て行く

パートナーがこちら
が付けたトレースを
黙々と追ってくる
霧氷を付けたブナを見上げる また小さなピークを越える 強い陽射しに霧氷が絶え間なく落ちてきた

(←)
再び沖ノ山が見
えると、その頂
にはガスがかか
っていた

 (→)
 1196mピークを
 越えて沖ノ山を
 すっきりと見る
 
緩やかな下りは雪が深くとも楽しく下れた ただパー
トナーが少しずつ遅れだした
ブナ帯を抜けた辺りでパートナーが来るのを待つ
    
まだまだ離れて見える沖ノ山を見て、パートナーはこ
こで休んでいると言い出した

(←)
パートナーと別
れた先で広々と
した雪原が現れ


 (→)
  銅像のそばを通
  る
緩やかな登りが始まった 澄んだ青空が広がっていた ブナの霧氷はやはり美しい
登るほどに展望が現れた 北の方向を見る 山頂はまだ少し先だった 笹ヤブ帯なのか樹木が減って雪面が広がった
だいぶ山頂が近くに見えるようになった 雪をまとった木立の中を通る ようやく山頂かと思ったが、まだ先があった

最後のがんばりと
ばかりに坂を登っ


もうここより高い
所は無いので、こ
こが山頂のようだ
った

雪面が狭い範囲な
がら広がっていた
ひたすら青い空を見てほっとするだけだった 山頂には南からスキーで来たトレースがあった すぐに下山とする 歩いてきたトレースを追って下る
雪の下りは楽なので、展望を楽しむ余裕があった 下る途中で北から南東まで一望出来る所が現れた
東山を大きく見る くらますを大きく見る 三室山を大きく見る

(←)
氷ノ山を大きく
見る

 (→)
  植松山を大きく
  見る
ただ自分のトレースを辿るのみ ときおりガス雲が上空を通過した 右手に林道が間近を通っているのが見えた
霧氷の残る小さなピークを越す ブナ帯を下る 銅像が建つ位置まで戻ってきた

(←)
パートナーは雪の
上で休んでいた

 (→)
  西の空は少し赤み
  を帯びだしていた
  南西に那岐山を見
  る

(←)
南東に後山の尾根
を見る

 (→)
  左の写真の黒尾山
  を大きく見る
上の写真の駒ノ尾山を大きく見る 1196mピークの辺りから沖ノ山を振り返る 往路で見たときよりも視界は良くなっているようだった
前方に三室山を望む 風は僅かで、穏やかな風景の中を歩く 木の影が雪面に広がっている
県境尾根を離れるとき沖ノ山を振り返ると、薄雲が広
がろうとしていた
雪の斜面を見ながら1140mピークとの鞍部へと下
った
木から落ちてきた雪で、雪面がクレーターのように見
えていた
1140mピークへと戻って行く 1140mピークに着いて一休み 南東に展望を得た 植松山を大きく見る 手前は兵庫岡山県境尾根だった
1140mピークからは尾根を一気に下った 林道に着くと、陽射しは赤みを帯びていた また長い林道歩きが始まった
南に見える空が夕焼け色に変わってきた 夕陽が山際に沈んで行く 薄暗くなりかけた中、スキー場に戻ってきた