2009年1月の沖縄山行の二日目は、沖縄本島北部に広がるヤンバルの森を目指した。参考にしたガイドブックは新・分県登山ガイドの「沖縄県の山」で、ヤンバルの森の南部の山として、玉辻山、塩屋富士などが紹介されていた。そこでまず午前は東海岸に近い山として、玉辻山を登った。そして午後に向かったのが西海岸に近い山として、塩屋富士からクガニ岳と続く尾根だった。福上湖に近い玉辻山の登山口を離れたのは、12時前だった。国道331号線を走り、塩屋で国道58号線に入って北上する。ガイドブックでは創造の森に登山口があるとなっており、それを目指して道の駅「おおぎみ」の手前から林道のような道に入ると、車道は急坂で続いた。すんなりと上原公民館が現れたので、創造の森への道に入って行けるものと思っていると、なぜかやたらと枝道があり、どれが正しい道なのか迷ってしまった。おまけに標識も見えなかった。この道ではと思って進むとどうも違うようであり、そこで引き返して別の枝道に入ったりしたが、それも違うようで、うろうろするうちにクガニ岳の登山口標識が現れた。ガイドブックに無いコースだが、それで尾根出られるものならと歩き出すと、なぜか道は不確かになってしまった。結局、車に戻って再びうろつくことになった。けっこううろうろしたようでも、時間にすれば20分ほど経った頃だろうか、どう走ったか分からぬままに展望台の前に出た。そばには登山コースの案内板が立っており、近くには駐車場も見えていた。ガイドブックと照らし合わせて、どうやらクガニ岳とネクマチヂ岳の間を通る林道上に立っているようだった。最初の考えではガイドブック通りに創造の森の登山口から歩き始めて、始めに塩屋富士を登り、その後はクガニ岳へと歩いて更にネクマチヂ岳まで行き、そこから引き返す考えだったが、予定を変更してここからスタートすることにした。コースとしてはまずクガニ岳に立ち、そのまま尾根を進んで塩屋富士に向かう。塩屋富士からはコースを引き返してきて、今立つ位置に戻ってくる。それから改めてネクマチヂ岳をピストンするという考えだった。
この日は雲が空を覆っており、強い西風が吹いていた。瞬間的には台風並の風になることもあった。ただ雲は薄いようで、風に引きちぎられて青空の覗くこともあった。車は駐車場に止めて、展望台のそばから始まる登山道を登り出した。その登山道は丸太の階段道として整備されており、すっかり遊歩道の雰囲気だった。風の強さと10℃しかない低い気温を我慢すれば、まずは簡単なハイキングだった。周囲の木立はすぐに鬱蒼とした雰囲気になった。ここもやはりヤンバルの森の一角と呼べそうだった。小さなピークを越して鞍部に下り、登り返すと坊主森とクガニ岳の分岐点に出た。坊主森はごく近い位置にあるピークのようだったが、帰路に立ち寄ることにして、まずは尾根を西へと、クガニ岳を目指して行く。尾根の道も変わらず遊歩道状の歩き易い道で、小さなアップダウンを繰り返していた。周囲は樹林が取り囲むとあってすっかり森の中を歩いている雰囲気で、風はあまり受けなかった。少し登り坂があって「ぶながや広場」との分岐点を過ぎると、クガニ岳への登りとなった。そこでまた強く風を受けるようになった。そして尾根はちょっとした岩場に変わってきた。岩は花崗岩質で鋭く角が立っており、また穴が多く開いて独特の質感を持っていた。滑り易さとは正反対で、靴底が岩にひっかかり過ぎる感じがあり、うっかりするとつまづきそうになった。クガニ岳の山頂が間近になったとき、足下をおろそかにしたためか、一度つまずいてしまった。幸い杭につかまって膝を打っただけだったが、転び方によっては、軽い怪我では済みそうに無かった。クガニ岳山頂に着くと、そこは好展望地で、西には広々と東シナ海の風景が広がっていた。それにしても風が強く、立っているのがやっとの感じで、落ち着いて風景を楽しむ訳にはいかなかった。長居は諦めて先に進む。鞍部へと下り、そして緩やかな登り坂となったが、なぜか塩屋富士の名が現れなかった。クガニ岳に着くまでは、クガニ岳の名の書かれた標識を何度も見ていたのだが、そのクガニ岳を過ぎた先で見る標識は、塩屋富士の先にある六田原(むたばる)の名のみだった。塩屋富士の名が無いことは気になったが、方向は間違っていないはずなので、尾根歩きを続けて行く。その尾根にときおり小さな実が落ちているのが見られるようになった。所によっては何個もまとまって落ちていた。ミカンの姿の黄色い小粒の実で、どうやらそれがシークワァサーかと思えた。見上げると、その黄色い実をつけた木があちらこちらに見えていた。またその辺りでは登山道と平行して石垣が続いていた。自然石を積み上げたもので、この山中によく作ったものだと、ちょっと感心させられた。尾根の途中には展望地も見られたが、まずは塩屋富士に立とうと、尾根歩きを続けた。登山道には「ハブに注意」の標識をよく見たが、これだけ寒いと出てこないのではと思えて、ハブのことは気にならなかった。道は緩やかながら、空が暗い上に木立に囲まれているため、薄暗い中を歩いて行く。もうそろそろ着いてもよいのではと思えだした頃、休憩広場と名が付いたごく小さな広場が現れた。そのそばが一段高くなっており、そこへの小径が見えていた。ちょっと立ち寄る感じで小径を登ると、ほんの僅かな距離で三角点の前に着いた。そばに小さな標識があり、塩屋富士の名があった。そこも周囲を雑木が囲んでおり、木漏れ日が当たるだけで、何とも控え目な雰囲気だった。何かただ三角点を見るだけが目的のような感じがして、すぐに引き返して広場で休憩とした。少し小腹を満たした後、引き返す。クガニ岳へと戻るのだが、この帰路では途中の展望地に立ち寄った。鞍部の近くにあるその展望地からは東シナ海の風景が眺められたが、この尾根の最高の展望地はどうやらクガニ岳山頂と思われたので、すぐに離れて山頂に向かった。この帰路でのクガニ岳山頂は、ちょうど陽射しが現れており、岩肌が明るく照らされていた。そして海側だけでなく、東へと続く山並みの展望も楽しんだ。この尾根コースは道としては易しいため、岩の多いクガニ岳を過ぎると、後はすたすたと歩いて、最後に尾根を離れるとき、ついでと言った感じで坊主森にも立ち寄った。分岐点からは1分とかからない距離だった。ちょっと変わった名だが、そこも尾根の一ピークで、展望は悪くなかった。北から東へと広い展望だった。ただそこでも強風を受けることになった。またこのとき空は黒味を増して、細かい雨が降ってきた。どうなることかと思っていると、すぐに止んで、今度は雲間から陽が射してきた。移り気な空のようだった。その陽射しの現れた中で、東の方向に姿の良い山が見えていた。距離からしてどうやらネクマチヂ岳のようで、この尾根を離れた後は、予定通りネクマチヂ岳を目指そうと考えた。分岐点に戻り、まずは駐車地点へと下って行く。ここまで塩屋富士へのピストンハイキングは2時間少々で終わったが、中身は濃く、けっこう楽しめたと思えた。駐車場に戻って来ると、そのそばから林道が始まっており、てっきりそれがネクマチヂ岳への道と思えて、ハイキングを続ける形で歩き出した。ところが林道は平坦なままネクマチヂ岳の方向からは離れ出したので、どうも単なる林道だと分かった。そこで展望台の位置まで戻ってきて、案内図を改めて眺めた。やはり今歩いた林道は正しくないことが分かったが、ごく近くから始まっているはずの登山道が見えなかった。車道沿いを東へ西へと歩いたが、標識は見えず、何としても登山道は見つからなかった。もう時計は15時を回っていることでもあり、探すのは諦めることにした。そしてこの日の午後は、クガニ岳から塩屋富士のハイキングをしたことで終えることにした。強風を受けてのハイキングになってしまったが、山中の佇まいは南の島ならではの風景で、見慣れない植物が珍しく、また美しい海岸線も眺められて、登って良かったの思いで車をスタートさせた。
(2010/11記)(2020/9改訂) |