2005年10月11日は熊本県北東部の山あいにある杖立温泉の旅館で目ざめた。外を見るとすっかり曇り空で、山の稜線部にはガスもかかっていた。この日は九重山系の一つをと考えていたのだが、天気予報を見て、晴れているのは九州北部のみと知った。そこでこの日の目的地を福岡県とし、地図を見て考えついたのが北九州国定公園の平尾台だった。平尾台はカルスト台地として有名だが、その最高点が貫山だった。その貫山までは、登山口がある吹上峠からなら片道1時間程度なので、ハイキングとして手頃ではと思えた。
旅館を出たのは9時過ぎ。ひたすら国道212号線を走って周防灘に近づき、そして国道10号に合流して休まず北上するも、行橋市に入ったときは11時を過ぎていた。行橋市の市街地を通過すると平尾台の山並みが見えてきたが、特徴の有る形には見えなかった。それが車道を上がって山上へと出ると、緩やかに丘の連なる風景が現れた。「のどか」と言う表現がぴったりの緑の丘は、早くハイキングをするようにと誘っているようで一度に魅了されてしまった。その平尾台の登山口の一つとなる吹上峠へと急いだ。吹上峠は平尾台の北端に近い位置だったが、そばには広々とした駐車場が設けられていた。着いたときは12時を回っていたので、急いで仕度をして歩き始めた。まずは大平山(おへらやま、標高587m)への登りだった。遊歩道とは別に最短距離でエスケープ道が付いていたが、そちらの方が登り易く見えたため、そのやや急坂を登ることにした。辺りはほとんど草地で、木と言えばわずかに灌木が見られるだけで、高い木は全く見られなかった。おかげで歩き始めから展望の広がるコースだった。振り返ると足下には平尾台自然の郷などの施設が見え、遠くは福智山の山並みが大きく見えていた。始めはその風景に目を奪われたが、やがて前方に現れてきたのがカルスト台地の風景だった。カルストとは石灰岩とのことで、白い石灰岩が緑の草地に現れている様は「羊群原」と呼ばれる名のままに、白い羊が群れをなして草原に佇んでいるように見えた。そして南東方向には周防台が優美な姿を見せており、本当に牧歌的な風景で、イングランドの丘を思い出してしまった。行く手にも石灰岩が現れてその中を道が続き、大平山もカルスト地形そのものだった。その大平山山頂では石灰岩に腰掛けて、周りの風景を見ながら遅い昼食とした。そこまで来て、ようやく最高点の貫山を目に出来たが、貫山もなだらかな和みある山容で、のどかな風景の一つになっていた。手早く昼食を済ませて、ハイキングを続ける。まずは四方台へと向かう。その四方台までは大平山のへの登りと同じく、のんびり歩けるものと思っていたが、間の谷がやや深く、少々きつめの下りと上りだった。その四方台への登り返しでは風が無く、けっこう汗だくになってしまった。20分ほどで着いた四方台は標高618mの地点で、名のごとく四方に開けていた。その360度の展望の中で、東に現れた周防灘を見て、ここが海に近い山であることが実感出来た。また道も四方に延びており、北に向かえば貫山で、南は中峠へと下る道。そして東は水晶山へと続く。一息入れて貫山に向かった。その辺りはカルスト地形になっておらず、草原にネザサが混じる風景で、左手の谷は森になっていた。貫山へは一直線に山頂まで道が続いている。きつくも無い坂とあって、秋風に吹かれながら軽い汗をかきつつ一気に登った。その頂上部は草原にぽつんぽつんと岩が現れているだけで、そこも好展望地だった。そして一段と広く周防灘が眺められた。そちらはモヤの強い視界だったが、大きな埋め立て地が作られていた。形からしてどうやら新北九州空港と思われた。のどかな山頂で一休みの後は、今少し平尾台ハイキングを続けようと、まず四方台へと戻り、そしてそのまま南へと山上の道を辿った。再び羊群原の風景が広がり、やがて中峠が近づいてきた。その中峠から吹上峠へと戻ることを考えていたのだが、その道が完全に車道になっていることが分かった。それでは味気ないと思えて、そこで少し疲れるが中峠手前より大平山へと向かう道を辿ることにした。さすがにその時間になると好天に空気は十分に暖められており、けっこう暑さを感じての大平山への登りとなった。但し、のんびりと歩ける雰囲気は続いていた。大平山からは往路で歩いた道を辿って、吹上峠へと戻って行った。それにしてもこの日は平日のためだろうが、好天にもかかわらず山上は本当に静かだった。出会った人は数人程度で、心ゆくまで静かなハイキングを楽しむことが出来た。
(2005/10記)(2014/12改訂)(2022/10写真改訂) |