2017年10月に香港山行を計画したとき、参考にすべくガイドブックの「香港アルプス」を入手したのだが、どうもトレイルコースの紹介が主体になっており、一つの山を登ることを目的としての紹介はされていなかった。そこでネットの情報を参考にして登りたい山を絞り込んだ。そして九龍半島の山として決めたのが馬鞍山だった。馬鞍山は九龍半島の東部に位置しており、「香港一美しい山」として紹介している本もあった。そのアプローチもネットの情報を参考にして、MTRとバスを乗り継いで水浪窩からのコースで登ることにした。
馬鞍山に向かったのは山行三日目の10月20日金曜日だった。晴れときどき曇りの予想だったが、朝の九龍地区の空は前日と同様に曇り空だった。MTRを佐敦駅で乗って北へと向かった。太子駅で観塘線に乗り換えて九龍塘駅へ。そこでも東鐵線に乗り換えて大圍駅へ。大圍でも馬鞍山線に乗り換えると終点の烏渓沙駅で降車とした。その頃には少し雲が多いものの晴れと呼べる空に変わっていた。改札を出て北側へと歩くと駅舎に続く形でバスターミルが現れた。目的とする99系統の乗り場はすぐに分かった。見ると20分間隔程度で運行されているようだった。99系統は西貢行きで、案内標識を見ると途中のバス停が総て書かれており、降車予定の水浪窩バス停は10番目だった。その手前のバス停を五つほどメモってバスを待つと、10分ほどで99系統バスが現れて乗車とした。海岸線を走るバスで、車内には次の目的地が表示されるので、心配の必要は無かった。そしてすんなりと10番目のバス停となる水浪窩で降車とした。他にも4人が降りたが、みなハイキング姿だった。バス停を後にして左手に海を見ながら南へと歩くと、8分ほどで「水浪窩」と書かれたアーチが現れた。但しそれは馬鞍山に通じるマクリホース・トレイルを示すものでは無く、そこを過ぎた先で登山口となるマクリホース・トレイルの入口が現れた。先を歩くハイカーが右手となる馬鞍山方向への登山道に入ると、こちらも続いて同じ道に入った。遊歩道状の道でバーベキュー場につうじるようだったが、それもマクリホース・トレイルとあった。道なりに10分ほど歩くと、舗装路に合流することになった。企嶺下林道とあったが、それもマクリホース・トレイルの一部のようだった。ほぼ平坦な車道を西へと歩いて行く。途中で工事現場が現れたりして15分ほど歩くと、前方に高い山が眺められるようになった。そのどれかが馬鞍山と思われたが、まだまだ距離があった。程なく左手に土道が分かれた。企嶺下林道からマクリホース・トレイルが別になったようだった。当然マクリホース・トレイルへと入った。赤土の道で所々滑り易くなっており、慎重に歩いた。歩くうちに次第に上り坂となり、道の様子や周囲の木々を見ていると日本の里山を登っている雰囲気があった。その足下は石がけっこう多くあって歩き易いとは言えなかった。登るうちに正面に荒々しい岩肌の山を見るようになった。それが馬鞍山と思われた。その頃には空は快晴となっており、けっこうな暑さの中での登りになっていた。上り坂は長々と続くため、何度か休憩をとりながら登った。もう夏の登山と言ってよく、大汗になってしまった。ようやく上り坂が終わって尾根に出ると、右手に馬鞍山が見上げるようにして眺められた。左手は優しげな草原風景だった。マクリホース・トレイルは草原方向へと続くなだらかな尾根道の方で、馬鞍山への道はマクリホース・トレイルとは別コースだった。見える範囲に何人かのハイカーがいたが、総てマクリホース・トレイルを歩いていた。こちらは馬鞍山へと右手方向の急坂道に入った。トレイルコースを離れたことで、一気にマイナーコースの雰囲気となった。ススキなどの雑草が道に被さっていたり、道そのものもあまり歩かれていないようだった。尾根に出たときに樹林帯を抜け出しており、強い陽射しの中を登ることになった。しかも急坂とあって厳しい登りだった。気温は30℃を下回っているものの、直射光を受けるとあって30℃を十分に越しているように思われた。その暑さの中を休まず登った。登るほどに周囲に風景がパノラマとなって広がってきたが、早く山頂に着きたい一心で前方を見つめて喘ぎ喘ぎ登った。山頂に着いたのは尾根に出てから23分後で、もう熱中症にかかったのではと思えるほど疲れていた。山頂は狭かったが、そこには三角点と思える大きな円柱が立っているだけだったので、まさに360度の展望が広がっていた。その展望をすぐに楽しみたかったが、どうにも疲れていた。そこで山頂で唯一の日陰と言える円柱の陰に入って、まずは息を整えることに没頭した。暑い山頂だったが、涼しい風がときおり吹いてきて、そのときは快いばかりだった。その風のおかげで次第に元気が戻ってきた。そして漸く展望を楽しむ気持ちになってきた。南は西貢海、北は牛押山で、その背後は船湾海だった。そして東は九龍や新界の山並みが広がっていた。山頂で30分ほど休んでいただろうか、三人のグループが登ってきた。その言葉からして東南アジア系の学生だった。暫く一緒にいた後、こちらは北に見える牛押山へと向かった。牛押山経由で馬鞍山駅まで歩く予定だった。牛押山は馬鞍山より30mほど低いとあって、長い下りの後の登り返しは短かった。但し登山道はいっそうマイナーなものとなり、覆い被さる雑草を払いながら歩くことになった。日本のヤブ山を登っているのと変わらなかった。その登り返しでは直射光を受けることになり、牛押山もバテ気味になっての到着となった。そして再び息が整うまで木陰でじっとしていた。その牛押山からは馬鞍山が端正な姿で眺められた。またそこに着いて吐露港の風景を見ることになった。その北西方向の空は曇り空に変わろうとしていた。牛押山の山頂で25分ほど休むと、少し引き返して西尾根コースに入った。その登山道は雑草に隠されるようなことは無く無難に歩けた。但し急坂が多くあり慎重さを要した。その登山道はお薦めではないようで、転落の危険があることを示す標識を何度か見た。そしてロープ場も現れてロープを伝うこともあった。始めは樹林に囲まれての下りだったが、下るうちに周囲が開けて馬鞍山が眺められるようになった。また北の方向も広く眺められて、何度か長休憩をとった。長休憩は展望だけが理由ではなく、急坂下りが長く続くため足を休める必要もあってのことだった。山道の下りが終わったのは展望台が現れた位置で、その先は遊歩道となり少しは歩くのが楽になった。その遊歩道を下りきった所は馬鞍山バーベキューサイトで、そこより車道を歩くことになった。車道は馬鞍山村路の名が付いた舗装路で、緩やかな下りがまた延々と続いた。そのうちに歩道が現れて歩道歩きに移った。市街地が近づくとマンションを見るようになり、そのマンションが見上げるようになってきた。前後に人を見るようにもなった。どのように市街地に入って行くのかと思っていると、いきなりMTRの標識が現れた。それに従って階段にはいると、以後は点々とMTRの標識を見た。その標識に従うと車道を渡り市街地へと入った。そしてすんなりと馬鞍山駅に到着となった。その上空はすっかり曇り空だった。水浪窩バス停をスタートしてから6時間が経っていた。途中に長い休憩を何度としていたが、それでも予想以上に長いハイキングになっており、すっかりくたくた状態となって電車に乗り込んだ。馬鞍山に登ったとの充実感を十分に持ってだった。
(2018/4記)(2020/4改訂) |