2014年9月の釜山山行は、初日の19日に金井山を登ると、20日は釜山市街を一望出来る山として蓬莱山を登った。釜山山行としてはその二山を登るのが目的だったので、二山を終えた後の予定ははっきりと決めていなかった。蓬莱山は小さな山なので、午前でハイキング終了とし、午後は天気が良くなければどこかに観光でも行くかとぐらいの考えだった。ところが20日は、あまりにも快晴だった。これでは是非とも、もう一つ山を登りたくなった。そこで足が疲れていないときのサブプランを実行することにした。それは乗鶴山のハイキングだったが、ネット情報で地下鉄の堂里駅から歩ける範囲にあるとの知識しかなかった。山の姿もコースタイムも知らなかった。但し釜山に着いた日に、釜山市内の地図を買い求めていたので、どの位置にあるかは掴んでいた。蓬莱山からチャガルチ市場に戻ってくると、そのままチャガルチ駅へと向かった。堂里駅は同じ地下鉄1号線だったので、乗り換え無しで行けるのは有り難かった。堂里駅に着いたのは12時半前。駅構内には乗鶴山への案内板があり、それを見ると堂里駅だけでなく、幾つかの駅からアプローチ出来るようだった。堂里駅からのコースを見ると、駅前の近くから北の方向に通じる大通りをずっと歩けば良いようだった。山頂までの距離は4.8kmだった。その大通りに出て山の方向へと向かっていると、パートナーが昼食をまだとっていないと言い出した。その通りにはけっこう飲食店があったので、その一つに入ることにした。感じの良さそうな店を見つけて入ってみると、何とメニューはハングルのみで、写真も無かった。当然、日本語は通じない。それでも希望通りに冷麺(4500ウォン)を食べることが出来た。この昼休憩を終えて再び歩き出したのは、13時過ぎだった。通りを北へとひたすら歩いて行くと、町の賑やかさは終わり、少し離れてマンション群が見えてきた。それまでも坂道だったのだが、その辺りから急斜面と呼べそうな坂になってきた。もう登山を始めている感じだった。午前の影島と言い、つくづく釜山は急坂の町だと思った。遠くに見えていたマンション群を過ぎて、ほぼ中腹辺りまで来ているのではと思えたとき、登山口が現れた。案内図があり、それを見ると、登山道は乗鶴山と九徳山との鞍部に通じるようで、そこに着くまでに二通りのコースが描かれていた。道の様子から左手の沢沿いコースが面白いように思えて、そちらを歩くことにした。その沢沿いコースはすっかり遊歩道になっており、散歩をする感じで歩いて行けた。沢沿いから離れると大きな建物を回り込むことになり、その先でもう一つのコースが合流した。そして樹林の中を登るようになった。手頃な歩き易さの上に、樹林が美しかった。そのうちに桜並木を登るようになって、日本の山を登っているのではと錯覚してしまった。その良い雰囲気のまま、主尾根に着いた。そこが乗鶴山と九徳山の鞍部で、車道も通じていた。そこまで来れば、けっこうハイカーを見かけるようになった。そのハイカー目当てのアイスキャンディ売りもいた。そこから乗鶴山への登山道は、階段の道で始まっていた。登り出すと、登山道の両側に群落となってススキが見られるようになって、秋の山を登っている季節感が味わえた。ただススキは見渡す限りと言うほどでもなかった。そのうちに主コースから右手に枝道が分かれた。そのとき主コースは尾根筋から少し離れて巻き道になっており、枝道は尾根に向かう道だった。近くに小さなピークが見えており、枝道を歩いてそのピークに立つことにした。ススキを少しかき分けるようにして登って行くと、程なく尾根に着いた。そこは岩場になっており、一気に展望が広がることになった。すぐそばが450mほどの小ピークで、そこは展望台のようになっており、一段と展望が広がっていた。西には洛東江の流れ、北には前日に登った金井山、東は九徳山の尾根、そして南は釜山市街がカラフルに広がっていた。このような素晴らしい展望に出会えるとは思っていなかっただけに、すっかりうれしくなってしまった。その展望を楽しむと、いよいよ乗鶴山へと向かった。その乗鶴山は前方にすっきりとした三角錐の姿で見えていた。緩やかに下って主コースに合流すると、山頂まであと800mだった。主コースだけあって、けっこうハイカーとすれ違うようになった。乗鶴山は人気の山のようだった。小さな岩場を越えたり尾根からも展望があり、良い感じのハイキングだった。最後は階段を登って乗鶴山の山頂に出た。450mピークから30分ほどだった。そこは450mピークよりもずっと広く開けており、そのこともあってか更に素晴らしい展望地だった。ここまで来ると海岸線が間近に見えており、釜山市街もいっそう近くに見えていた。当然洛東江の流れも眺められ、何とも贅沢な展望だった。そこには大勢のハイカーがおり、アイスキャンディ売りがそこにもいた。風はひたすら爽やかで、朝から青い空が続いている。そして視界は澄んでいるとあって、ハイキングとしては最上の日だった。しみじみ乗鶴山に来て良かったと思った。乗鶴山の山頂で過ごしたのは25分ほど。さて下山だったが、違う道を歩きたく、山頂から西の方向に向かう登山道を下って行くことにした。そちらの道も階段が作られていたりして、良く整備されていた。おかげで気楽な感じで下って行けた。尾根なりに下って行くと、登山道は二手に分かれた。堂里の町から離れたくはなく、左手を進むことにした。暫く歩くと、また左手に小径が分かれた。標識があり、正覚寺へ通じるようだった。そのコースは確実に堂里の町に近づけるはずだったので、迷わずその小径に入った。登山道は一気にマイナーな雰囲気となったが、道としては細いながらもはっきりしていたので、どんどん下って行った。薄暗い植林の中を縫うように下って行くと、やがて現れたのが正覚寺だった。全体にベージュの色調で、日本の寺とはまた違った趣があり、その雰囲気は悪くないと思った。その正覚寺からは車道を歩くことになった。車道としてはけっこう傾斜がきつかったが、市街地に入ると急斜面と言えそうなほどいっそうきつい坂となった。その急斜面を下りきった所が大通りだった。往路で歩いた堂里駅に通じる道だった。もう知った道となったので、堂里の町を眺めながらゆっくりと駅を目指した。乗鶴山に関する知識はほとんど持たずに登ったのに、その登り味の良さと素晴らしい展望に出会えて、心底登って良かったとの思いを持って堂里駅へと近づいた。
(2015/3記)(2019/12写真改訂) |