国道2号線で姫路市街を抜けて西へと走っていると、夢前川が近づいたときに北西に見えてくるのが鷹山で、低山ながら周囲から目立っている山である。一度は登っておこうと、まだ名を知らないままに登ったのは1996年1月のことで、その頃には東面側に防火帯があり、そこを登ったのだが、見た目と違ってイバラヤブになっており、けっこう苦労して山頂に立ったものである。その下山後に麓の住人に山の名について尋ねたのだが、どうも山には関心が無いようで、山名を聞き出せなかった。そこで三等三角点の点名である遠山(どやま)で呼ぶことにしたのだが、最近になってこの213mピークについて調べてみたところ、遠山は山頂から少し離れた位置の字名だった。そして山頂の位置は、飾西側では「鷹山」で、青山側は「高貴山」となっていた。どうやら地元でもその名で呼んでいるようだった。そこでここでは鷹山と呼ぶことにしたが、この呼び名を知ったことで、再訪をしたくなった。ただ前回のコースは一般的なコースとは言えず、そこでコースを変えて向かうことにした。考えたコースは、西に広がる「自然観察の森」と組み合わせるもので、自然観察の森の散策を楽しんだ後に、西側から鷹山を目指すことにした。但し西側からのコースは知らないので、往路は成り行きまかせで登って、下山でコースを辿ってみることにした。それもコースがあればだったが。
向かったのは2012年4月の第3土曜日で、うっすらとした晴れの日だった。パートナーは用事があって行かれず、単独行だった。その自然観察の森には幾つか入口があるが、この日は県道5号線に面する北ゲートから歩き始めることにした。北ゲートの前には駐車場があり、そこに駐車とした。園内へと車道は続くが、入口のゲートは閉ざされていた。但し園内散策する人のために、ゲートの横から入れるようになっていた。園内を歩き始めると、ぽつぽつぽつと散策をする人と出会ったが、高齢の人ばかりだった。すぐに管理棟が現れると、その近くから左手の丘へと向かうコースが分かれた。その行き先は「山頂」となっていた。その山頂とは鷹山を指すのでは無く、自然観察の森エリア内の小ピークを指すようだった。その山頂コースへの道に入ると、階段道が暫く続いた。道そばには咲き始めたツツジやスミレを見かけた。一度緩い下り坂となり、また道が分かれて山頂へと登り坂が始まった。登りきった所が山頂で、東屋があり展望台も建っていた。展望台の上に立つと、足下に桜山貯水池が眺められ、その背後は城山だった。山頂と言っても北にはそこより高いピークが間近に見えていた。地図を開くと、北に見えるのは標高点の付く196mピークで、今立っている山頂は、等高線でしか現れていない180mピークだった。その展望台の立つピークからは東方向にあるヤンマ池へと遊歩道が続いていたので、そちらへと下った。そのコースも階段が多かったが、下るうちに鷹山が南東の方向に眺められるようになった。ヤンマ池に立ち寄った後、遊歩道をその先へと進むと、飾西側の入口標識を過ぎて鷹山の北麓を歩くようになった。そのまま歩けば飾西高校のそばに出ることになる。右手に鷹山への小径があると期待していたのだが、見ないままに通り過ぎようとしたので、木立の空いた所を探して、そこから山頂へと向かって行くことにした。当初は鷹山を西側から登ろうと考えていたのだが、遊歩道なりに下った結果として、北側からアプローチすることになった。地図を見ると山頂付近はけっこう急斜面になっていたが、歩き易い所を選べばなんとかんるだろうと安易に考えて、まずは木立の空いた所を探して遊歩道を離れた。小径は無かったものの緩やかな地形のため、無理なく歩いて行けた。それが途中から灌木が増えて少しヤブをこぐ感じとなってきた。更にシダが見られるようになった。そこでシダヤブを避けながら登っていたところ、途中から周囲はすっかりシダヤブになってしまった。しかも密生していた。それぐらいならかき分けて進むのみだったが、次第に傾斜がきつくなってきて、ほとんど歩度が上がらなくなってきた。もう引き返すのが正解だったが、低山でもあり時間もたっぷりあったので、無理をして突破することにした。ただそれは悪しき考えだったようで、猛烈なシダヤブに入ってしまった。しかも立つことも出来ない急斜面で、灌木にしがみついて体を持ちこたえる状態だった。その木に捕まりながら、体をずりあげた。そして次の灌木に掴まった。そこで一息入れ、また体をずり上げた。休んでは進みの繰り返しだったが、休んでいる時間の方がずっと長かった。またシダの上は滑りやすいため、1メートル登っては1メートルずり落ちることもあった。またシダを足がかりに出来ないときは、ずっとシダを掴んでいることになり、これも相当難儀だった。何ともムチャな登りだったが、登るしかない。途中では疲れのあまり立ったまま眠ったりもした。いつ緩やかになるのかと焦る気持ちで登るも、いっかな緩やかにはならず、とうとう山頂が目前になるまでその状態が続いた。もう完全に疲れはてた状態でシダ帯を抜け出ると、そこは山頂まで十数メートルの距離だった。全身汗とシダの屑まみれだった。シダを抜け出した辺りから小径があり、それを歩いて山頂に立った。もう後は三角点のそばに倒れ込んで、ただ疲れた体をひたすら休めた。山頂は僅かながらも快い風があり、その風に暫し体をゆだねていた。少しは人心地もついてきたところで辺りを眺めると、一帯は疎らな木立となっており、落ち着いた雰囲気があった。それを眺めながら、漸く遅い昼食とした。そして少しばかり山頂展望を楽しんだ。三角点の位置こそ展望は無かったが、登ってきた方向に少し戻ると、北から東にかけての展望があって、遠くは笠形山も山頂を覗かせていた。さて下山はどうするかだったが、山頂からは南の方向に小径が付いており、それを手がかりに西に向かう尾根に入ることにした。その小径を歩き出すと、すぐに方向は西へと変わって尾根を辿りだした。どうやら西尾根には、期待通りに小径が付いていたようだった。小径は細々と続いて、ときにはっきりしない所も現れたが、目印テープが付いていたので、逸れることは無かった。途中には落ち着いた森の雰囲気の所もあり、北斜面のヤブコギとは大違いだった。小径は最後に遊歩道に合流した。その遊歩道を西へと歩くと、兵庫県立こどもの館の前に出た。この後はこどもの館の周囲を巡って北へと向かった。そして工作館の先で、再び自然観察の森の遊歩道に入った。遊歩道は枝道が幾つもあったが、北ゲートを目指して行くと、中央広場を通った先で、午前に歩いた山頂コースに合流した。後は知った道となり、管理棟の前に出ると、北ゲートはもう目と鼻の先だった。
結果としてこどもの館から鷹山に向かえるコースのあることが分かったが、それにしても無茶苦茶なヤブコギをして鷹山を登ってしまったものだった。先に始めた園内散策とはギャップがあり過ぎて、思い返してもヤブコギをしたとは思えなかった。ただ両手を見ると無数のひっかき傷があり、ヤブコギが現実だったことを知らされた。それを見て、「良い子はこんなまねは決してしてはいけません」との言葉が自然と出てしまった。
(2012/5記)(2020/4改訂) |