山崎町の北西から南光町にかけては、南北に何本もの尾根が走っているが、その一つである山崎町塩山の東に延びる尾根には神宮司山があり、その神宮司山から尾根を北へと610mピークまで歩くことにした。2004年1月18日のことで、県道154号線を北上して、塩山集落の南にある土万(ひじま)小学校の前に駐車した。朝から目の覚めるようなくっきりとした青空が広がっており、快晴だけに朝の冷え込みは厳しく午前9時の時点で気温は−6℃を指していた。南へと車道を歩くと、すぐに神宮司山の方角に延びる林道が現れたので、それを登って行くことにした。林道は緩やかな上り坂で、山中へと入って行く。足元にはうっすらと雪が積もっており、周囲は植林地が続いていた。この林道には参道と記された標識が付いており、山上には祠か何かが有るようだった。登り出して程なく樹魂碑と名付けられた石碑を見た。その碑文を見ると、山に対する愛情が詩文として刻まれていた。林道はひたすら緩いままに続いており、中腹辺りまで来たとき「寄り道小屋」と名付けられた作業小屋と出会った。その名に惹かれて小屋の中を覗くと、壁には詩の書かれた板が何枚も貼り付けられていた。どの詩も山と木に対する思いが込められており、先ほどの樹魂碑と同じ作者のようで、名は東雲清香と記されていた。どうやらこの山には詩人が居るようだった。この小屋の前で林道は二手に分かれたが、山頂へ向かうのは左手の方向と思え、そちらを登ることにした。道は高度を上げ出したので、どうやら正しかったようである。もう雪は5cmほどあり、すっかり道を覆っていた。尾根が近づくと、尾根方向に小径が分かれた。参道と書かれた標識もあって、その小径を辿って行くと、道はつづら折れとなって尾根に出た。そして尾根を道なりに南へと歩くと、僅かな距離で山頂に着いた。地図にはこの道は記されていなかったが、ちゃんと山頂まで登山道が続いていたことが分かった。やはり山頂には祠があり、東屋とまではいかない休憩舎も作られていた。祠を覗くと秋葉神社とあり、小さな鏡餅が幾つも並べられていた。どうやら山神様を祀っているようで、山仕事に携わる人たちに大切にされていることが窺えた。この祠の前こそ陽射しがあったが、辺りは雑木が取り囲んで薄暗く寒々としていた。また展望も無かった。なお、この山頂へは塩山からだけで無く、南からも道が来ており、そちらの方がはっきりとした道で表参道のようだった。こうして見ると神宮司山の狭い山頂にはひっそりと神社があるのみで、そこに2本の参道が来ていることから、神宮司山はひたすら山仕事に携わる人たちの信仰の山のようだった。この山上で一休みをしたく、陽当たりの良さそうな表参道を少し下りてみることにした。道は陽射しをいっぱい受けて、雪はすっかり溶けていた。10mも下ると見晴らしの良い所に出たので、そこで一休みとした。南西に土万の集落が見えており、南方には高丸山の尾根が眺められた。小休止を終えると、もう一つの目標である610mピークへと予定通り向かった。その610mピークに興味を持ったのは2年前に西向かいの谷山の尾根を歩いたときのことで、神宮寺山よりもその北に並ぶ二つのピークの姿に惹かれた。帰宅後に地図を見てどの山だったかと探したが、すぐには分からなかった。結局は三角点も標高点も記されていない等高線のみで表された610mピークと分かったが、一度は登ってみたいと思ったものだった。その610mピークへとまずは北東へと歩いた。尾根には雪が見られたが5cm程度の雪だったので、さほど気にならず歩いて行けた。そして山頂を離れて100mも歩かないうちに、尾根でも展望が開けた。一帯が若木の植林地となっており、その梢を越して遠く県境の山並みが見えていた。後山がすっかり白くなっているのが印象的だった。そして北へと向かうようになった。鞍部に着くとそこは標高380mで、610mピークへは200m以上登ることになった。もう辺りはすっかり雑木帯で展望は無かったが、裸木が整然と佇む様は風情があって悪くなかった。尾根の雪は次第に増えており、地表はすっかり雪に隠されるまでになっていた。概ね10センチほどか。南側の610mピークが近づくと雑木は密になり、その間をすり抜けるようにして登った。やがて着いた南ピークもすっかり雑木に覆われていた。そして気温が上がってきたことで木に付いていた雪が溶けだして、小雨が降っているような状況になっていた。その雨垂れの受けない日溜まりを見つけて、そこで昼休憩とした。そして更に北へと進むと、やや急坂で鞍部へと下った。辺りの積雪は15センチほどになっていたが、若木の植林地が現れると一気に展望が開けることになった。西から北にかけての展望で、後山から三室山、遠くは那岐山まで見えていた。寒さを忘れて暫くこの展望を楽しんだ。ただ数年もすれば木の生長によって展望は無くなりそうだった。その位置より西へと下って林道に出ることも考えたが、ここまで来たのだから北の610mピークも踏むことにした。その展望地から北のピークの方が若干高く見えていたことも理由の一つだった。鞍部に下り着いて登り返す。まずまず気軽に登ってピークに立ったが、そこはすっかり植林地だった。しかも手入れの悪い貧弱な木ばかりだった。これで予定終了として、北のピークからは北西に延びる急尾根を下ることにした。尾根に入ってみると、さほど急な感じでは無かった。掴まる木も適当にあり、尾根筋もはっきりしていたので気軽な下りと言えそうだった。ただ最後はやはり急斜面となり、尾根もはっきりしなくなった。適当に下る感じとなり、最後は沢に下り着いた。その沢を渡って林道に出た。林道上の雪はほとんど溶けており、やはり山上とは気温が違うようだった。後は林道を歩いて駐車地点へと戻って行った。
(2004/1記)(2017/11改訂)(2020/4改訂2) |