丹波市と多可町、西脇市にまたがる石金山は500mを僅かに越すだけの低い山なのだが、これがけっこう目立つ山である。東に妙見山、北に篠ヶ峰と大きな山が迫っているのだが、この石金山一帯は低山の尾根になっており、その中でこの両翼を形良く引いた姿は、必然的に注目することになる。この石金山の北を県道86号線が走っており、そこを走る度に石金山登山口の標識が気になっていた。それまで石金山には南からの尾根で登っていただけだったため、一度はハイキングコースで登ってみるのも悪く無いと思えた。その気持ちが一気に高まったのは2009年の春のことで、4月に岩屋山、5月にカザシと登って、どちらからも石金山の端正な姿が眺められた。その姿に登りたい気持ちが熟すことになった。 向かったのは6月に入った最初の土曜日のこと。午前は曇りで午後から晴れの予想だったが、その通りの空で丹波市の空には薄雲が広がっていた。そしてその雲が薄れる気配が感じられた。車道そばに立つ案内標識に従って、小新屋(こにや)集落内を進んで行き、着いた所が小新屋観音の前だった。車道はそこまでで、その先にはゲートがあって林道に続いている。車は小新屋観音のそば、登山口標識が立つ空き地に止める。朝の気温は20℃を僅かに超えるだけで、蒸す感じは無かったので登山としては悪く無かった。ゲートを通ると、南へと延びる観音寺川沿いの林道を歩いて行く。地図では山頂まで破線の道が続いているので、それがハイキングコースかと思って歩いていると、長くは歩かずハイキングコースは左の沢の方向に分かれて、緩やかに登り坂になった。その方向には412mピークを持つ尾根があるので、その尾根に行くものと思っていると、途中で南へと植林の山肌をジグザグで登り出した。どうもハイキングをしている雰囲気では無く、マイナーな山で植林の作業道を登っている雰囲気だった。その登山道は途中から小さな尾根を登るようになったが、けっこう急尾根でどんどん高度を上げた。但し周囲は植林のままだった。登ることに意識を集中していると、主尾根が近づいて涼しい風を受けるようになった。またうっすら陽射しも漏れてきた。主尾根に出たのは歩き始めてから30分ほどで、イタリ山から続く尾根道に合流した。辺りの木々は雑木林に変わっており、一気に雰囲気が良くなった。合流点に標識が立っており、山頂まで500mと書かれていた。地図を見るとその位置で標高は450mを超えており、山頂との標高差は50m程でしかなかった。もう尾根はいたって緩やかで、涼しい風を受けながらすっかりハイキング気分だった。概ね南側は雑木林で北側は植林の尾根だったが、登山道は尾根のままには付いておらず、次の小さなピークは南寄りを歩き、その次のピークは北寄りを歩いた。そこまで歩くと、周囲はすっかり自然林だった。そして最後の登りにかかる。急坂にはロープが張られていた。そのロープを伝って登って行くと、前方の木々が減って明るくなってきた。その一帯にはオレンジ色の山ツツジが咲き乱れていた。それを横目にひょいとひと登りした所が山頂だった。そこは前回とは様変わりしていた。すっかり木々が切られており、見事に360度の展望が広がっていた。その中央にはベンチと三等三角点(点名・石金山)があり、これが山頂だと言わんばかりの風景だった。それにしても石金山がこんなに展望が良くなっているとは、ちょっと驚く思いだった。そうなるとゆっくりと大展望を楽しむことにした。その頃には青空が広がって陽射しが降り注いでいた。ただくっきりとした空でも無く、湿気を多く含んでいるようなややうっすらとした空で、雲も多かった。そのため視界は鮮やかとは言えなかったが、それでも展望を楽しむには十分だった。東に妙見山、北に篠ヶ峰、西には笠形山、そして南は西脇市の低山群と、暫し時間を忘れて眺めていた。その山頂には他に人影は無く、ただあっけらかんと明るかった。そしてひたすら涼しかった。その雰囲気の中で、パートナーと昼どきをのんびりと過ごした。ところで山頂ではワラビがその若葉をいっぱいに広げているのが目に付いた。よく見るとまだ芽生えたばかりのものもちらほら見えていた。一週前に登った加西市の鎌倉山でもワラビ採りをしていたが、これで二週続けて山頂でのワラビ採りを楽しめることになった。涼しい山頂で50分ばかりをのんびり過ごした後、下山に向かった。この日は出来れば周回コースでと考えており、それは尾根なりに西へと歩いて、421mピークから北西の鞍部(坂峠)を横切っている破線路に下りるコースだった。尾根道の状態によっては諦めることも考えていたが、その西へは適度な尾根道が続いていたので、予定通りに尾根歩きを開始した。途中に倒木こそあったが、まずまず無難に歩いて行けた。ただそちらには案内標識が無かったため、尾根の形を頭の中にイメージしながら進んだ。そして421mピークを覚しき小さなピークに立つと、そこからは木々を通して北西に464mピークが見えたので、そのピークに向かうようにして植林地の急斜面を下って行った。すぐに尾根筋を追えるようになったが、小径は見えなかったので適当に下ると10分ほどで鞍部に下り着いた。そこも植林地なのだが、なぜかシダが辺り一面に繁茂しており、それが木漏れ日を受けて妖しく光っていた。その位置より北へと谷筋を辿って行くと、いつしか小径を歩くようになり林道へと合流した。林道を歩くと最後にゲートがあり、そこを通って小新屋集落へと入って行った。こうして無事に周回で石金山を楽しんだが、どうも主尾根に出るまでも、主尾根を離れてからも植林の中ばかりを歩いていたことになるので、登山としての味わいは少なめだったと思えた。ただ主尾根の雰囲気は悪く無く、また山頂の大展望は十分にお釣りの来る素晴らしさだったので、石金山は姿だけで無くハイキングとしても良い山だと再認識させられた。ところで地図(平成3年修正測量)が古いと思え、後日に新しい「中村町」の地図を眺めてみた。すると小新屋観音からの破線路は書き換えられており、6日に歩いた通りのルートに直されていた。やはり地図はなるべく新しいものに替えておいた方が良さそうだった。
(2009/6記)(2021/11改訂) |