三濃山を周回コースで楽しむとなると少し距離は長くなるが、羅漢の里を起点に鍛冶屋川沿いの林道を歩き、正面谷池経由で山頂へ。そして下山は南へと延びる尾根歩いて西山、感状山経由で戻るコースであろう。久々に三濃山を楽しもうと考えたのは2009年4月の晴れた日のことだった。この日は車を修理に出しており、代車では遠くに出かけることも出来ず、そこで近場のハイキングを楽しもうとこの三濃山を思い付いたものである。始めの考えでは鍛冶屋川沿いで山頂を目指すものの、下山は周回とせずピストンでと気楽にと考えていた。羅漢の里に向かうとき、空を見ると春霞とでも言うのか、うっすらとした色になっていた。羅漢の里には幾つか駐車場があるが、尾根コースでの下山も考えて水車小屋が近い駐車場に車を止めた。鍛冶屋川沿いに北へと続く車道を歩き出すと、子供の声が前方から聞こえてきた。その先にアスレチックなどの設備があり、小さな子供連れの家族を多く見かけた。舗装車道は広い駐車場のある管理事務所の前までで、その先は未舗装の林道となって鍛冶屋川沿いを続いていた。以前は一般車も進めたのだが、今は通行止めのガードが林道入口に置かれていた。明るい陽射しを受けながら林道を歩いて行く。水の流れは歩き始めたときは左手にあったが、堰堤の位置を過ぎると右手に変わった。周囲も木々が囲むようになり、ハイキングとして悪く無い雰囲気だった。新緑が目に優しかった。ツバキの木も多いようで、赤い花をいっぱい付けていた。その花が沢の中に落下しているのも沢の彩りになっており、その風情を眺めながら歩いた。それにしても静かなハイキングで、終始人影を見なかった。水の流れが北東に折れると林道も同じく曲がったが、そこから漸く道の傾斜が増してきた。道も荒れてきて、林道と言うよりも山道の雰囲気だった。ただ相変わらずツバキの花が目に付いた。暫く登ると小さな橋があり、それを越すと正面谷池のそばに出た。いつもながら静かな佇まいだった。その先で道は細くなりすっかり山道だった。尾根を巻くように登ると道は平坦になって何となく山裾辺りを歩いている雰囲気だった。小さな沼があり竹林が目に付き出すと、三濃山史蹟案内図の前に出た。そこは感状山から続く尾根コースとの合流点で、そこからは寺域を歩く雰囲気となった。石段を登って求福教寺の前に出る。その寺の裏手に回って少し進むと庫裏とおぼしき家屋があり、その先に明るい三濃山山頂が見えていた。山頂の桜は花びらを落とし終わった後で、その花びらが登山道を隠さんばかりに落ちていた。山頂に着いたときは歩き始めてから80分が経っていた。その三濃山山頂には巨木のアカガシがあることで有名だが、すっかり枯れて幹も大枝も落ちてしまって、そばに立つ杉の木の方がずっと大きく見えていた。ただアカガシは懸命に延命治療がされており、その成果が新しい枝となって残った幹から芽生えていたのはちょっとした感動ものだった。山頂は他にも植林が進んでおり、ただいま整備中の雰囲気だった。落ち着いた感じになるにはまだ暫く時間がかかりそうに思えた。その高木があまり見られない明るい山頂で昼休憩とした。三濃山は一帯では一番高い山だが、周囲もあまり高さは変わらないので、明るく開けているものの展望は良いとは言えず、瀬戸の一角やたつの市との境界尾根が眺められるだけだった。北は樹林にすっかり閉ざされている。それにしてもこの山頂も人影は無かった。どうも巡り合わせなのか、三濃山では人と会わないようだった。パートナーと少し遅い昼をゆっくり過ごすことになった。気温は23℃まで上がって少し暑さも感じられたが、空気はからっとしており、弱く吹く風が快かった。その山頂で雨水桶の水を老アカガシにかけた後、下山とした。足に疲れを感じないので、周回コースで帰ることにした。三濃山史蹟案内図の立つ位置まで戻り、東へと向かう登山コースに入った。その登山道のままでは遠回りになるので、途中より斜め横断で尾根に向かうと、程なく尾根コースの登山道に合流した。後は登山道のままに下って行くだけだった。始めは周囲は植林地だったが、次第に雑木林へと変わってきた。アカマツが多いようで、登山道が松葉で隠されている所もあった。その尾根は下る一方でも無く、小さくアップダウンがあり、何度か登り坂となった。その尾根の途中で「播磨線15番鉄塔」と書かれた送電塔の前に出た。少しは開けており鉄塔越しに東の方向が眺められたが、展望は良いとは言えなかった。その先も小径は続き、所々に感状山への方向を示す標識が置かれていた。次第にシダが目立つようになったが、歩く妨げでも無かった。南の方向を眺めながらの下りを続けているとまた送電塔が建っており、そこからは登山道の向きは東となった。程なく小さな沢のそばに出た。そこは40日前に西山からの帰路で歩いた所であり、その位置よりその時の逆に歩くことになった。上り坂となって暫く登ると、この日三つ目の送電塔が見えた。登山道から少し離れているが寄り道とする。その送電塔のそばからは北に向かって410mピークが立派に見えたが、この日も登る気持ちまでは起こらず下山を続けることにした。西山の三角点を見た後は感状山に向かうことになるが、その感状山への登りにかかったときに巻き道が見えた。それを見なければそのまま感状山へと登るのだが、このまま感状山へと登ってしまうと三濃山に対する印象が薄れるのではと思えてきた。そこで感状山へは向かわず巻き道を歩いて下山することにした。巻き道は感状山の西を回り込むように緩やかに付いており、その先で木々が疎らに立つ落ち着いた雰囲気の広場に出た。そこは城跡の一角で、出曲輪跡だった。その先で再び感状山登山コースに合流した。物見台に立ち寄ると、後は麓まで遊歩道の木段を休まず下って行った。周囲の木々は新緑の姿を見せており、この数週間ですっかり樹林の雰囲気は変わっていた。その風情を目で追いながら羅漢の里へと下りて行った。じっくりと三濃山を登りたいときは、このコースは悪く無いと思えたこの日のハイキングだった。
(2009/5記)(2021/5改訂) |