99年12月下旬に丹波市氷上町の白山に登ったときのこと。五合目の展望台から北に目を向けると、岩肌が露わな骨太の山が間近に見えて、目を奪われたものである。地図を見ると三角点のみで山名は記されていなかったが、後で弘浪山であることを知った。その弘浪山を登ることを考えたとき、どうも短時間で終わってしまいそうだった。そこで尾根続きとなる東峰山までのハイキングをすることにした。向かったのは03年6月初旬の日曜日で、明日には梅雨入りしそうだったが、その日は好天が期待されていた。ところが氷上町に近づくと上空は雲に覆われ、氷上町では霧が立ちこめていた。周りは薄暗く何も見えていなかった。ただ晴れの兆しも見えていたので心配なく登山口へと向かった。弘浪山北麓の柿柴集落に入ってその奧へと車を進めると、害獣除けのゲートがあり、すぐに墓地の前に出た。墓地の横には磐神神社があって、その近くの空き地に駐車とした。墓地へと続いていた道は墓地のそばを山中へと向かっていた。その道を歩き始めるが、墓地を過ぎるとすぐに荒れ道になってしまった。そして山道へと変わる。けっこう草深い道で、朝露でびっしょり濡れていた。仕方なく雨具を着けての登山となる。道は草深いながらもはっきりしており、道なりに登って行けた。雑木に囲まれた道は北側の登山道だけになおいっそう薄暗い。登り詰めると鞍部に出たので、山頂に向かって西へ尾根を辿る。山頂から北へ続く尾根に合流すると、その尾根にはクサリが張られていた。クサリ内は「関西池田記念墓地公園」の敷地となっており、立入禁止とされていた。このクサリは山頂へと続くだけでなく、東峰山山頂までも続いており、更にそこより東へと続いていた。どうやら長野地区を囲む山肌は総てこの墓地の敷地のようである。尾根からはその墓地が見えていたが、整然と区画整備されており、まるでタバコ畑のようにも見えていた。後で考えると墓地公園と曖昧な表現だが、某宗教団体の共同墓地ではと推測された。クサリ沿いに尾根を伝うと程なく山頂に着いた。この山頂は展望が良い。もう空はすっかり晴れており、やや薄モヤがかった視界ながら、明るい空の下にすかっとした展望を得た。西方向のみだが、尾根の先にある東峰山を始めとして、その背後の篠ヶ峰から鳴尾山へと続く播磨との境界尾根が気持ちよく眺められた。ところで弘浪山の山頂には三角点が無い。三角点は東に数十メートル離れた位置にあり、地図では同じ等高線内だったが、そちらは最高点より4,5メートルは低いと思われた。そちらにも立ち寄ってみる。三角点周囲は自然林が囲んでおり、物静かな雰囲気であった。展望は無いと思ったが、周囲を探ってみると、南東に数メートル下ると樹林が切れて、結構良い展望地の有ることがわかった。山頂とほぼ同じ眺めだったが、こちらの方が南向かいの白山をすっきりと眺められた。それに高見城山の尾根も意外と近くに見えていた。弘浪山では50分ほども休んでしまったが、予定通り東峰山に向かった。その東峰山までの尾根については何の知識も無く、何とか歩けるだろうとの気持ちで歩き出したのだが、これが結構面白い尾根だった。急傾斜の尾根も有ればなだらかな所もあり、また露岩地が多くあって少し危なっかしい思いもした。何より展望が良かった。(これは有る意味では豊かな森とは縁遠いとも言えるが。)
所々で休憩をとっては展望を楽しんでいたので、弘浪山を後にしてから最低鞍部に着くまでに1時間はかかってしまった。もう12時前である。昼食は東峰山でと考えていたので、少しピッチを上げて歩くことにした。登り返しとなっても暫くは展望の良い尾根が続いていたが、最初の小ピークを過ぎた頃より周囲は植林地へと変わってきた。植林は枝打ちをされておらず手入れが悪い。ここまでの尾根は展望が良かっただけに陽射しに曝されて結構汗をかいていたが、今度は樹林の中で涼しくはなったものの、きつい上り坂で、やはり汗をかかされた。尾根には「関西池田記念墓地公園」の敷地を限るクサリが弘浪山から延々と続いていた。ご丁寧というか縄張り意識の強いことだが、上り坂の手助けとして少しは重宝であった。この登りはけっこう長かった。地図を見ると最低鞍部と山頂との標高差は400m近くもあった。最低鞍部までの下りでも小さなピークを幾つか越えてきたので、累積標高差はそれ以上有ることになる。あまり休みを取らずに登ったが、山頂に着いたときは13時近くになっていた。山頂はすっかり樹林に囲まれていた。おかげで陽射しとは縁がなく涼しい風が渡っていた。その狭い山頂にさっそくシートを敷いて横になり、快い涼しさをむさぼった。昼食も済ませ一眠りしたところで、改めて周囲を眺め回した。東こそすっかり植林に閉ざされていたが、西側は自然林で比較的空いている。そして間近の松の木が登りやすそうである。早速登ってみた。5メートルほど登って一番上に達すると、もう視界を遮るものは何もない。まず目に飛び込んで来たのは篠ヶ峰である。途中の尾根でも良く見えていたが、東峰山から眺めるその姿はやはり大きい。そして篠ヶ峰を取り巻く山々も一望である。やはり山頂に居る限りは展望が無いと位置関係がよく分からない。下山路としては、北東に延びる尾根で下ることにする。東峰山の山頂まで続いていた境界のクサリも、この北東尾根へと続いている。尾根は相変わらず植林に覆われていたが、519mピークが近づいた辺りで抜け出した。一気に展望が良くなる。主に北の尾根が眺められる。一帯は伐採地がそのまま放置されているいるようで、展望が良い替わりに草深く、サルトリイバラなどもはびこっていた。また午後の陽射しはもう初夏の暑さであった。暑苦しさと歩きにくさの両方であったが、かまわずどんどん下ってそして519mピークに向かって登り返した。このピークを越すと、また楽な尾根歩きに戻る。緩い下り坂で道ははっきりしている。ようやく弘浪山が見えてきた。始めは山頂部だけが見えていたが、少し下ると正に弘浪山の展望台とも言える所があり、麓から山頂まであっけらかんと総て見えていた。こう全姿を見せられると、やはり小粒な感じは否めなかった。ただこの弘浪山の眺めまで有って、今日の登山は十分に満足したものとなった。遠路、丹波まで来た甲斐があったというものである。後はクサリ沿いに下れる所まで下って、長野集落へと入って行った。
(2003/6記)(2012/6改訂)(2020/4改訂2) |