登山と言うものは、同じ山であっても登るコース、季節、天気、更にはその日の体調によっても印象が変わるもので、好印象だった山が次に登ると意外と平凡だったり、その逆もあったりする。ふるさと兵庫100山として選ばれた山の中にも、登った印象が希薄で、なぜ100山に選ばれているのか、ちょっと疑問の付くものがある。その一つが虚空蔵山だった。この山を登ったのは1994年のことだが、「大阪周辺の山」を参考に駅から登れる山として、藍本駅から虚空蔵堂経由で山頂に立った。そこからは尾根を北へと歩いて八王子山を通り、そして草野駅へ通じるコースを下ったのだが、どうもそのときの印象は薄かった。そこで兵庫100山に選ばれるほどなら、どこか特徴ある部分があるのではと考えて、再訪することにした。但しコースを変えて、西麓の立杭陶の郷からのコースを登ることにした。
向かったのは2010年5月の下旬で、晴れてはいたが好天が続いたためか、視界は少し濁ったようになっていた。9時過ぎに陶の郷の駐車場に着く。駐車場は何カ所かに分かれていたが、出来るだけ離れた位置に駐車とした。虚空蔵山への道は陶の郷の中を適当に登っていけば見つかるだろうと安易に歩き出したのだが、少しうろつくことになってしまった。喫茶店の前でその店の人から道を教えていただいたところ、伝統会館の脇に見えた小径が登山道に通じる道だった。よく見ると、その入り口に小さな案内板も立っていた。その小径を登って行くと、すぐに車道と合流した。そばに広場があり、数台の車が止まっていた。見ているうちに別の車が到着したが、どうやら従業員の駐車場かと思われた。その広場とは反対方向に車道を歩くと、左手に山に向かう車道が分かれた。その道へと入ると大きな案内板が現れ、その一帯は「丹波立杭彩りの森」になっているようだった。近くにはバンガローも建っている。それを横目に車道を進むと、自然と登山道に変わってきた。道脇には東屋があったりベンチも見かけたが、ちょっと古びてきているようだった。それを横目に進むと、植林地内を登るようになった。登山道は遊歩道として整備されているのだが、プラ階段が続くため、何となく巡視路を登っている雰囲気だった。周囲は植林地とあって薄暗かったが、「山頂まで700m」の標識を過ぎると、木々は自然林へと変わってきた。そして歩き始めてから30分ほどで尾根の鞍部に出た。そこより北へと尾根を辿って行くことになるが、尾根は緩やかなため、プラ階段は漸く見えなくなった。それも尾根の傾斜が増すと、再び現れたが。急坂になって少し展望も現れてきて、西向かいの上山が望めるようになった。その山頂には反射板見えている。陽射しも強く受けるようになって、けっこう汗をかいての登りだった。尾根をそのまま辿ればごく短時間で山頂に着けそうだったが、それでは単純過ぎると思い、右手より藍本駅からのコースが合流したとき、その藍本コースへと入った。それは藍本コースの途中にある虚空蔵堂を訪れようとの考えからだった。前回登山はこのコースを登ったのだが、虚空蔵堂の印象が薄れていたため、再び目に納めようとの考えだった。こちらの道は急坂が続いたが、プラ階段など無く、ごく自然な道だった。虚空蔵堂までは尾根からでは150mほど下ることになる。途中で石仏も見られた平坦部を通ったが、そこより更に下った位置で虚空蔵堂が現れた。境内は狭いながらも古刹のおもむきがあり、落ち着きある雰囲気が漂っていた。木陰は涼しく、ベンチもあり、暫しのひとときを過ごした。そして再び尾根へと戻って行った。往復で40分ばかりの寄り道だった。合流点に戻ると、尾根は山頂が近くになったこともあり、けっこう急坂となった。またプラ階段の登りだった。ほぼ山頂ではと思われたとき、大きな岩場が現れた。展望も良く、一瞬山頂かと思ったが、その先が一段高くなっていた。そこも岩場になって開けており、山名標識で山頂だと分かった。岩場は平らになっており、休むには良さそうだったが、陽射しを強く受けることになったので、辺りを眺めると、西に少し下がった所にベンチとテーブルが見えた。そこは木陰にもなっており、絶好の休憩場所だった。しかも西に向かって展望も開けている。その風景はと言うと、足下には立杭の集落が眺められ、背景の大きな山は和田寺山だった。更にその西には西光寺山があり、右手には西寺山にトンガリ山も見えている。ただ視界がうっすらとしていたのは残念だった。その展望を楽しんだ後、ベンチに座って、少し早いが昼食とした。そこは木陰になっているだけでは無く、涼しい風が通っており、思わず眠気を誘われるほど心地よい所だった。ところで山頂は他に誰もおらず、また登る途中で出会った人も数人だったので、静かな山と言えた。パートナーと二人してのんびりと30分ほどを過ごすと、漸く次のハイカーが現れた。それをしおに下山とした。下山はすんなりと陶の郷への道を引き返す。コースの多くは階段とあって、足下に注意を払う必要も無く、ごくのんびりとしたものだった。小さな山だけに40分ほど歩くと、もう陶の郷は目前となった。陶の郷では南の縁を通る車道を歩いたが、駐車地点には結局は敷地内を歩くことになった。昼どきの陶の郷は人の訪れが多いようで、駐車場はほぼ満車状態になっていた。この下山中に西の空から薄い雲が広がり出していたが、駐車場に着いて見上げた空は、ほぼ全天が薄曇りに変わっていた。
こうして虚空蔵山のハイキングを終わってみると、急坂にはプラ階段があり、登山時間も長くは無い。所々にベンチがあって一休みでき、また岩場があって展望もある。一つ一つの要素には目立つものは無かったが、全体として登山の楽しみがコンパクトにまとまっており、丹波の山に親しむ入門コースではと思えた。
(2010/6記) |