鉄鈷山の登山は2008年11月に林道床尾線が全通したことで大きく変わった。朝来市と豊岡市の市境尾根を越す位置にある峠まで車を進めれば、そこから片道30分のお気軽登山が出来ることになった。二度目の登山は、2012年5月の新緑の盛りにその一番簡単なコースで訪れた。但し始めからそのコースでと考えていた訳ではなく、最初の考えでは糸井の大カツラの位置を起点に東床尾山を登り、そこからは尾根伝いで鉄鈷山までを歩く。鉄鈷山からは支尾根を下って戻ってくる考えだった。それが急に、登山予定日の夕方より用事が出来てしまい、早く戻らなければならないことになってしまった。ただ気持ちとしては二つの山を予定通り登りたく、そこで経路を変更して、峠を起点に東床尾山も鉄鈷山もピストンで登るという、どちらの山も一番簡単なコースを歩くことにしたものである。
この日は快晴の予想だったが、播州の空は薄い青空で、むしろ薄晴れと言えそうな空だった。その空は但馬に入っても変わらず、むしろガス雲が高峰を隠していた。そのガス雲が徐々に薄れるのを見ながら、県道10号線から糸井渓谷へと通じる道に入った。集落を過ぎると床尾林道に入り、道は渓谷沿いを細々と続いた。古さを感じさせる林道だったが、糸井の大カツラへの道が分岐する地点を過ぎると、一気にきれいな道になった。そこからが延伸された部分だった。新しい部分は道幅は十分あり、緩やかに続いたが、路面には落石による小さな石が多く落ちており、注意が必要だった。峠の広場に着くと、まずは東床尾山を目指した。こちらは片道1時間コースで、新緑を楽しみながらごく気楽なハイキングだった。そして山頂では、鉄鈷山を始めとして、但馬、丹後の山並みを眺めて過ごした。峠の広場に戻ってきたのは11時半前。足の疲れは少なく、小休止の後、鉄鈷山へと向かった。駐車場の一隅に「鉄鈷山」の標識があり、その地点から取り付いた。始めに植林地の斜面を登ると、すぐに尾根を辿るようになった。左手は植林のままだったが、右手は自然林が広がっており、その淡い緑を眺めながら登って行った。10分ほど登って一度植林地を抜け出したとき、右手に展望が現れて、これから向かう鉄鈷山を始めとして西床尾山に東床尾山と広く眺められた。再び植林地に入ってごく小さなピークに着くと、そこに三等三角点(点名・西谷)を見た。そこから山頂までは二度目となるのだが、前回の登山から15年が経っていたためか以前の記憶は曖昧で、初めての山に来ている気分だった。それは植林地を抜け出した先が広く伐採地になっており、兵庫側の山だけでなく、京都側の山並みも眺められると言う風に、尾根の様子がすっかり変わってしまったためかも知れなかった。その展望に目をやりながら、最後の登りにかかった。県境尾根には害獣避けのネットが続いており、それに沿って登った。途中から自然林の中に入り、自然林に囲まれた山頂に着いた。山頂は木々が疎らで、緩やかな起伏の地形になっていた。三角点は無いものの、大きな山名標識が立っていた。展望は僅かしかなく木々の隙間から法沢山や高竜寺ヶ岳がちらりと見える程度だったが、それを補って自然林の佇まいが目に優しかった。その中で涼しい風に吹かれながら昼食とした。その休むうちに出来れば南隣の737mピークまで歩きたいとの気持ちも起きたが、夕方からの用事が気になって、休憩は20分ほどで切り上げると、下山へと向かった。下山は登ってきたコースを引き返した。昼には良く晴れると予想していたのだが、空は相変わらず薄晴れで、むしろ薄曇りと言ったほうがよいかも知れなかった。視界もフラットな見え方だった。但し展望としては良かったので、左に東床尾山、右に夜久野町の尾根を眺めながらゆっくりと戻った。それでも30分ほどで登山口に戻ってきた。やはり峠からだと何とも簡単に登れてしまう鉄鈷山だと、改めて思った。
(2012/5記)(2021/5改訂) |