多可町の加美区(旧加美町)は国道427号線を中心に両側を700〜1000mの山に囲まれているが、その一つ一つに個性があって山域として面白い所である。その中で代表格は千ヶ峰と誰もが認めるところだが、この千ヶ峰を2008年9月の最終土曜日に訪れた。その日は澄んだ視界が広がっており、その視界の中で目を惹いたのが、ちょっと頭を突き出したような大井戸山だった。この大井戸山には10年以上前に登ったきりご無沙汰していたが、その姿を見て再訪も悪くないと考えた。そこでさっそく次の週末に訪れることにした。
多可町の加美区に入って国道427号線を北上していくと、北東の空に頭を突き出した山が見えてきた。その特徴ある姿で一目で大井戸山と分かった。その大井戸山の西麓を通過して清水集落が近づくと、標識が立っていた。大井戸山の登山口を示すものだった。大井戸山もちょっと知られる存在になっているようだった。後は点々とあるその標識に従って車を進めると、自然と林道を走るようになった。林道は途中からダート道に変わり、ちょっと荒れ出した。ゆっくり走らないと車の底を擦る恐れがあった。林道は中腹を越えて続き、終点の位置が登山口になっていた。その終点で標高は500mに近く、尾根の清水坂までの標高差は130mほどでしかない。そこはちょっとした広場になっており、車は10台程度は止められそうだったが、他に車は見えなかった。登山口の標識には大井戸山、篠ヶ峰、竜ヶ岳と三つの山名が書かれていた。ここより清水坂まで登って、播州、丹波の国境尾根を南に辿れば大井戸山、篠ヶ峰へ、北へ辿れば竜ヶ岳に向かえることになる。登山道を登り始めると、植林地の中を道は続いた。その植林にミツマタが混じっており、その緑の葉が薄暗さの中に浮かんでいた。15分と歩かず清水坂に着いた。峠には石仏が安置されており、その前で一呼吸をおいた後、国境尾根の道を南へと登って行った。その尾根も植林地になっていたが、アカマツやモミも多く混じっていた。100メートルほど登ると尾根は緩やかになり、気楽な雰囲気になった。その頃には周囲の木立は雑木に変わっていた。尾根は小さなアップダウンで続いており、その途中で大きな岩が現れた。展望が良さそうなのでその上に上がってみることにした。すると思った通りにまずまずの展望があり、北に見える竜ヶ岳は間近なだけに大きかった。その左奥には三国岳も覗いていた。その位置を過ぎると大井戸山の山頂部が木立を通して見えてきた。山頂は南北に延びる国境尾根から西に派生しているので、南西に見る形だった。程なくその大井戸山への分岐点に着いて、右へと大井戸山の尾根に入った。それまでも露岩を点々と見ていたが、こちらの尾根は痩せ尾根になっており、更に露岩が目立ってきた。その尾根上を歩くこともあれば、尾根の直下を巻く形で歩くこともあった。その途中で尾根の展望地に出た。尾根の先には山頂が見えており、南東には篠ヶ峰がどっしりとした姿を現していた。そしてその間には多可町の低山が広がっていたが、そちらは逆光で淡い見え方になっていた。もう山頂まで僅かな距離だった。その山頂へと近づくとやや急坂となって岩が目立ったが、登るのは易しかった。そして上り詰めた所に四等三角点がぽつんと置かれていた。そこはごく狭いピークだった。そこを山頂と呼ぶべきだろうが、山頂の雰囲気があったのはそこより今少し西へと辿った所で、山頂より僅かに低い位置だった。そこは木立が疎らなうえに平らになっており、休むのに良い感じの所だった。そちらに移動して休憩とする。ここまでで登山口から75分だったが、けっこう休憩をしながらだったので、この大井戸山のメインコースはごく気楽な道と言えそうだった。その休憩ポイントはその先で急坂になっているため、すかっとした展望が広がっていた。笠形山から千ヶ峰と、多可町の主立った山が一望だった。暫し涼しい風に吹かれながらこの大展望を楽しんだ。山頂に留まっていたのは30分ほど。そこで切り上げることにしたが、それでもまだ11時前だった。下山は同じ道を戻ることになる。その帰路の途中で昼休憩をすることにした。国境尾根に出て少し歩くと、東の展望の良さそうな岩場が現れた。そこで足を止めることにした。正面には篠ヶ峰がどっしりと立っており、その左手は丹波の山並みが広がっている。安全山や五台山が良く見えていた。それを見ながらの昼休憩だった。この大井戸山に登る前は、大井戸山だけで物足りないときは尾根を北へと歩いて、竜ヶ岳の山頂を踏むのも悪くないと考えていたのだが、この展望と変化に富んだコースを歩いたことで十分に楽しんだ思いになっていた。そして同じ展望を竜ヶ岳でも味わえば、大井戸山の印象が薄れるだけではと思えてきた。そこでそのまま下山することにした。その位置より先はごく普通の山道の雰囲気となり、清水坂へそして駐車地点へと戻って行った。下山を終えたときはちょうど12時。竜ヶ岳には登らなかったが、そのまま帰るのはもったいなく、ごく簡単な山をもう一山登ることにした。そこで「丹波和田」の地図を開いて大井戸山を中心に眺めた。そして大井戸山の南に小さく佇む410mピーク(打越山)を見つけると、そそくさと大井戸山登山口を後にした。
(2008/11記)(2018/11写真改訂) |