TAJIHM の 兵庫の山めぐり <西播磨編・鳥取県の山> 
 
波佐利山  No.4 1191.7m
  宍粟市・若桜町(鳥取県)
大ボウシ No.2 1059.1m
  若桜町(鳥取県)
 
1/2.5万地図 : 岩屋堂 2009-64(TAJI)
 
【2009年6月】 (大ボウシ)  
 
    《波佐利山》  県境尾根を北の位置より  2009 / 6 《大ボウシ》  三室山山頂より  2008 / 7

 今でこそ波佐利山は宍粟50山に選ばれて認知度は上がっているが、それまでは兵庫、鳥取の県境尾根にある無名ピークで、三角点があるからこそヤブ山好きに登られていたぐらいの山だったのではと思われる。その波佐利の名は鳥取側の川がハサリ川とあり、元々は鳥取側の呼び名で、名の付く限りはその姿が認められていたと考えられる。実際に99年に大ボウシを登ったとき、県境尾根のピークが眺められたのだが、その中で赤谷山と波佐利山は目立っていた。その波佐利山を波佐利の地である鳥取側から登ってみたいと考えるようになったのは、2008年の秋に赤谷山を登った頃からで、県境尾根のササの弱り具合、枯れ具合からして、さほど厳しさも無く登れるのではと思えた。波佐利山の北の尾根は05年秋に歩いており、また大ボウシ登山の経験も考慮してそのように考えた。その鳥取側から波佐利山を目指すルートを具体的に考えていったとき、往路コースはハサリ林道終点より県境尾根を目指すものの、下山コースは大ボウシへと続く尾根からとした。その下山コースを考えていたとき、どうせなら大ボウシまで歩いてしまおうと考えが膨らんだ。そして実行したのが2009年に入った6月の第二金曜日のことで、この日は平日のためパートナーは誘わず単独で向かった。
 どう考えても登山時間は長くなりそうなので、朝に目覚めるとすぐに自宅を離れた。まだ5時半と早朝の時間だった。この日の空は少しうっすらとしていたが、まずまずの晴れようだった。朝の気温はこの季節にしては低いようで、戸倉トンネルが近づいたとき、道路そばの温度表示は11℃を示していた。鳥取側に入り、落折第一洞門を抜け第二洞門を抜けた所で、左手のハサリ林道に入った。ダートの林道で、ハサリ川に沿ってずっと続いている。途中で車の底を路上の石で何度かこすったが、さほど悪い道でも無かった。そのハサリ林道を中程まで進んで何度目かの小橋を渡る位置で支林道が分かれた。その位置に駐車とした。林道終点までまだ距離はあったが、下山のことを考えてその位置としたものである。ハサリ林道を南へと歩き出す。林道にはトラックの轍がはっきり付いており、よく作業が行われているようだった。朝の空気はひんやりとしており、温度計を見ると13℃を示していた。10分ほど歩くと岩根森林小屋の名の作業小屋が現れた。前回の大ボウシ登山では、たしかこの位置に下山したはずだった。その小屋の佇まいはあまり変わっていないようだった。林道は緩やかなまま続いており、周囲もずっと植林地だった。その植林はハサリ国有林で手入れが行き届いており、美林と呼べそうだった。林道はハサリ川を渡って東に向きを変えると、程なく終点となった。辺りは広場のようになっており、近くに堰堤が見えていた。その堰堤そばより東へと登って尾根を目指すことにする。始めは植林地だったが、すぐにクマザサの混じる自然林の中を登るようになった。そこでもササは枯れかかっており、弱々しい感じで、手で押せばポキポキと折れるものもあった。そのササを掴みながら傾斜のきつい斜面を登って行った。そのうちに傾斜は緩やかになり、自然と尾根を登るようになった。南東の方向に向かっている尾根で、県境尾根の標高1130m辺りに出るはずだった。尾根歩きとなってササは疎らになり、ときに消えてしまうのかと思うほど少なくなることがあったが、また増えたりした。増えたり減ったりと軽いヤブコギ程度で登って行けたが、ササの枯れ具合からして以前は密生して、かなり厳しい尾根だったことと思われた。ササの新しい芽をほとんど見ないので、やはり鹿の食害で弱っているのかもしれなかった。そうなるとこの尾根も、いずれはザサが消えてしまうのではと思われた。そのササの中にブナが目に付くようになった。ときに風格のある大木も現れた。尾根の中ほどを過ぎると、右前方に木立を通して高い山が見えるようになった。その方向からして波佐利山のようで、鳥取側から見る波佐利山はいつも思うが端正な姿で悪くはなかった。県境尾根が近づくと、天然杉の巨木を見るようになった。そして足下ではギンリョウソウがよく目に付きだした。更に尾根を白にピンクが混じった釣り鐘状の花が飾るようになった。サラサドウダンのようで、これもあちらこちらに目に付くようになった。その雰囲気を楽しんでいると、ササが密生してきた。やはり気軽には上れない尾根である。そのササヤブ地を抜け出して辺りのササが減ったとき展望が現れた。そこはもう県境尾根といって良さそうな位置で、南に向かって開けていた。そしてそこに見えていたのはハサリ山で、まだ距離はかなりあった。その右手には三室山が一回り大きかった。暫しの休憩を取る。その辺りはなだらかなこともあって尾根筋がはっきりしていなかったため、南東方向へと適当に向かって行くと、けっこう厳しいクマザサのヤブに突っ込んでしまった。そのうちに尾根を辿れるようになったが、ササは少し疎らになった程度だった。ただ確実に弱々しくはなっていた。ただその位置まで来れば二度目のコースで、気分的には楽だった。また尾根歩きとなって涼しい風を受けることになり、これはありがたかった。県境尾根を南へと歩くうちに左手の兵庫側が覗くことがあったが、山深い地だけに目立つピークとしては波佐利山から南東へ派生する尾根にある1161mピークぐらいだった。周囲はずっとササと自然林が続いており、ときに自然林の美しさに足を止めた。一度、左手にササ地が広がったときその風景を見ようと尾根を外すと、猛烈なネマガリダケ帯に突っ込んでしまった。尾根に戻るのにも一苦労で、やはり厳しい面はまだまだ残っていた。緩く下って鞍部に着く。地図を見ると1070mの位置だった。その辺りは裸地になっていた。そこより1166mピークへと緩やかに登り返す。足下のササは煩わしかったが、尾根は緩いのでゆったりと登って行けた。そのとき北方向の木立が空いたときがあり、何が見えるかと近づくと、そこに見えたのは氷ノ山だった。山中での一服の清涼剤だった。1166mピークが間近になったとき、尾根でもネマガリダケが繁り出した。体全体で押しながら登らねばならず、これは依然と変わらぬ厳しさだった。ただそのネマガリダケ帯も新しい芽はほとんど見ず、あってもかじられていることが多かった。ネマガリダケ帯を抜け出て1166mピークに着いたときは、県境尾根を歩き始めてから1時間経っていた。そこは自然林に囲まれて穏やかな風情を漂わせていた。そこよりササは次第に減って、尾根はずっと歩き易くなった。またこの一帯では唯一と思われる遠くまでの展望も現れた。それは東の方向で、藤無山に三久安山、阿舎利山と宍粟の名山が一望だった。もうのんびりムードで緩やかに登って行くと、11時過ぎに波佐利山山頂に着いた。歩き始めてから3時間と40分が経過していた。途中で何度も休憩していたが、やはり奥深い山だと思わずにはいられない。波佐利山山頂には新しく山名標柱も立って、山頂の雰囲気は以前よりも出ていたが、雑木が半分、植林が半分の少し雑然とした様子は以前のままと言えた。ただサラサドウダンが満開の花をつけて目を楽しませてくれた。その波佐利山山頂で新しく気付いたのは、ごくそばから氷ノ山が見えることだった。それは小さな標識で知ったのだが、少し下った位置より氷ノ山の南面が意外とすっきり望まれた。辺りは自然林が疎らになっており、それならば赤谷山も見えるはずと、少し辺りを探ってみた。すると期待に違わずササで山頂を覆われた赤谷山の丸やかな山頂が木立の間から覗いていた。この波佐利山で少し早かったが昼食どきとした。そしていよいよ大ボウシへの尾根へと向かうことにする。実はこの尾根歩きがこの日の一番の期待だった。地図で見る限りはひたすらなだらかに尾根が続いており、厳しいのか優しいのか楽しみだった。県境尾根を歩いて来た方向に僅かに戻ると、北西方向にはっきりとした尾根が分かれた。それが県境尾根の続きだった。杉の植林地を緩やかに下っていると、倒木地があってそこからは西の風景が覗いていた。何が見えるのだろうかと倒木の上に立つと、大きくくらますが見えており、その右手には東山も見えていた。その頃には上空は薄雲が広がっており、どちらの山も薄暗く見えていた。1130mピークに着いて、そこより県境尾根を離れて北尾根、大ボウシの尾根へと入った。そこまでは植林の尾根だったが、鳥取側に入ると自然林とササの風景が続くことになった。ひたすら緩やかな尾根で、ササも疎らで気分的には楽だった。その中に鹿の角を見つけることもあった。ただ周囲はすっかり木立が囲んでおり、展望は全く無かった。常に頭の中に現在地をイメージしながら歩いていないと、どこを歩いているのかさっぱり分からない。ただそれだけに山深さと自然らしさは十分だった。その歩き易さはササが枯れて少なくなっているおかげだったが、そのササがときおり密生していることがあり、そうなると意外とやっかいだった。ササの折れ口が尖っており、それをかき分けていると何度とズボンを通して足をひっかいた。県境尾根でもひっかいていたのだが、そこは枯れ方が進んでいるのか突き刺さるようにひっかくことがあり、その度に痛みが走った。もう足は傷だらけと言うか血だらけだった。手も当然ひっかいている。それがあるのでけっこう厳しいとも言えたが、周囲の風景はひたすら優しげだった。自然は厳しくも美しいと思ってしまった。尾根は変わらず緩やかに続いていたが、尾根筋としてははっきりしていたので、逸れる心配は無かった。そのうちに緩やかな登り坂があり、小さなピークに着いた。歩いて来た時間からして1090mピークのようだった。それに違いは無かったようで、その先で暫く下りがあり、960mの鞍部に着いた。ほぼ位置がつかめたことで一休みする。それにしても自然の尾根と言うか、波佐利山を離れてからここまでで、鹿の角を3本も拾ってしまった。その辺りはササはけっこう減っており、消えている所も見られた。もうその位置まで来れば二度目の尾根なのだが、その10年前と比べると確実にササは減っていた。あと数年もすればすっかり消えてしまうのかもしれないようだった。その先で尾根は少し複雑になるので、改めて地図を見直して大ボウシまでの地形を頭に描いた。そして尾根を登り返した。その登りの途中で北の木立が疎らになることがあり、そこから氷ノ山の三ノ丸が覗いていた。考えればこの大ボウシの尾根に入ってから初めての展望らしい展望だったのではと思えた。それだけ木立が深かったことになる。大ボウシに着いたのは14時前。波佐利山からここまで2時間だった。ここまでひたすらササと自然林の風景の中を歩いて来ており、特に厳しいヤブコギも無かったようで、中国山地の自然らしさを十分に楽しめたと言えそうだった。その大ボウシの山頂もササと自然林の風景だった。ササは半分ほど枯れており、前回よりもずっとすっきりとした風景になっていた。そのササの中に三角点があり、そのそばになぜかギンリョウソウが群落を作っていた。その山頂の南側はほぼササが枯れてしまっており、ちょっと開けたようになっていた。そしてけっこう広く展望が現れていた。その頃には上空には青空が戻っており、その空の下に県境尾根の山々がくっきりと見えていた。赤谷山から波佐利山、三室山と一望だった。少し位置を変えればくらますも見えていた。この日の登山の掉尾を飾るに相応しい展望に、ちょっぴりうれしくなった。気持ちもすっきりとハサリ林道へと下山に向かった。歩いて来た尾根を700mほど戻って1010mほどの小さなピークに立った。そこから駐車地点そばに向かっている北東方向への小さな尾根を下って行った。尾根は植林地で、ササは疎らだった。尾根筋がはっきりしていないため適当に下って行くと、更にはっきりしなくなった。ただそれも地図通りのことなので、方向を定めて下って行くしかなかった。次第に左手の谷筋へと近づいたが、谷には下りないようにして急斜面を斜めに横切るように下って行くと、谷の先に堰堤が見えて来た。その堰堤に近づくように下って堰堤の上に立ってみると、もう林道は目の前で、そこには自分の車さえ見えていた。どんぴしゃりで下り着いたようだった。まだ明るいうちに終了出来たことに一安心するとともに、一日中山深い地で過ごせたことに十分に満足の思いだった。それにしても手足ともに切り傷だらけで50カ所以上切り傷を作ってしまったのは、ちょっと計算外だった。どうやら枯れたクマザサのヤブコギには厚手のズボンが必要なようだった。
 ところでこの波佐利山の「はさり」だが、どうも鳥取側では「羽佐利」の字が使われているようで、林道の途中にあった森林小屋は「羽佐利岩根森林小屋」と書かれていた。そうなると波佐利の名は兵庫側の地名だったのかと新たな疑問がわいてきた。
(2009/7記)(2019/6写真改訂)
<登山日> 2009年6月12日 7:22スタート/7:34岩根森林小屋/7:45林道終点/9:08〜23県境尾根の展望地/10:28〜35[1166m]ピーク/11:04〜45波佐利山/11:58〜12:04/[1130m]ピーク/12:53〜56[1090m]ピーク/13:08〜12[960m]鞍部/13:51〜14:28大ボウシ/14:56〜15:00尾根を離れる位置で休憩/15:40エンド。
(天気) 晴れ。少しうっすらとした空だった。昼ごろには一時的に薄雲が広がって薄晴れとなったが、その後は晴れ間が戻ってきた。朝の林道は少し冷え込んでおり、13℃ほどだった。その後は気温は上がって、波佐利山では21℃となってちょうど良い感じだった。また尾根では終始涼しい風が吹いており、爽やかだった。視界はまずまず良かった。
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ハサリ林道を中ほどまで進んだ位置に駐車した 歩き出すと、程なく岩根森林小屋に出会った 整然とした植林地の中を林道は続いた
林道終点に着いて、堰堤のそばから登り出す 登り出すと自然林が辺りに広がった 但し、クマザサをかき分けての登りだった
ササは枯れかけている所が多かった 尾根歩きとなってササが消えている所も現れた ブナの巨木を見上げる
杉の巨木を見上げる 木立を通して波佐利山の山頂が見えた ときおりギンリョウソウを見かけた
尾根ではサラサドウダンをよく見た ときにササのヤブコギとなった ずっと自然林とササの尾根だった

県境尾根が間近と
なって展望地が現
れた 手頃な木に
登ると、いっそう
広く眺められた
上の写真に写る「くらます」を大きく見る 満開のタニウツギを見た 県境尾根歩きとなってもササと自然林が続いた
左手の木立が切れて、笹原の風景が広がった 左の風景を見た後にササヤブに突っ込んだ
突然のように、氷ノ山が現れた 左の写真に写る山頂部を拡大して見る
自然林はずっと美しかった 1166mピークの手前はネマガリダケだった 1166mピークからはササが減ってきた

1166mピーク
を過ぎて波佐利山
の山頂が近づくと
東の方向に展望が
現れた
上の写真の須留ヶ峰を大きく見る 上の写真の藤無山を大きく見る 上の写真の阿舎利山を大きく見る
展望地を過ぎると一段と歩き易くなった ブナの風情が優しかった 波佐利山山頂が間近になると、周囲は杉林となった
波佐利山山頂に着いた 山頂は相変わらず雑然とした雰囲気だった 山頂でもサラサドウダンが満開だった

山頂では氷ノ山の
良く見える所があ
った

氷ノ山の見える位
置の近くからは赤
谷山もちらりと望
まれた
波佐利山を離れて大ボウシに繋がる尾根に入った 見事なブナを見上げた 一度、前方に東山を見る
1090mピークは、自然林が美しかった 960m鞍部はほとんどササが見られなかった 僅かな距離で鹿の角を3本も拾ってしまった
大ボウシへと登って行く ササは確実に減っていた 大ボウシの山頂に着くと一帯のササは枯れかけていた 大ボウシの三等三角点(点名・大宝)を見る
三角点のそばでギンリョウソウの群落を見た 大ボウシも自然林の風情が美しかった 山頂の南側はササが枯れて開けていた

上の写真の位置は
ちょっとした展望
地だった 県境尾
根が一望だった
上の写真に写る赤谷山を大きく見る 上の写真に写る波佐利山を大きく見る 上の写真の右手には「くらます」も覗いていた
1010mピークまで戻って、そこより北東へと植林
の中を下って行った
下山の尾根でも自然林が優しかった 堰堤の位置に下り着いた 駐車地点はすぐそばだった